テレビ逆取材・ クリエイティブってなんだ? |
クリエイティブというものを考えようという番組が、 |
第29回 詠みひと知らずの『うた』 [今回の内容] 第3夜目、ポストペット制作などで知られている メディアアーティスト・八谷和彦さんとの対談は、 1・どんな理由で何を作りたいのか? 2・具体的にそれをどうかたちにするのか? のふたつについて、お互いの課題と問題意識を しゃべりあうものになっていたように思います。 八谷さんについて、糸井重里の感じたことを訊きました。 (八谷さんには、「ほぼ日」でも以前に、 https://www.1101.com/P_P_P/index.html こちらの「アートとマーケの幸福な結婚」で 話をうかがっています。興味のある人は、どうぞ) (※いま、8月29日(火)・30日(水)の深夜25:15から、 NHK教育テレビで、番組を再放送します。 「見逃したから、再放送してください」という メールをくれたみなさん、よかったらご覧ください) ----八谷さんと、クリエイティブについて 話してみたかった理由は、なんですか? 「『クリエイティブそのものがなければ、 マーケティングがいくらできても仕方がないし、 ものも売れていかないんだ』ということが、 まだ、意外と理解されていないと感じます。 そういう態度があるから、仕組みさえあれば クリエイティブなんて、どこかの誰かがやるだろう? という考えを多くの人が持っているんだけど・・・。 クリエイティブなものを作る人の数は、 そういうわけで、実はとっても少ないんです。 それをぼくは、いちばんの問題だと思っています。 よく『楽しいコンテンツで人を惹きつける』なんて 企画書に書いてあるけど、そんなコンテンツは、 作り手がいなければ、永遠に出てきやしない。 『楽しいコンテンツ』という企画書だけがある状態は、 『映画館を山ほど作ったのに映画がない』 みたいなものです。で、マーケティング調査で 『どういう映画が好き?』ってお客さんに聞いて、 それにあわせて作りました、という種類の コンテンツだけは、いくらでもある時代ですよね? でも、クリエイティブは、 そんなに簡単なものじゃなくて、おおげさに言えば、 無から有を作るぐらいに面倒くさいことだと思います。 工業製品を工場で生産する時とはぜんぜん違うので、 できないときはできないものでもありますし、 作り手本人の今まで生きてきた歴史の要素が、 ぜんぶ入ってくるというようなものがあって・・・。 そんな中で、八谷さんは、若いけれども、 たくさんの数のクリエイティブな仕事をしてきたな、 という印象がぼくにはありまして。 ほんとうに、いちばんやりたいことを やっている人だなあと感じているんです。 直接に話していない時から思っていたのは、 『やりたいことをやるのと同時に、 自分のやりたいことをやるための、 見えない努力をちゃんとやっている人だなあ』 ということです。 好きだからやるというだけではなくて、 『やりたいことがあるのなら、こういうことを きちんとやっていないと、できなくなっちゃう。 ただわがままに、しゃにむにやるだけじゃだめだ』 というようなことを知っているなあと感じたから、 だから、お会いしてみたいと思っていました。 例えば、八谷さんは、 ひとりで何でも抱えるのではなくて、 人に任せるふんぎりもいいんですよね。 『俺は2番を打つから、お前4番打てよ』 みたいに、チームのぜんぶを見ながら、 同時に自分を生かしていきます。 人間、からだはひとつしかないので、そういう判断は 誰にとっても、なかなか難しいことだと思うんだけど、 八谷さんは、そのへんのバランスがいい。 そこのヒントは『8時間は寝ていますよ』と 彼がおっしゃっているようなところに、 方法があるのかもしれないです。 忙しくなっちゃうと、まわりのことか自分のことか、 どちらかしか見られなくなってしまいますから。 まわりも自分も両方を考えてバランスを取っていくには ちゃんとした健康やゆとりだとかがないと・・・。 そうしないと、高い面から見られない。 今いる平面からしか見られないと、 まわりが見られなくなってしまうと思うから。 八谷さんのそういう姿勢は、すごく大切だと感じます」 ----八谷さんのクリエイティブ観で惹かれたことは? 「『ものを作る動機は?』というディレクターの問いに、 『動機というか・・・人に、表現をさせたいんです』 というように答えていたのは、八谷さんらしいよなあ。 ぼく、それは、すごくよくわかります。 八谷さんが視聴覚交換マシンを作った時にも、 (※この作品について詳しく知りたいかたは、こちら) 作ることで終わるのではなくて、作品ができて、 人に使われることで、予想以上の動きを出せている。 八谷さんは、いつでも、人と人との コミュニケーションを考えているんだなあと思います。 アートへの考えが高度になればなるほど、 どうしても、それをわかるひとに理解されたい、 そこで、とても親しい仲間内に楽しんでもらうだとか その仲間にほめてもらうだとかいうことのために、 狭い世界で磨いていく、となりがちじゃないですか? そんな場合には誰にも理解されないような世界が、 かなり気持ちよかったりする。 