糸井 |
昨夜の説明会、聞かせてもらいました。
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河野 |
ありがとうございます。
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糸井 |
なんだろうなぁ‥‥ちがうんですよね。
「音として響いてくるもの」が。
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河野 |
音‥‥ですか?
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糸井 |
伝わってくるんです、
きっと「本当なんだろうなぁ」ってことが。
河野さんや、斉吉商店さんの言葉からは。
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河野 |
そうですか。
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糸井 |
何度も、同じ話をしてきたと思うんですけど。
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河野 |
してきましたね(笑)。
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糸井 |
もう、一字一句変わらない話をしてるときも
あったと思うんですよ。
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河野 |
ありました。
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糸井 |
そういうのって、ふつう「薄まる」んですが、
ぜんぜん、それがない。
なんか「クラシックの楽譜」みたいなことに
なってるんだと思う。
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河野 |
そうでしょうかね(笑)。
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糸井 |
あの‥‥斉吉商店さんのいる気仙沼と
八木澤さんの陸前高田とでは、
もう、ぜんぜんちがうじゃないですか。
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河野 |
はい、ちがいます。
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糸井 |
何というか、ライバルといったら変だけど、
互いに意識してたりはするんですか?
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河野 |
いや‥‥われわれ陸前高田の場合は、
他を意識するとか、
ぜんぜんそんなレベルになってないです。
何にもなくなっちゃったんで、
憂うべきものもないという状況ですから。
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糸井 |
そうか。
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河野 |
だからこそ、陸前高田は
すべてを新しく変えていかなきゃならない。
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糸井 |
逆に言うと、変えていくことができる。
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河野 |
はい。
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糸井 |
‥‥憂うにも「ゼロ過ぎる」んだ。
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河野 |
逆に、気仙沼については
船、漁師、漁師の腕‥‥残るものは、残っています。
つまり、水産業を復興させるという命題がありつつ、
その水産業を
今後どう立て直していったらいいのかという
不安感もあって‥‥という状況でしょう。
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糸井 |
あの‥‥「ゼロにならなかった人」は
「本当に失礼な話なんだけど」って言いながら、
恐る恐る
「ゼロになった人」のことを
なんと表現したらいいか‥‥
少しうらやんでたりとか‥‥してないですか?
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河野 |
ええ、その気持ちは、すごくわかります。
正直、ぼくも「全壊」と「半壊」だったら
全壊のほうがいいです。
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糸井 |
あぁ‥‥。
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河野 |
あきらめがつきますから。
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糸井 |
そうですか。
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河野 |
陸前高田は文字通り「壊滅」しました。
そういう表現をされているがために、
ご支援いただいている部分は、
少なからずあるとも思っていますし。
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糸井 |
なるほど、なるほど。
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河野 |
だから、その意味で言うと
「すべてが、きれいに残っている」のに
何もできない、福島のつらさ。
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糸井 |
はい。
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河野 |
あれは、つらいと思います。
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糸井 |
ぼくも、知らないうちに
原発がらみの本がどんどん溜まってきました。
テレビの録画も、原発関連の番組ばかりで。
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河野 |
そうですか。
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糸井 |
やはり「知っておかなきゃな」と思うと、
そうなっちゃうんです。
で、そういう福島のドキュメンタリーに
「事件はない」んですよね。
そこで語られているのは
かならず「以前と同じ景色です」だから。
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河野 |
ええ。
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糸井 |
目に見える壊滅もないし、放射能は見えない。
「20だ、100だ、1だ」という数字について
頭の中だけでしゃべってるから、
話し合いが悪い意味で知的になっちゃってる。
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河野 |
本当ですね。
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糸井 |
その意味でいうと、
ゼロになってしまった陸前高田の人たちの、
割り切りというのか‥‥。
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河野 |
ぼく自身、直接は知りませんけど、
戦後の復興に近いんじゃないかと。
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糸井 |
あ、似てるんですかね。
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河野 |
似てると思います。
何もなくなってしまったから
ある意味「治外法権」みたいになってて。
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糸井 |
線、引き直してる?
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河野 |
「オレたちがルールを作る」
「オレたちが立て直す」
みたいな
ちょっとアブナイ雰囲気もありつつ(笑)。
「東北、独立したろか」みたいな。
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糸井 |
つい、言いたくなっちゃうんだね。
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河野 |
みんなで酒を飲んでたりすると
「もう、日本から独立したほうがいい。
この国はダメだ」とか(笑)。
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糸井 |
‥‥吉里吉里人?
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河野 |
そう! まさにそうです、吉里吉里人。
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糸井 |
あれ、東北だしね。岩手でしたっけ?
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河野 |
はい。
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糸井 |
酔ってないときは‥‥?
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河野 |
いやぁ。
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糸井 |
出るでしょう、きっと?
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河野 |
ええ、しらふで言ってますね。
福島まで丸抱えで独立したろか‥‥と。
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糸井 |
はー‥‥。
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河野 |
そんな話が
どしらふで出たりすることもあります。
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糸井 |
それって「海」まで含んでる話ですか?
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河野 |
もちろんです。
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糸井 |
というのも、
ずーっと海沿いに住んできた人たちの
「海への思い」って、
あんまり語られることはないんだけれど、
やはり、ものすごいですよね。
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河野 |
もちろん、それは。
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糸井 |
ぼくたちは、もっと「海」に対して
怒ったり
悲しんでるかのと思っていたら、
すでに仲直りしてたり、してますよね。
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河野 |
ええ。
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糸井 |
海と。
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河野 |
はい。
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糸井 |
むしろ「誰も恨んでませんよ」みたいな声さえ
聞こえてくることもあって。
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河野 |
やはり、みなさん
「ずっと、海と暮らしてきた」という思いを
持っていますから。
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<つづきます> |