ゼロから立ち上がる会社に学ぶ 東北の仕事論。 陸前高田 八木澤商店 篇
第1回  半壊より全壊のほうがいい。

5月の陸前高田への訪問から2ヶ月半後。

セキュリテ被災地応援ファンドの説明会で
話をするために東京にいらした
八木澤商店の9代目社長、河野通洋さんに
糸井重里と会っていただきました。

このとき八木澤商店の事務所は
ようやくファックスが開通(?)したものの
まだインターネットは不通の状態。

自動車学校の片隅に建てたプレハブを出、
陸前高田市の隣町である
一関市の縫製工場に、
仮の事務所を開いた直後のことでした。

糸井 昨夜の説明会、聞かせてもらいました。
河野 ありがとうございます。
糸井 なんだろうなぁ‥‥ちがうんですよね。
「音として響いてくるもの」が。
河野 音‥‥ですか?
糸井 伝わってくるんです、
きっと「本当なんだろうなぁ」ってことが。

河野さんや、斉吉商店さんの言葉からは。
河野 そうですか。
糸井 何度も、同じ話をしてきたと思うんですけど。
河野 してきましたね(笑)。
糸井 もう、一字一句変わらない話をしてるときも
あったと思うんですよ。
河野 ありました。
糸井 そういうのって、ふつう「薄まる」んですが、
ぜんぜん、それがない。

なんか「クラシックの楽譜」みたいなことに
なってるんだと思う。
河野 そうでしょうかね(笑)。
糸井 あの‥‥斉吉商店さんのいる気仙沼と
八木澤さんの陸前高田とでは、
もう、ぜんぜんちがうじゃないですか。
河野 はい、ちがいます。
糸井 何というか、ライバルといったら変だけど、
互いに意識してたりはするんですか?
河野 いや‥‥われわれ陸前高田の場合は、
他を意識するとか、
ぜんぜんそんなレベルになってないです。

何にもなくなっちゃったんで、
憂うべきものもないという状況ですから。
糸井 そうか。
河野 だからこそ、陸前高田は
すべてを新しく変えていかなきゃならない。
糸井 逆に言うと、変えていくことができる。
河野 はい。
糸井 ‥‥憂うにも「ゼロ過ぎる」んだ。
河野 逆に、気仙沼については
船、漁師、漁師の腕‥‥残るものは、残っています。

つまり、水産業を復興させるという命題がありつつ、
その水産業を
今後どう立て直していったらいいのかという
不安感もあって‥‥という状況でしょう。
糸井 あの‥‥「ゼロにならなかった人」は
「本当に失礼な話なんだけど」って言いながら、
恐る恐る
「ゼロになった人」のことを
なんと表現したらいいか‥‥
少しうらやんでたりとか‥‥してないですか?
河野 ええ、その気持ちは、すごくわかります。

正直、ぼくも「全壊」と「半壊」だったら
全壊のほうがいいです。
糸井 あぁ‥‥。
河野 あきらめがつきますから。
糸井 そうですか。
河野 陸前高田は文字通り「壊滅」しました。

そういう表現をされているがために、
ご支援いただいている部分は、
少なからずあるとも思っていますし。
糸井 なるほど、なるほど。
河野 だから、その意味で言うと
「すべてが、きれいに残っている」のに
何もできない、福島のつらさ。
糸井 はい。
河野 あれは、つらいと思います。
糸井 ぼくも、知らないうちに
原発がらみの本がどんどん溜まってきました。
テレビの録画も、原発関連の番組ばかりで。
河野 そうですか。
糸井 やはり「知っておかなきゃな」と思うと、
そうなっちゃうんです。

で、そういう福島のドキュメンタリーに
「事件はない」んですよね。

そこで語られているのは
かならず「以前と同じ景色です」だから。
河野 ええ。
糸井 目に見える壊滅もないし、放射能は見えない。

「20だ、100だ、1だ」という数字について
頭の中だけでしゃべってるから、
話し合いが悪い意味で知的になっちゃってる。
河野 本当ですね。
糸井 その意味でいうと、
ゼロになってしまった陸前高田の人たちの、
割り切りというのか‥‥。
河野 ぼく自身、直接は知りませんけど、
戦後の復興に近いんじゃないかと。
糸井 あ、似てるんですかね。
河野 似てると思います。

何もなくなってしまったから
ある意味「治外法権」みたいになってて。
糸井 線、引き直してる?
河野 「オレたちがルールを作る」
「オレたちが立て直す」
みたいな
ちょっとアブナイ雰囲気もありつつ(笑)。

「東北、独立したろか」みたいな。
糸井 つい、言いたくなっちゃうんだね。
河野 みんなで酒を飲んでたりすると
「もう、日本から独立したほうがいい。
 この国はダメだ」とか(笑)。
糸井 ‥‥吉里吉里人?
河野 そう! まさにそうです、吉里吉里人。
糸井 あれ、東北だしね。岩手でしたっけ?
河野 はい。
糸井 酔ってないときは‥‥?
河野 いやぁ。
糸井 出るでしょう、きっと?
河野 ええ、しらふで言ってますね。
福島まで丸抱えで独立したろか‥‥と。
糸井 はー‥‥。
河野 そんな話が
どしらふで出たりすることもあります。
糸井 それって「海」まで含んでる話ですか?
河野 もちろんです。
糸井 というのも、
ずーっと海沿いに住んできた人たちの
「海への思い」って、
あんまり語られることはないんだけれど、
やはり、ものすごいですよね。
河野 もちろん、それは。
糸井 ぼくたちは、もっと「海」に対して
怒ったり
悲しんでるかのと思っていたら、
すでに仲直りしてたり、してますよね。
河野 ええ。
糸井 海と。
河野 はい。
糸井 むしろ「誰も恨んでませんよ」みたいな声さえ
聞こえてくることもあって。
河野 やはり、みなさん
「ずっと、海と暮らしてきた」という思いを
持っていますから。
<つづきます>
2011-09-27-TUE
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