1抜き打ちで
選手のもとへ。
- 乗組員A
- ぼくたちスポーツファンにとって、
「ドーピング」という言葉は
大会期間中に耳にすることがありますが、
アンチ・ドーピングに携わるみなさんは、
今、どんな準備をしているのでしょうか。
- 乗組員B
- すでに何年も前から
準備をされているのですか。
- 平井
- オリンピックやパラリンピック
大会期間中にドーピング検査を行う仕事です。
東京大会に向けての準備としては、
検査に必要なものを用意し、
人を集めて、場所を調整しているところですね。
- 乗組員A
- 「必要なもの」というのは
どんなものを用意するのでしょうか。
- 平井
- ドーピング検査の検体を採取及び封印するキットや、
採血する針など、細々した消耗品ですね。
- 乗組員B
- 他の大会でも使われるような
定番の検査キットがあるのでしょうか。
- 平井
- 定番のものはありますよ。
スイスに世界シェア9割強の会社があって、
そのブランドのキットを使用予定です。
- 乗組員A
- あ、そういう会社があるんですね。
もうすでにおもしろいです。
- 乗組員B
- ドーピング検査という作業の流れを
教えていただけますか。
私たちの勝手なイメージとしては、
部屋のドアをノックされて
検査室に連れて行かれるシーンを
つい思い浮かべてしまうのですが、
まず最初は何から始まるのでしょう。
- 平井
- 大会前からさかのぼっていくと、
情報分析や検査計画を立てることは、
すでにはじまっていますね。
最近、アンチ・ドーピングの世界で
盛んに言われている
「インテリジェンス活動」を
東京大会でも計画しています。
- 乗組員B
- インテリジェンス?
- 平井
- 簡単に説明しますと、
選手たちのあらゆる情報を元にして
検査の対象の狙いを絞ることです。
これまで日本ではできなかったのですが、
昨年、ドーピングの防止に関する法律が
施行されたおかげで、
国内外含む公的機関や
アンチ・ドーピング機関と情報共有をして
検査対象を絞り込むことができるようになります。
オリンピック・パラリンピックがはじまると、
ITA(International Testing Agency 独立検査機関)
からの指示で作成した検査計画に従って、
検査対象の選手を捜しに行くんです。
- 原
- 事前にもらっている情報をもとに
選手を捜しだし、検査室に連れてきて、
検体を採取して、封印して送るまでが、
おおまかな検査の流れです。
- 乗組員B
- 検査を受けてもらう選手たちは
どうやって見つけ出すのでしょうか。
- 平井
- 選手村が開かれてからは、
「会場内」という限られた場所において、
ある種、治外法権のようになるんです。
組織委員会である我々は、
選手がどこにいるかの情報を持っているので、
「この選手を検査せよ」と指示されたら、
その選手がいそうな場所を捜しに行きます。
- 乗組員A
- 選手がいる場所の情報は、
どうやって知るのですか。
- 平井
- 全員の情報を把握しているわけではないですが、
国際競技連盟に指名されている選手は
向こう3ヵ月の予定を
あらかじめ提出する決まりがあるんです。
「1日のうち、この1時間はここにいますよ」
という、具体的な情報を提出してもらうことで、
見つけだす手がかりになっているんです。
警察の捜査をイメージしていただくと
わかりやすいかなと思うのですが、
抜き打ちで部屋に行き、ドアをコンコンと。
廊下を歩いてる時に見つけたり、
部屋にいる時に見つけたり、
食堂にいたりすることもあります。
- 乗組員B
- わっ、噂で聞いたことのあるシーンです!
本当に突然やってくるんですね。
何時ぐらいに訪ねるのでしょうか。
- 平井
- すいません、
時間は言えないんです。
- 乗組員A
- わかったら準備されちゃいますもんね。
- 平井
- 抜き打ち検査なので、
事前に予定を伝えるわけにもいきませんし、
連絡して検査室に呼ぶこともありません。
ルール上は24時間いつでもドーピング検査を
受ける可能性があることになっていますが、
朝5時から夜11時までは
選手の居場所を提出してもらっているので、
その時間に関しては基本的に、
いつでも検査に対応する必要がある時間だと思って
過ごしているはずです。
- 乗組員A
- 検査対象の選手を決める基準には、
どんなものがあるのでしょうか。
- 平井
- 出場選手全員を検査していると
かなりお金がかかってしまうので、
普段から集めている情報を集約した上で、
検査対象者を絞り込んで効率を上げています。
メダルを取ったあとのドーピング検査では
選手のみなさんも当然わかっているので、
調整されてしまうこともあります。
調整される前のタイミングで見つけたいので、
抜き打ち検査がすごく重要になっているんです。
- 乗組員B
- はあー、調整することで
陰性になるケースがあるんですね。
- 平井
- 悪質なケースだと、
薬の物質ごとに量や期間を決めて、
どこで休めば検査に引っかからない、
という計算をしてくる場合もあります。
- 乗組員B
- 検査室に行くことに拒否権はないのですか。
- 平井
- 拒否してもいいですけど、
拒否をしたら違反になります。
だから、違反覚悟で拒否するか、
素直に検査を受けるかのどちらかです。
- 乗組員B
- ドーピング検査を知らされて
その場から逃げだしちゃうような選手は
いないんですか。
- 平井
- 過去にはいましたよ。
本気で追いかけるしかないです。
- 乗組員A
- オリンピック選手が逃げたら
速いだろうなあ。
- 乗組員B
- でも、逃げた時点でアウトですよね。
逃げてもしかたないと思うのに。
- 平井
- 逃げたのは、調整のためです。
そのタイミングで検査を受けるのを
避けたということですね。
- 乗組員A
- なるほど、逃げている間に
薬が抜けるかもしれないから。
- 乗組員B
- ドーピング検査では、
どんなことをするのでしょう。
- 平井
- 今は採尿と採血が主です。
- 乗組員A
- 変な質問をしてもいいですか。
検査で陽性反応が出た時って、
「よっしゃ!」という感じになるんですか。
- 平井
- 狙っていた場合には
そうなりますね。
- 一同
- (笑)
- 平井
- 特に、抜き打ちで陽性が出た時は、
「見つけたぞ!」という気持ちです。
- 乗組員B
- 悪いことした人を
見つけ出せたということですもんね。
(つづきます)
2019-05-22-WED