『東京人』物語。──雑誌『東京人』の高橋編集長と語る、雑誌のこと、東京のこと。──

みなさんは『東京人』という雑誌を知ってますか?

毎号、ちょっと変わった視点から
東京の隠れた魅力を発掘していく月刊誌で、
今年で創刊31年目を迎えたそうです。

ちなみに、過去の特集をみてみると、
木造建築、凸凹地形、特撮、ヤミ市、
中央線、江戸吉原、団地、アウトロー、
東京35区、山の手100名山、などなど、
もう、気になるワードだらけです‥‥。

ほぼ日の東京特集・第11弾は、
そんな『東京人』の高橋栄一編集長と、
『考える人』の編集長を務めた
「ほぼ日」の河野通和による編集者対談を、
全5回にわけてお届けいたします。

テーマは、もちろん「東京」です。

第4回 東京を客観視するのは、難しい。


河野
高橋さんは、
それこそ東京人というか、
何代目になるんですか、東京に住んで。
高橋
うちの墓地は雑司ヶ谷霊園で、
父の2代上がお墓をつくったので、
5代目になるのかな。
それ以前はどこかわかりませんが。
河野
高橋さん自身、東京っ子なわけで、
他を知らないわけですよね。
東京を離れたいとかは?
高橋
あんまりないかな。
家を離れたいって思うことはあるけど(笑)。
写真
河野
じゃあ、東京が憧れの対象だった、
ということも特にない?
高橋
ないですね、それはない。
河野
当たり前のように
東京で生まれ育って、
東京の空気を吸ってたわけで。
で、いまこういう雑誌をつくってみて、
東京の受け止め方ってなにか変わりました?
高橋
うーん、どうでしょうね。
なかなか整理して話すのも難しいけど、
ひとつ、驚いたというか、
いまでもときどき感じるのは、
「東京人」という言葉への反発です。
「江戸っ子」より悪く言われる。
写真
河野
あ、そうなんですか?
高橋
一部の人から言わせると、
東京人という言葉に
どこかエリート意識を感じるそうで‥‥。
河野
ああ、なるほど。
上から目線だと。
写真
高橋
さらに、東京人という名前で、
文化だ、歴史だ、なんて言われると
腹が立つって。
そういうことは雑誌に関わるまで
全然わからなかったです。
河野
じゃあ、僕も岡山人として、
もっと怒っていいわけだ(笑)。
高橋
いやいや(笑)。
でも、そもそも東京人だって、
どこからか集まってきた人たち
ばかりなんですけどね。
河野
高橋さん自身は、
もうずっと東京で暮らしてるわけですが、
こういう雑誌をつくる上で、
どうやって東京を客観視するんですか?
写真
高橋
うーん、どうでしょうね。
その答えになるかわかりませんが、
いま、うちには編集部員が6人いて、
僕以外はみんな地方出身なんです。
河野
ええ。
高橋
やっぱり地方出身の人のほうが、
東京をよく見てますよね。
河野
新鮮な発見をしてくれる?
高橋
そう思います。
東京にヘンな先入観がないんですね。
例えば、ヤミ市を特集したときも、
僕なんかはヤミ市にあまりいい印象を
持ってなかったけど、
いまの人たちは
「ああいうのが面白い」っていう。
そういう新鮮な発見はあります。
河野
なるほど。
高橋
少し前に『ALWAYS 三丁目の夕日』
って映画がありましたよね。
あれ、すごくいい映画なんですが、
なにかが「足りない」と思ったんです。
で、よく考えてみると、
あの世界には「臭い」がない。
映画だから臭いがないのは、
当たり前なんですが。
河野
ああ、臭い。そうか、当時はね。
高橋
あの『ALWAYS』のころの東京って、
もっとドブがいっぱいあって、
その辺にハエも飛んでいて、
けっこう臭いましたよね。
河野
東京オリンピックで
キレイになった部分もあるけど、
やっぱりドブは多い印象でした。
高橋
そういう側面も知ってるだけに、
東京を客観視するのは、
なかなか難しいですよね。
写真
河野
難しいですね。
高橋
だから「東京をひと言で」
なんて聞かれても、
もうごちゃごちゃっていうか、
何でもありっていうか、
それぐらいの言葉にしかなりません。

近代的なビルの隣りに
赤ちょうちんがあったり。
日本人が集まってるかと思えば、
アジア系の人だったり。
東京を表す場所というのも、
ある人は「皇居だ」って言うし、
ある人は「スカイツリーだ」「浅草だ」って。
河野
最近は、渋谷のスクランブル交差点も
観光スポットですからね。
高橋
何度か東京に来てる人だと、
「谷根千がいい」とか。
河野
もう人によって、
見てる東京が全然違うわけだ。
写真
高橋
東京を語るっていうのは
ほんとうに難しいです。
僕らも東京をトータルで特集した
というのは1回もありません。

まあ、言い換えれば、
その選択肢の多さが、
東京のいいところなんだと思います。
河野
なるほどね。

<つづきます>

2017-08-27-SUN

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