HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

yacmii刺繍展 しぜんなふしぜん

「yacmii(ヤクミィ)」という名前で刺繍をしている
ひとりの女性がいます。
彼女がつくる刺繍は、
何色もの糸が何重にも重ねられるのが特徴です。
なにもそこまで‥‥と思わせるほど何針も、
縫い固められてうまれる作品のなかには
立体的にたちあがり「自立」するものもあります。
丹念に、繊細に、
刺繍という表現・技術と向き合う彼女のことを
勝手ながら敬意を込めて、
「刺繍人(ししゅうびと)」と呼びます。

そんな刺繍人との出会いについて、
まずは糸井重里が話します。
続くインタビューは、浜松にある刺繍人のアトリエにて。
たっぷりと、うかがってきました。
どうぞゆっくりと、お読みください。

yacmii プロフィール


ふしぜんでしぜんが浮き上がる

yacmii
今回TOBICHIで展示するのは、
動物たちの刺繍もあるんですけど‥‥
▲『夜のおかし』
▲『夏のおかし』(※木のスプーンが刺繍です)
ほぼ日
ひゃーー! なんだこれ!
うなぎパイ!(笑)
このアイスの木のスプーンもかわいい!
yacmii
そう、今みたいに
友だちがおもしろがってくれたんですよね。
マッチがいちばん最初でした。
「どこにあるだろう? 」ってかくれんぼみたいに
本物と混ぜて写真を撮って発表したら
「このシリーズおもしろい」って。

すごく簡単な動機なんですけど、
そのリアクションがうれしくて
たべものとか身のまわりのものもつくるようになりました。
そうそう、このクッキー、触ってみてください。
ほぼ日
あ、硬い。ほんとにクッキーみたい。
yacmii
チューブでひねり出したみたいでしょう。
ほぼ日
ですね、凹凸がすごいしっかりしている。
焼いたあとの硬さですね、ちゃんと。
yacmii
あとは立体刺繍で
かくれんぼシリーズもつくってます。
イギリスへ短期留学してたとき
※このインタビューの直前に
 yacmiiさんは留学から帰ってきました。
ホストファミリーがこれを見て
「ギャーッ! ハチ~! 」って(笑)。
ほぼ日
わぁ、これすごい。
指に乗る大きさなのに
おなかのポコッとしてる部分も‥‥。
これが針と糸でつくられてるなんて
実物を見てるのに信じられないです(笑)。

羽の美しさだけじゃない
生き物そのものな感じが‥‥あっ!
yacmii
あっ、きび! 食べちゃダメだよ!
一同
(笑)
yacmii
えーっと、なんの話でしたっけ(笑)。
そうそう、留学をしてるときでいうと
なぜかつくったものは
日本のものばかりでした。
折り鶴もそのひとつです。
ほぼ日
ただただ、すごいとしか言えません。
yacmii
ほかにもいくつかあるんです。
完成してないのでまだお見せできないんですけど‥‥。
いまはごはんをつくってます。
新作としてTOBICHIにならびます。
ほぼ日
え、お米、ひとつぶひとつぶが刺繍なんですか?!
yacmii
全部なんですよ。
バカじゃないの! ってじぶんでも思います(笑)。
ただ、それがやりたいことでもあって‥‥。

バカみたいに時間をかけて、
バカ真面目に刺繍をして、
「ん?」
と思ってもらえるものをつくりたかった。
ほぼ日
TOBICHIの展覧会には
そういう作品がたくさんならぶのでしょうか。
yacmii
はい。
今回は「しぜんなふしぜん」を
テーマにしようと。
そう思って作品をつくってきました。
ほぼ日
イメージとほんものの間だったり、
かくれんぼ刺繍だったり‥‥。
yacmii
ええ。「ふしぜん」があることで
「しぜん」が浮き上がるような感覚が
おもしろいと思って。
ほぼ日
どんな展示になるのか、たのしみです。
yacmii
それと大好きな動物の作品も
ご覧いただこうと思っています。
ほぼ日
最後に、ちょっと大げさな質問になるかもしれませんが
yacmiiさんの目指しているところ、
夢を聞かせていただけますでしょうか。
yacmii
夢ですか‥‥。
ええと、あるにはあるのですが‥‥。
ほぼ日
なんでしょう?
yacmii
ほそく、ながく、わたしの刺繍をさしつづけることが
まずはひとつの目標です。
じぶんに向き合ってつづけていくなかで、
じぶん自身で納得のいく作品ができたときに
外からも認めてもらえたら、もっとうれしい。
そうやって目指していく方向にある
いちばん高いところにある夢は、
わたしの作品が、国宝になればと思って‥‥。
ほぼ日
おぉー!! すごい、国宝!
yacmii
言わないと叶わないと思ったので言います(笑)。
ただ、いまはまだ研究の余地が大量にあるというか‥‥。
縫っても縫いきれない部分があるので
表現しきれてないんです。
ほぼ日
途中なんですね。
yacmii
はい。ぜんぜん途中です。
途中なんですけど‥‥
いつかは美術館に置けるくらいのものを
つくりたいと思っています。
そのために、完成度を
もっともっと上げることが目標です。
ほぼ日
そうですか。
美術館でyacmiiさんの刺繍を見る日を
たのしみにしています。
yacmii
ありがとうございます。
流行りとかで終わらせないように、
ちゃんと、こう、確かなものを
つくっていきます。
ほぼ日
今日はありがとうございました。
yacmii
こちらこそ、ありがとうございました。
ほぼ日
そうそう、TOBICHIでの展示では
ご来場の方ひとりひとりに
入り口で虫めがねをお渡ししようと考えています。
yacmii
ひとりに1本ですか。
ほぼ日
はい。
その場にいらっしゃるお客さま全員が
虫めがねを片手に
yacmiiさんの作品を見てまわるという体験が
たのしいかな、と。
yacmii
いいですね、よろしくお願いします。
わたしも展示がたのしみです。

(おわります)

2017-10-28 SAT

yacmii(ヤクミィ)

静岡県うまれ。多摩美術大学大学院 彫刻科卒業。
2011年よりyacmiiとして刺繍作品を制作。

作家名、yacmiiの由来は
「じぶんのつくる作品が日々の“薬味”になれば」という思いから。

これまでの展覧会には
「ひびの ことこと」展(2013 京都 恵文社)
「うみ の むれ」展(2014 京都 mina perhonen arkistot kyoto)
「けだま」展(2014 東京 銀座月光荘)
「おやすみ おはよう」展(2016 岡山 倉敷意匠アチブランチ)
などがある。

yacmii HP:http://yacmii.com/