東京オリンピック・パラリンピックに
出場する選手や、観戦をたのしむお客さんの
ほぼすべての人が関係する「飲食」について
考えているチームにインタビューしました。
組織委員会の山根さん、末口さん、高梨さんが
所属している飲食サービス部では、
世界各国の選手が試合前にとる食事や、
日本らしさを感じてもらえるような食事、
それどころか食にまつわるすべてについて、
日々頭を悩ませ、課題を解決している真っ最中です。
最低限で欠かせない、食事という要素。
裏方の仕事であることに誇りを持った
3人の担当者が話します。

21日あたり
45,000食という重圧。

乗組員A
料理を提供するシェフの方は、
直接雇うわけではなく、
業者の方が入るということですよね。
山根
そうです。
厨房一式を事業者さんに委託しておりますので、
スタッフも彼らが集める形になります。
乗組員A
メニューひとつを決めるのにも、
さまざまな承認を得た上で決まるのでしょうか。
山根
メニューはIOCの承認をいただく形になります。
こちらで案を出して承認をいただく段階で、
いろいろなご意見をいただくわけです。
そういったなかで各国の要望も反映されていきます。
乗組員A
どんな要望がありましたか?
山根
メインダイニングって、朝昼晩合わせて
一日最大45,000食を提供するんですよ。
たくさんの人数が一時に集中するので、
行列をさせないで提供できるかどうかが、
一番のポイントになりそうなんです。
すぐに提供できるメニューを考えて作りなさい、
というアドバイスはいただいていますね。
乗組員A
行列ができるとは思っていませんでした。
ということは、競技のライバル同士が
同じ列に並ぶこともあるわけですよね。
山根
場合によっては、あるかもしれません。
乗組員B
同じ競技なら当然、
日程が同じですもんね。
高梨
ありえますね。
乗組員B
現場で選手からのリクエストには
応じてもらえるのでしょうか。
たとえば「私は半熟の玉子がいいわ」みたいな。
山根
行列のことを考えると、なかなか難しい(笑)。
そのぐらいなら、余裕があれば
受けるかもしれませんけど。
乗組員B
ダイニングで提供される料理は
カフェテリアみたいな感じなんですか?
高梨
ホットミールはサーブをします。
冷たいサラダはアイランドに出るので、
それは選手が自分で取ることになります。
乗組員A
あ、わりと普通の飲食店と変わらない。
山根
カフェテリアとか、社員食堂とか、
そういうイメージを持っていただくと
実際に近いと思います。
乗組員B
ただし、そこにいるのがアスリートだらけ。
山根
そうです、そうです。
いかに行列をつくらないで、
かつ、衛生面を担保しつつ
効率的に提供するかは課題です。
乗組員B
時期的にも衛生面も気になりますよね。
栄養や安全といった面でのお話は伺いましたが、
おいしい」という観点では
どんなことを考えているのでしょうか。
山根
味については、課題としているところです。
いろんな国や地域からいらっしゃるので、
好みの問題って難しいんですよね。
ですから、完璧に味付けをしたものよりも、
ひとつ手前のところまで作っておいて、
あとは自分で味を調整できる
調味料をたくさん用意する予定です。
高梨
現在の計画では、
調味料は50種類以上になります。
山根
醤油、ソースはもちろん、
ナンプラーだとかまで用意しておいて、
ご自身の好みで味をつけてもらいます。
過去の大会でも評判のよかった形式ですね。
乗組員A
50種類以上の調味料ですか。
ぼくらが全然知らないような
調味料もあるのでしょうか。
高梨
私たちが知らなくても
海外の方から見たら
ポピュラーな調味料を用意しています。
50、60種類ぐらいになると、
海外からのリクエストは
ほぼカバーできているはずです。
ほんの少しだけのニーズにまで、
どう応えていこうかというレベルですね。
45,000食を提供するなかで考えていくことなので、
どこまで対応できるかは、今の課題だと思います。
山根
選手のみなさんは
競技を目的にいらっしゃいますので、
食べ慣れたものを食べたいんです。
珍しいもの、おいしいものよりも、
普段食べているものを試合前に食べて
コンディションを整えることが基本になりますから、
どうしてもそっちが主眼になってきます。
高梨
今、メニュー承認を進めているところですが、
この調味料は用意されていますか?」と、
ピンポイントでお問い合わせが来ることもあります。
日本国内で用意できるか、できないかを判断しながら
どれだけそろえられるかが肝ですね。
用意できるようであれば情報を提供しますし、
用意できない場合でも「用意されてない」という
情報を提供しないといけません。
日本での準備ができない調味料については、
各国で準備をしていただく流れになりますから。
でも、できるだけ用意するということで、
事業者と情報を収集しながら準備を進めています。
山根
日本には普及していないような調味料でも、
その国や地域で食べ慣れているようなものであれば、
リクエストは来るので、できるだけ応えられるように。
乗組員B
ちなみに過去大会の選手村でいうと、
リオデジャネイロとか平昌に行かれて
参考にされたポイントはありますか?
高梨
私はちょっと前になってしまうのですが、
ロンドン大会をチームのスタッフ側で経験しています。
乗組員B
ロンドンオリンピック、2012年ですね。
高梨
ただ、チームスタッフとして利用する側と、
準備をする運営側では視点が全然違いますので、
あまり参考にはなっていないかもしれません。
乗組員A
ちなみにどのチームで?
高梨
全日本女子のバレーボールチームで
栄養のスタッフをしていました。
乗組員A
わっ、銅メダルを獲得した
女子バレーボール!
高梨
かなり過去の話ですが。
乗組員A
さがしていた、見失っていた光は、
ロンドンの風の中にありました!」
の実況で覚えています。
ああ、そうでしたか。
高梨
ありがとうございます(笑)。
経験していないとイメージしづらい
規模感については役に立ってると思います。
雰囲気の経験はしていますが、
組み立てていくのに役に立ってるのかどうか‥‥。
乗組員B
スタッフのみなさんは、
日本食を食べるのでしょうか。
それとも自由に、
ロンドンならではのものを食べるんですか。
高梨
ロンドン大会でもコーナー分けがされていて、
アジア・インディア」のコーナーで、
自分の好きなものを選んでくるという感じでした。
余裕があるときにはいろんなコーナーに寄って
選ぶこともありましたけれども、
試合前は、時間との勝負になるので
目的のものだけを取るぐらいでしたね。
競技が終わったあとは、ゆっくり食べられます。
乗組員B
女子バレーは団体競技なので、
おいしいものを見つけたりしたら
情報交換をしながら食べるんですか。
それとも、みんなが集中するために
黙々と食べているのでしょうか。
高梨
おいしい食べものの情報は
チームの中に伝達してるみたいですね。
あれがおいしいよ」
というのは広まっていましたね。
乗組員B
ああ、その光景は微笑ましいですね。

つづきます)
2019-11-23-SAT