ゼロから立ち上がる会社に学ぶ 東北の仕事論。 陸前高田 高田自動車学校 篇
第5回  冬の花火。
松田 ぼくたちチーム・クレッシェンド
考えていることがあるんですが‥‥
少しお聞きいただけますでしょうか?
糸井 ぜひ。
松田 これから年末年始にかけて、
ひとりで仮設住宅で過ごすクリスマスやお正月って
さびしくて、くるしいと思うんです。
糸井 そうでしょうね‥‥。
松田 だからまず、クリスマスの夜には
ワイン業者にバックアップしていただいて、
シャンパンとケーキを手に持った
100人のサンタクロースが、
仮設住宅のドアを、ノックするんです。
糸井 ああ、いいですね。
田村 そして、もうひとつあるんです。
松田 真冬に、花火大会をしようと思っていて。
糸井 ほう。
松田 まず12月31日、2011年の大晦日の夜、
陸前高田の町に「鎮魂」の花火を上げるんです。

そして、新しい年へのカウントダウンにあたっては
108発の「希望」の花火を
この町に1本だけ残った「根性松」のシルエットが
浮かび上がるように‥‥。
糸井 いいなぁ、それは。
田村 「鎮魂の花火」と「希望の花火」を、な?
糸井 なるほど。
松田 そのために、日本最大の花火の競技大会をやってる
大曲に、バックアップをいただきました。
糸井 秋田が、岩手を手助けしてくれるんだ。
田村 今年は、本当にたくさんの方が亡くなりました。

だから、鎮魂を込めた花火を
あの1本松の後ろから打ち上げたとき、
この町の人々は
どんな気持ちで見てくれるんだろう‥‥って
ぼくらは、夢見ていたんです。
糸井 それも、真冬に。
松田 冬の花火って、ほんと綺麗でしょうから。
糸井 いやぁ、みなさん、本当にすごいです。

やっぱり、ここにいないと
そういうアイデアは、出てこないですよ。
松田 あとは‥‥。
糸井 まだ出ますか!(笑)
松田 すみません(笑)、
これは、ある意味こじつけなんですけれど
陸前高田には
「箱根山」って名前の山があるんですね。
糸井 ‥‥「駅伝」ですか、もしかして。
松田 そう!(笑)

1月1日に
「箱根マラソン」をしようと考えていて。
糸井 こじつけですけど、おもしろいです(笑)。
松田 ありがとうございます(笑)。

これは、陸前高田の市民が
みんなタスキをかけて、マラソンを走るんです。

で、走り終わったあと、カレーを食べる。

しっかりと安全を確認した
福島食材をつかったカレーを、食べるんです。
糸井 いいですねぇ。カレーは、いいですよ。
松田 次の2日からは、本物の箱根駅伝ですから、
被災地・陸前高田から
本物の箱根に、タスキをリレーできたら‥‥。
田村 箱根から箱根へ。
糸井 いいですね。

ただ、田村さんって
噂どおり、ダジャレがお好きな‥‥(笑)。
田村 すんません。
松田 でも、かなりヒントをくれるんですよ、
田村さんのダジャレは(笑)。
糸井 ふつう、冬に野外でイベントをするのって
基本的には
ちょっと難しいことだと思うんですけど、
じつに見事だと思いました。
松田 今年は、やらなきゃ「ならない」んですよね。
だって、今年じゃなきゃ無理なんです。
糸井 そう思います。

放っといたら引っ込んじゃうときにこそ、
「引っぱり出したい」ですしね。
田村 最初は8月あたりで、企画してたんです。
糸井 花火大会を?
田村 そう、でも、そのことを市長に言ったらば、
「それは勘弁してください」と。
糸井 ほう。
田村 なぜかというと、
最低限の安全を確保する設備ができてないと、
もし何かあった場合に、大変だと。
糸井 なるほど。
田村 それが完成するのが9月だから、
それ以降にしてほしい‥‥と、言われまして。
松田 でも、完成が10月にずれ込んだんです。
田村 そのときに、「待てよ」と。

こいつから
「冬の花火って、いいですよね」というアイディアが
出てきたんです。
糸井 おお、なるほど。
田村 ぼくも「ああ、冬の花火っていいよなー」って。な?
松田 はい。
田村 それで、こういうことになったんですけど。
糸井 素人考えで申しわけないんですけど、
その花火‥‥海の側から見てる人がいたら
またおもしろいかもね。
松田 え、そうですか?
糸井 ほら、漁師さんとかさ、
これからも「海と生きる」って決めてる人たちが
船に乗って、
海側から見上げてたら‥‥嬉しいんじゃないかな。
松田 なるほど。
糸井 だって、海は生き返ってるじゃないですか、もう。
松田 そうですね‥‥。
糸井 難しいですかね?
松田 岩手の漁船って、震災前は2000艘あったんですが
今はもう、500ぐらいしか‥‥。
田村 漁船じゃなくたっていいんじゃない?
松田 そうか、客船でも。
糸井 何というか‥‥「海」と「陸」とが
鏡の「むこう」と「こっち」みたいに
「つながってる」と思ったら、
ちょっとね、ワクワクしたんですよ。
松田 ああ‥‥すてきですね、そのイメージ。
糸井 頭にあったのは
シルク・ド・ソレイユの「コルテオ」っていう‥‥。
田村 ああ! 観ました、観ました。
糸井 ごらんになられましたか。

あれって
円形の舞台が劇場をふたつに割っていて、
「むこう」と「こっち」で
サーカスを見てる構造じゃないですか。
田村 ええ、本当に画期的で、感動的でした。
糸井 むこう側のお客さんのなかに
「自分がいないかな?」って思っちゃう
見えかたしてますよね。
田村 ええ、ええ。
糸井 それと同じような‥‥ようするに、
海と陸とが、
本当はひとつのものなんだっていうことを‥‥。
松田 本当ですね。
糸井 じっさいにやるには、
いろいろ難しい条件があるかもしれませんけど、
それを表現できたら‥‥と思ったら
なんだか、ワクワクしてきちゃったんです。
<つづきます>
田村社長、松田さんたちの
チーム・クレッシェンドのホームページは
こちらからどうぞ。
「冬の花火」や「箱根マラソン」の詳細が
掲載されています。
2011-12-01-THU
写真撮影:相澤心也
このコンテンツのトップへ 次へ
 
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN