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テレビ逆取材・
クリエイティブってなんだ?

第10回  ものすごく一生懸命に生きていれば、
      同じように思う人と、出会えるかもしれない




[今回の内容]
ひきつづき、根岸弓さんへのインタビューです。
「自分だけを考えてる人は、その人の未来しか開けない」
というスタンスを持っているというのが前回の話でした。
「どのようなことを伝えたいのか?」
「なぜ、何を、何のために、どうわかりたいのか?」
今回はそういった点について、更に訊ねてみました。
どのような番組を作るのかに関わった話になっています。




(移動中のdarling、根岸弓さん、八谷和彦さん)


----番組を観た人に伝わって欲しいことは、何ですか?

「あなたの本当のクリエイティブを見つけてください、
 という、それだけです。それ以外にはないですね。
 『これがクリエイティブです』
 というのを伝えたいわけではなくて、
 それぞれの人がそれぞれのクリエイティブを
 見つけるしかないのが、今の時期なんだと感じます。
 自分の価値を見つけて頑張っていくということは、
 実は、ものすごく大変だし、辛いし、
 それに、難しいことだとも思うんですよね。
 だから、それよりもむしろ、
 『自分の価値なんかどうでもいいや』って、
 そういうことを忘れて楽しく生きればいい、
 というような考えも、あるでしょう。
 楽しいことならいっぱいあるし、
 それでわーっと騒いでいる中からのほうが、実は
 本当のクリエイティブが生まれるかもしれないし。

 ただ、これは夜の10時に見る番組なんです。
 一日の仕事が終わってからの時間帯で、
 基本的には独りで見る番組になると思います。
 そこで、自分の今日の一日って何だったんだろう?
 何かクリエイティブなことをしたのだろうか?
 ・・・自分は、何かを、したのだろうか?
 そうやって、振り返る機会になる。
 そこで、見城さんや陽水さんを出して、
 こんなことでやっているおじさんもいるんだよ、
 と、そこで私は見せたいなあと思います。
 しかも、見城さんたちを、ただすごいという
 遠い存在として感じるわけではなくて、
 自分はこのひとたちに比べてどうだったのかなあ?
 と、おんなじ人間として考えて欲しいという、
 まあ、おせっかいのようなものを伝えたいのでしょう。
 悩みを抱えている人や前に進めないでいる人にも
 今まで他番組で、取材を通して出会ってきているので、
 そういう人が観たらきっと力が出ると思うし・・・。

 八谷和彦さんのところに
 はじめて打ち合わせに行った時に、
 『みんなは、問題を発見することを怠っているんです』
 と言っていました。
 その時に私は、八谷さんを動かす力って、
 問題を発見して前に進むことなんだと思ったんです。
 ・・・でも多くの人は問題を発見もしてないし
 前にも進んでいない、と八谷さんが感じていて、
 それを放送するのだから、観ている人にとっては、
 何だか、居心地の悪い番組になりそうですね。
 『ああ、おもしろい』『いい話だった』
 そういうような話ではないですから、
 すごくうっとうしい番組になると思います。

 いいドキュメンタリーというのは、
 けっこう多くあるでしょう?
 いい人が出てきて、いいことをして、
 今日もどこかでいいことが行われている・・・
 そういうのに涙してしまう自分もいるんですけど、
 だけど、そういうものって、消えちゃうんですよね。
 明日から自分は何かするかなというと、
 ああ、何かいいことがあったな、
 というようなことしか心に残らない。
 今回の番組では、私は、観た人にも、
 何かが起こって欲しいと思っています。

 だから、居心地のよくない番組にはしたいけど、
 そのためにえぐい方法をやりたくもなくて。
 ・・・よくあるでしょう?
 すごく苦労をしている人だとか
 ネガティブなこととかを出して、
 どうだ、これを見てお前はどう思うんだ?みたいな。
 それは、やりたくない。
 いい気持ちにもなって、だけど、
 何かが起きるようなものを作りたい。
 能天気にできないことはわかっているけど、
 暗いニュースをいくら聞いても、
 明日への活力にはならないですから。

 今回のようなテーマで何かを伝える方法としては、
 私は、茶化す方法ではないなあ、と感じました。
 パロディとか茶化したりすることを
 逆にまじめにやるというのもすごいことで、
 とても高度なものだとは思いますし、
 成功すればほんとにいいんだけど、
 ちょっと私はめんどくさいと考えたんですね。
 もともと糸井さんが
 『あ、遊び好きな人でしょう?』
 と見られている逆効果もあるかなあと思うし。
 糸井さんは、全然、遊びではやっていない・・・
 と言うか、ほんとのところは
 遊びでやっているんだけども、
 表面的におもしろがるような遊びをしたくて
 『ほぼ日刊イトイ新聞』をやっている、
 というわけではないですよね。
 糸井さん本人もストレートに語りたいのかな?と
 私は思ったから、真面目につくりたいんです。

----根岸さんが『わかる気持ちが人一倍強い』と
  おっしゃっていることに興味を持ったのですが、
  なんで、何かをわかりたいのだと思いますか?


