徳光 結局、糸井さんは、
プロレスを好きになったんですか?
糸井 はい、好きになりました。
いまでも格闘技全体について
興味は持ってます。
徳光 プロレスは受け身のスポーツですからね。
あのスポーツは、
「技を仕掛けられたときに、
 相手の仕掛けた技を
 どれだけ大きく見せられるか」
ということを
受け手側が、ひっくり返ったりして
見せるものなんです。
糸井 ほほぅ、なるほど。
徳光 そのために、レスラーは鍛えるわけです。
筋骨隆々の体だけを見せてるレスラーは、
だいたい5分から7分ぐらいの試合時間しか
もちません。
筋肉増強剤やって、いい体を見せて、
女性にモテようとしてるわけですからね。
そのかわり、彼らはその、
7分間の試合が終わると、すごいです。
糸井 グタグタになるわけですね。
徳光 もう、女の子たちがたくさん寄ってきてですね、
第2ラウンドがはじまるわけですけれども。
糸井 いいですねぇ。
一同 (笑)
徳光 けれども、筋骨隆々じゃない、
ちょっとふわっとした体の
レスラーがいるでしょう?
ああいった連中は、ちがいます。
一度筋肉を作って、その上に肉をつけます。
つまり、いくら叩かれても
マットに叩きつけられても
すぐに立ち直れるような、
回復力のある「真綿の肉」をつけるんです。
糸井 うん、うん。
徳光 だからこそ、彼らは「もつ」わけです。
そこのところをひとつ
知ってるか知らないかでも、
プロレスの見方がずいぶん変わってきます。
糸井 なるほどなぁ。
徳光 それから、プロレスというのは
団体で興業があるわけですよ。
たとえば、
WBAならWBAに頼んで選手を呼びます。
そういう中で、
途中でギャラアップを要求する
レスラーが出てきます。
糸井 途中で?
徳光 ええ。
自分に人気があることに気づくんですね。
自分の名前がアナウンスされたときに
お客さまの声がドカーンと来るわけですから。
‥‥ここがプロレスの
おもしろいところなんですけどもね。
糸井 はい。
徳光 これは糸井さん、
気がついてらっしゃるかどうか。
糸井 なんでしょう。
徳光 ときどき、途中から
シリーズに参加する選手がいるんですよ。
糸井 途中参戦ですか。
徳光 彼らは特別に、
関節技を使えるレスラーなんです。
糸井 ほぅ。
徳光 簡単に腕を外したり、
首を外したりできるんです。
テレビ中継のない日、
そういうやつらを、
ギャラアップを要求している
選手と戦わせるわけですよ。
糸井 ええっ!
徳光 関節技を使える彼らは、ふだん、
ベビーフェイスみたいな感じで、
そんなに強くないわけです。
だけど、ギャラアップを要求する選手と
戦うときだけ「仕事」をさせる。
糸井 それは‥‥「仕事」ですねぇ。
徳光 ね、完全に「仕事」でしょう?
リングで腕の関節を外したまんま、
「お前、けっこう
 でかいこと言ってるらしいじゃないか」
みたいなことを言うわけです。
すると、相手は
ドンドンドン、と床を叩くわけです。
「このやろう」と思うわけですよ、いったんは。
だけども、関節は痛い。
「ギャラはいいんだな、いまのままで」
と言うと、OKが出るわけですよ。
一同 (笑)
徳光 そうすると、関節を
カキンと入れます。
糸井 はぁああ(ためいき)。
徳光 それで話が丸くおさまります。
彼らは、普通の選手とはちがう、
まったく別のルートで試合にやってきます。
本当に、めったにないんでありますが、
注意して見ていると、ときどき
途中から入り込む選手がいるのがわかります。
糸井 はい。
徳光 ぼくは、ずっと中継をやってたんで
わかったんですが、
途中から入り込んできた単独の選手を発見すると
「あ、また殺し屋を
 連れてきたな」

と思ってました。
糸井 うーん‥‥ぼくは思うんですが、
プロレスって、
「贅肉の物語」ですね。
徳光 そうですね。「贅肉の物語」、
ふっ(笑)、
うまいことおっしゃいますねぇ。
一同 (笑)
徳光 本当、そうですよね。
いやぁ、うまいな(笑顔)。
糸井 いえいえ(笑)。
徳光 いまはそういう
「仕事」をする選手がいるのかどうか
わかりません。
ぼくの知っているなかで、
関節技の「仕事」ができる
名レスラーはふたりいましたが、
すでに亡くなりました。
彼らは賞金レスラーでした。
糸井 賞金レスラー。
徳光 アメリカで、
サーカスのような催し物があって、
そこで「俺に勝ったら100ドル」みたいな形の
イベントがあるわけです。
アメリカですから、
レスラーと同じくらいの体格を持つ
大男たちは、ザラにいます。
糸井 いますね。
徳光 おまわりさんで、
力自慢の人とかも
いるわけですよ。
糸井 はい、はい。
徳光 そういった連中が
レスラーにかかっていきます。
対等でドッタンバッタンやってたら、
すぐに疲れちゃって、
3人目ぐらいにやられてしまいます。
そうすると、100ドルの賞金を
持って行かれちゃうわけじゃないですか。
そのために、関節技を使うわけですよ。
そういう「賞金レスラー」として
長く稼いでいたんです。
(つづきます)

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2010-12-20-MON