- ──
- 少し前、気仙沼の知人が送ってくれた
生ワカメを
しゃぶしゃぶにして食べたとき、
こんなにおいしいものがあったのかと。
- 藤田
- ええ。
- ──
- 以来すっかり、
気仙沼のワカメのファンになりまして。
- 藤田
- ありがとうございます。
- ──
- お湯に通した瞬間に
サーッと緑色に変わるワカメだけを、
えんえん食べている。
もう、それだけで実に満足でした。
- 山田
- おいしいですもんね、本当に。
- ──
- メカブも、あんな「粘り」はじめて。
- 藤田
- 海から揚げたばっかりだから、
ふだん、ふつうに食べてるものとは、
ぜんぜんちがうと思います。
- ──
- しゃぶしゃぶにした生ワカメは、
気仙沼の唐桑のものだったんですが、
藤田さんは、気仙沼の南の玄関口、
こちら、階上(はしかみ)のほうで。
- 藤田
- ええ。
- ──
- かなり大規模に、やってらっしゃる。
- 藤田
- 気仙沼では、いちばんやってますね。
内湾の養殖場では、
54メートルのロープを2本張った筏で
95台、外洋では、
100メートルのロープを2本張った筏、
それが、21台。
- ──
- おお‥‥長そう。
- 藤田
- ロープの長さを足すと、
ここから、気仙沼市内まで届くくらい。
水揚げ番付といって、
誰がいくら取ったかみたいなやつでは、
ずっと「横綱」です。
- ──
- すごい。具体的には‥‥。
- 藤田
- メカブが1日300キロから350キロ。
で、ワカメが、たぶん‥‥
2トンちかくは、出てると思います。
- ──
- 1日に、その量ですか?
- 藤田
- ええ、1月から4月一杯くらいまで、
基本、毎日毎日、休みなく。
親父とふたりで別々の船で海に出て、
1回収穫して浜に揚げて、
そこからもう1回、収穫に行きます。
- ──
- じゃあ、1日に2回、採りに行って。
作業は早朝から、ですよね?
- 藤田
- うちは遅くて、朝の6時くらいから。
陸では、従業員が、揚げたワカメを、
切ったりボイルしたりしてます。
- ──
- 何にも知らなくて、すみません。
ワカメって、海のなかでは、
どんなふうに生えてるんですか。
- 藤田
- 天然もののワカメというものは、
岩場についていて、
根元のところにメカブがあって、
そこから、ゆらゆら、
葉っぱが上に伸びているんです。
- ──
- その葉っぱが、ワカメであると。
- 山田
- メカブは生殖細胞の集まった部分で、
ワカメ・メカブの収穫が終ったら、
残ったメカブから
次に養殖するための種をとるんです。
- 藤田
- そう。いちばん成長のいいメカブを、
次のために残しておく。
ちなみに、養殖ワカメの場合は、
ロープに種をつけるんで、
メカブが上でワカメが下になります。
- ──
- あ、天然ものと養殖は天地が逆。
- 藤田
- それが、外洋のものだと、
4メートルくらいに成長するんです。
内湾は水深が浅いので、
そこまで大きくはならないんですが。
- ──
- メカブというものが、
こんなふうにウネウネしたかたちを
していたということも、
そもそも、
ワカメの根元に付いてるのがメカブ、
ということも、
恥ずかしながら最近知った次第です。
- 藤田
- ああ、そういう人たまにいますね。
ワカメとコンブも違いますよ。
- ──
- はい、その件については大丈夫です。
- 山田
- そもそも、メカブが、
もともとのかたちで流通することは、
ほとんどないですもんね。
- 藤田
- 今の時期って、
メカブの収入の割合が大きいんです。
だから、メカブを成長させるために、
ワカメの本数を調整したりしてます。
- ──
- 本数?