「うーん・・・。
 わかんないことがいっぱいあるし、
 生きる意味が、よくわからないから・・・。
 ほんとに、それだけだと思います。
 でも、ほんとは『わかりたい』ということだけで、
 ずーっと続けていくのは、違うのかもしれないけど。
 ただ、『何かをわかりたい』ということは、
 コミュニケーションと関係があるような・・・。

 えっと、これは最近思っているのですが、
 テレビの制作をしているような人間は、病気なんです。
 多くの人が、コミュニケーションに
 障害を持っているんじゃないかと感じます。
 例えば、この番組のプロデューサーの長嶋にしても、
 ディレクターの宇野や私にしても、全員、
 人と普通のコミュニケーションを
 取れないというところがあるんですよ。
 そう簡単に人と友達になれない、というか、
 仕事を通じてしか人と関われない、そんなような。
 
 私の世代よりも年下の人たちは、
 人とあんまり関わらないというのが、あるでしょう?
 『みんな、傷つかないで接することはうまいけど、
  別に深い話をするような人間関係を、持たない。
  と言うか、そういう人間関係を、持てない』
 テレビや新聞で私たちはそう言われていましたけど、
 自分でも、それを感じていたんですよね。
 小学校の頃から毎日が上滑りのような気がしていて、
 『みんなは、こんなので楽しいんだろうか?』
 と、自分も含めてみんながおんなじに見えていました。
 だから、ほんとは人と話をしたいと思いますよね?
 『もっと人が好きになりたいのに、人と関われない』
 という欲求不満があって、友達どうしの関係でも
 中学生高校生くらいまで、真剣に悩んでました。
 もちろん、学校にはすごく楽しく行っていたし、
 皆勤賞をもらうぐらいなんだけど、その裏では、
 こんな嘘の関係は、嫌で嫌でたまらないと思っていて。 
 この場所にいたのではだめだろうと思って、
 どうしたもっと人と関われて、というか、
 もっと深いことになるんだろうと考えました。

 ・・・そこで、私の中の結論としては、
 自分がものすごく一生懸命に生きていれば、きっと、
 同じようにどこかで一生懸命生きている人がいて、
 その人たちと、どこかで接点があることになる・・・
 そういう人と出会えるだろうというようなことを、
 何かもう、信じてしまうことにしました。
 そうやって大学に進んだら、あまり多くではないけど
 ほんとに友達だと思える子に何人か出会えて、
 ああ、やっぱりだんだん会えるんだなあと思いました。
 そうするとどんどん、また一生懸命やっていれば
 誰かと会えるんじゃないか?という期待があって、
 この仕事についたのも、
 その延長のような気がしています。

 小学校の頃には転校生で、学校を4つ移りました。
 転校生って、やっぱり人とのつながりに冷めちゃう。
 枡野浩一さんもそうやって本に書いていたけれど、
 転校生は『引く』しかないんですよ。
 とりあえず引いたところでものを見ているでしょう?
 そういう人間との関わり方を知っていると、
 小さいときからその土地で育って、みんなが友達で、
 そこで何かを素直に信じている、ということに対して、
 そんなはずないじゃないか?と思ってしまうんです。
 例えば、学校の中での先生と生徒、
 それから生徒同士の関係も、
 ぜんぶ社会的なシステムに見えていまして。
 小学校を4つも代われば、いいかげん、
 どこにいっても学校の中の関係というのは
 似た感じだというのが、わかってしまうから、
 『人間の個性なんてないじゃないか』と思ってました。
 そこで素直に信じる自分はいないわけだから、
 どうしても人に対してワンクッションを置いちゃう。
 そうなると、人間関係について考えざるを得なくて、
 これは一体、何なんだ?みたいな・・・
 それが『わかりたい』のはじまりだと思うんですけど」




★創作活動は、欠けたものを修正するために
 行われるというような、昔からの言葉を、
 思い出しながら、静かに話を聞いていました。
 「自分がものすごく一生懸命に生きていれば、きっと、
  同じようにどこかで一生懸命生きている人がいて、
  その人たちと、どこかで出会えるだろう・・・
  それを、何かもう、信じてしまうことにしました」
 この言葉は、とても心に響きました。


(つづく)

2000-08-06-SUN

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