ゼロから立ち上がる会社に学ぶ 東北の仕事論。 陸前高田 高田自動車学校 篇
第4回  海と生きる。
糸井 気仙沼の復興計画のキャッチフレーズが
「海と生きる」に決まりましたよね。
田村 正解だと思います。
糸井 つまり、気仙沼のみなさんにとって
海は「敵」じゃないんですよね。

あくまでも「と」なんですよね。
田村 そうだと思います。

いま、陸前高田でも
住民と行政との対話がはじまっています。

そのなかで、さっきも言いましたけど
行政は、
12.5メートルの防潮堤をつくると。
糸井 ええ。
田村 ぼくらも行政のみなさんと議論しましたが、
やはり我々としては、
「防潮堤は必要ない、ぜんぶ高台に移転して、
 低地は、すべて農地にしましょうよ」と
提案したんです。
糸井 なるほど。
田村 なぜ、防潮堤を、やめてほしいか。

いろいろと理由あるんですが、
ひとつには
陸前高田の砂浜って、
ほんとに綺麗だったものですから‥‥。
糸井 ああ‥‥。
田村 全面、南側に向いていまして、
夏になれば、海水浴客もたくさん来てくれました。

すごく、いい砂浜なんです。

そこに
12.5メートルの防潮堤をつくってしまったら
何百年、何千年かけて
自然がつくってくれた砂浜の復元が、難しくなる。
糸井 大きな岩なんかを砕いて、砕いて、
そんなに綺麗な砂浜ができてきたわけですもんね。
田村 それに、防潮堤をつくったとしても
コンクリートって、果して100年もつでしょうか。
糸井 ああ‥‥なるほど。
田村 どのみち、また瓦礫の山になるんです。
糸井 田村さんたちは
「1000年」の単位で考えてるわけですものね。
田村 100年? 200年? わかりませんが、
けっきょく瓦礫を撤去して、産業廃棄物が出て‥‥
しかも、また同じものを
何百億円もかけて、つくりなおすわけでしょう。

無駄なんです。
糸井 そうですね。
田村 背の高い防潮堤をつくり、
低地にうんと盛り土をしさえすれば住めるって
言いますけど、
津波警報が発令されたら、
けっきょくみんな、高いところへ逃げるんです。

だったら意味ない。
糸井 陸前高田という町の「たいらさ」って、
育った人たちにとっては
いい景色として、残したいものでしょうしね。
田村 そうなんです。
松田 私、今回、本当に思ったんですけれど、
防波堤や建物など、
人間がつくったものは
もうすべて、破壊されたんですけれど、
岩や島は、ちゃんと残ってるんです。
糸井 あー‥‥そうか。
松田 自然のものは、ちゃんと生きてるんです。

やっぱりそれってすごいなと思うんです。
自然にかなうものはない、といいますか。
田村 高田松原に、7万本の松があってね。
糸井 奇跡的に1本だけ、残ったという、あの。
田村 第一波は、けっこう持ちこたえたんですが、
第二波で、根こそぎやられたんです。

で、その引っこ抜かれた松が
津波に乗って、すごい勢いで流れてきたんです。

それが、家や建物を、ぜんぶ潰してしまった。
糸井 はー‥‥。
田村 我々は、この敷地にいたんですが
町を流れる気仙川の氾濫が、はっきり見えました。

水が逆流する速度‥‥すごかったです。
糸井 それまで、気仙川というのは
町の「いい場所」だったわけですよね、きっと。
田村 そうです、そうです。
7月1日、鮎の解禁日にはみんな集まって。
糸井 大好きな場所なんですね、みんなが。
田村 その川が、ああして逆流して‥‥。

そういう意味でも、
自然にかなうことなんてできないんだから
共に生きるという考えをしないと。
糸井 この陸前高田でも
瓦礫って、もうだいぶ片付けられていると
思うんですが、
ぼくが本当にすごいなと思うのは
他の地域でも
着実に「元に戻そうとしてる」じゃないですか。
田村 あ、そうですか。
糸井 山元町に、スコップ団って人たちがいるんです。
田村 スコップ団、はい。
糸井 そのまま放っといたら
いずれ潰すことになるかもしれない住宅の掃除を
ボランティアでやってる人たちなんです。
田村 ほう。
糸井 ぐちゃぐちゃになったまま、
住めるかどうかもわからない家なんて
持ち主は
きっと見たくもないと思うんです。

怖いし、悲しいですし。
松田 うん、うん。
糸井 それを、オレたちが完璧に掃除しますから、
綺麗になったあとに
どうするか決めてくださいって「団」なんです。
田村 へぇー‥‥。
糸井 週末、午前に1軒、午後に1軒、
スコップで泥かきをして、高圧の水で洗浄して‥‥
家主さんにお礼を言われる前に
パーッと逃げるように帰っていくんです、やつら。
田村 はー‥‥。
糸井 カッコいいんです。鞍馬天狗みたいなやつらでね。
松田 すごいですね、その人たち‥‥。
田村 警察の人が、ご遺体を綺麗にしてくれるみたいに。
糸井 そうなんです。

「ここんち、潰すにしたって
 いちどは綺麗にしたいじゃない?」
ということを
1軒ずつ1軒ずつ、やっている人たちなんです。
田村 潰すのに‥‥ 虚しくはならないんでしょうか。
糸井 やっぱり、彼らも関係者が亡くなってるんです。
田村 ああ、そうですか。
糸井 だからその、なんだろう、無駄じゃないんです。

火葬にしてしまうんだったら
遺体を綺麗にする必要って本当はないですけど、
でも、絶対に綺麗にしますよね。
田村 してあげたいです。
糸井 それと、同じだと思うんですよ。

死化粧というか‥‥
日本人に特有の感覚なのかもしれませんけどね。
田村 なるほど、そうですね。
糸井 当初は
「やりたいんだったら、やれば」くらいの
気持ちだった持ち主さんも
綺麗になった自宅を見て、
ぼろぼろと、泣いてしまうそうです。
田村 そうですか‥‥。
糸井 で、持ち主さんにお礼を言われないうちに、
パッと集まって、ガッと掃除して、
じゃー終わりーっつっていなくなっちゃう。

何て言うんだろう、
ずいぶんと、カッコつけた団体なんですよ。
田村 ああ、そういう人たちがいるんだ。
‥‥いいなぁ。
糸井 うん、かわいいですよ、あの「若さ」は。

だって、ぼくら「老人」には
なっかなか
思いつけないことだなって思いますから。
<つづきます>
2011-11-30-WED
写真撮影:相澤心也
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