- 藤田
- つまり、1株から
ワカメが20本、出ているメカブと、
5本しか出てないメカブでは、
5本のほうが、大きくなるんです。
- ──
- へええ、おもしろーい。
- 藤田
- メカブの場合、内湾でとれるものは
やわらかく大きく育って粘りが強く、
外洋のものは、
海が荒れるんで、かためになります。
そのことはワカメも同じなので、
外洋もののほうが、
シャキシャキとした歯応えが出ます。
- ──
- 同じ海といっても、
育つ場所によって違ってくるんだ。
- 藤田
- そう、身をかたくしないと、
生きていけないんです、外洋では。
- 山田
- 藤田さんみたいに、
内湾と外洋の両方でやっている人は、
けっこうめずらしいんですよ。
- ──
- あの生ワカメを手に入れるのは、
地元以外では、
なかなか難しいことでしょうか。
- 山田
- そうだと思いますが、
でも、塩蔵ワカメでも十分ですよ。
- ──
- 塩蔵。
- 藤田
- 湯通ししたワカメに塩を混ぜて
一昼夜漬け込み、
さらに最後に脱水をかけることで、
長期保存できるようになるんです。
- ──
- へえ‥‥。
- 藤田
- 俺が幼稚園くらいのころは、
まだ乾燥ワカメをやってたんです。
軒先に天日干しして、
そのあと乾燥場って倉庫のなかで
ボイラー焚いて、乾かして。
- ──
- 乾燥。パリパリしたやつですか?
- 藤田
- そう、でも昭和の終わりくらいに、
塩蔵に切り替えました。
乾燥って、どうしても、
乾燥場の広さ、キャパシティしだいで、
収穫量が決まっちゃう。
- ──
- ああ、なるほど。
- 藤田
- その点、塩蔵のほうが量もこなせるし、
日持ちもするし、
磯の香りも食感も残るんですよ。
- ──
- そうなんですか。
- 藤田
- ただ、世の中の塩蔵ワカメって、
無闇に塩を足してることが多いんです。
そうやって、重量を増やして
値段調整してるんですが、
それやっちゃうと、
身がやわらかくなりすぎちゃったりで、
ぜんぜん、おいしくない。
- ──
- あー、袋に「塩蔵」って書いてあれば、
いいってわけでもないんですね。
- 藤田
- だって塩水につけたような商品が、
スーパーの棚に、
いつ売れるかもわからない状態で、
並んでいるんですよ?
- ──
- そうか‥‥。
- 藤田
- その点では、
われわれ生産者は、塩を足すんじゃなく、
最後のところで、
塩を取り除いてから箱詰めしてるんです。
- ──
- 逆に。
- 藤田
- そうしたほうが、
シャキシャキとした食感もあるし、
磯の香りも残って、
水で戻したときの膨らみも、いい。
- ──
- その「食べたことない」感じで、
リピーターになっていくお客さんが
たくさんいるんですね。
- 山田
- 藤田さんのところの塩蔵ワカメは、
ぜんぜん違います。
水で戻しただけの塩蔵ワカメに、
気仙沼では、一家に一本
常備されている「うま造り」って
調味料をかけるだけで、絶品。
- ──
- 食べてみたいです。
- 藤田
- 持ってきますよ。
- ──
- え、何だかそんな、いいんですか。
おねだりしたみたいな感じで。
でも‥‥遠慮なく、いただきます!
(数分後‥‥)
- 藤田
- はい、どうぞ。
- ──
- うわー‥‥これか。‥‥おいしい!
おいしいです、おいしいんですが、
いやでも、まてよ、
しゃぶしゃぶで食べた生ワカメに、
勝るとも劣らない気が。
- 藤田
- これで十分でしょう。
- ──
- ワカメがこんなにもおいしいなんて、
という、おどろき?
- 山田
- やっぱり、ふつうの人は
いわゆる乾燥の「ふえるワカメ」を
食べることが多いですから、
女川でも、
外から来た人に塩蔵を食べさせると、
それだけで感激してくれます。
- ──
- でしょうね。
- 山田
- ワカメって、
添えもの的な使い方が多いですけど、
けっして脇役じゃなく、
主役を張れるおいしさなんです。
- ──
- ちなみに、しゃぶしゃぶだったり、
この「うま造り」で食べるのにいいのは、
今くらいの時期、なんでしょうか。
- 藤田
- そうですね、本当においしいのは、
3月くらいまでかなあ。
最近は、性能のいい冷凍の施設が
出てきていますから、
生ワカメの冷凍とかもできますが、
自分としては、
やっぱり旬の時期に食べてほしい。
- ──
- なるほど。
- 藤田
- それが季節を感じるってことなんで。
- ──
- ワカメで感じる、気仙沼の春。
- 藤田
- そうなんです。
<つづきます>
2019-03-11-MON
© Hobo Nikkan Itoi Shinbun.