だけど、八谷さんは、そうではない。 『理解されない誰かとのコミュニケーションをする』 という姿勢を、きちんと把握している。 だから、いつも作品がおもしろいんです。 もともと、コンサルティングの会社にいて、 それを辞めてアーティストになった人だから、 その決断に、はっきりとした動機がありますよね? ・・・つまり、コンサルティングという仕事として、 『自分の顧客の企業を、どのように方向づけるか?』 と、企業から出された球を上手に打ち返すことよりも、 もう、自分の球を投げる側に立ちたいんだ、という。 その気持ちは、人生賭けたぐらいによくわかります。 だから八谷さんの作品は、投げこむもので、 作った時点では完結しないものばかりです。 タネのような役割をしなら、鳥のフンに紛れたりして、 あとで、タンポポの芽をどこかに吹かせたり・・・。 違う芽を出させることで、違う仕事が増えたり、 個人の作品を通じて、やることがとても拡がっていく、 そういうのが八谷さんのアート行為かもしれません。 『ポストペット』は、ソフトとしては パッケージされてできあがった形をしていますが、 配られてからも、八谷さんの アートパフォーマンスは、つながっている。 ポストペットを使って喧嘩をしたり仲直りをしたり、 ソフトを使うことで、つながっているんです。 八谷さんは、投げこむことがしたいんだから、 『これを作ったのが八谷だ』とは 知られなくてもいい雰囲気にいます。 その状態にすごく近いのは、『うた』。和歌ですよね。 『詠みびと知らず』になっていたとしても、 そのままうたい継がれて、誰かをはげましたり、 知らない誰かにうったえるものがありつづけてる。 八谷さんのアーティストとしての動機は、 何かを広めたり、ふくらませたり、増やしたり、 豊かにさせたり・・・そういう風媒花みたいなもので、 『これなんです』って限定できるものではない。 ぼくが今インターネットをやっていても、 『詠みびと知らず』の状態になっても 何かが伝わっていくというのが、夢ですよね。 それに、八谷さんは、 『つまらないやり方で成功するよりも、 おもしろい失敗のほうが、あとにつながる』 とおっしゃったり、普通の人よりも、 時間軸を長くとって考えているんですよね。 ぼくは、それを聞いて、矢沢永吉を思い出した。 すごい若い頃にエーちゃんを取材した時、 『生まれた時には、一回戦で負けていた』 と言っていて。つまり、彼は負けの境遇で生まれてた。 『親父の代では負けた。でも、俺の代では勝ってやる』 ・・・ぼく、この言葉に、妙に打たれたんだよね。 普通、一回戦で負けていると、あきらめるんですよ。 『負けている境遇の俺が、これからどうやって、 更に踏みつぶされることを防いでいけばいいの?』 ということだけを思いがちなんだけど、そこで、 『じゃあ、二回戦だ』と考える発想が、 一貫して彼を支えているんだと、ぼくは思います。 八谷さんにも、それに似たものを感じます。 自分の中に財産をためておいて、 それを使ってどうのこうの、というよりは、 失敗までも使って次の何かを作っていこうだとか、 新天地に行ってやろうだとか、なんだかそういう、 動いた思想のようなものを、非常に強く感じます。 定住をしていないし。 ひとつ何かを作り終わったあとにでも、 八谷さんの欲望は、いつも必ず作る側に向かっている。 終わった後に『もの買って楽しもう』と思っていない。 ・・・売っているものを、欲しがっていないですよね? 買えるもので得られる喜びって たかが知れてるんだということを、八谷さんは、 なんでこんなに若くして、わかっているのかなあ」 ★すでに自分の持っている財産としてのものを 差し出す以上のことを、八谷和彦さんと糸井重里は 「クリエイティブ」に求めているみたいです。 このふたりは、受け取った人たちの中に、 自分が意図して作った以上の何かが生まれて、 しかも詠みひと知らずの「うた」のように、 その反応が連鎖的に続くことを欲しているのかな? 談話を聞きながら、そのようなことを思っていました。 今回で「テレビ逆取材」は、ひとまず終わります。 ・・・クリエイティブって、どういうものなのか? 第29回までに、いろいろな考えが出てきましたが、 「これだ!」と結論を言えるまでに至りませんでした。 だけど、ヒントは出てきはじめているような気が・・・? そんなヒントのあたりから、ひきつづき「ほぼ日」は、 ぼちぼち寄り道をして、考えていこうと思っています。 また、別のコーナーでお会いしましょう。 読んでくれたみなさん、番組を観てくれたかたがた、 どうもありがとうございました。 (おわり) |
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2000-08-29-TUE
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