1人間くさい仕事。
- 乗組員A
- 本日はよろしくおねがいします。
- 高橋、林、井竹
- よろしくおねがいします。
- 乗組員A
- (名刺をみながら‥‥)
競技計画部・競技計画課、
競技・練習日程チーム、
というところのご所属なんですね。
具体的にみなさんは、
どのようなお仕事をされているんですか?
- 高橋
- 仕事内容としては、
東京2020大会で実施される競技の開催日程や、
選手たちの練習日程の調整です。
競技の実施場所はすでに決まっていたので、
どの競技の予選から決勝までを、
いつ、何時から何時まで実施するか、
スケジュールを調整する仕事です。
- 乗組員A
- 東京2020大会は
オリンピックでは33競技339種目、
パラリンピックでは22競技540種目が
実施されますよね。
そのすべてのスケジュールを?
- 高橋
- そうです。
決めるといっても
僕たちの独断で決められないので、
たくさんの関係者たちとスケジュールを
調整する毎日です。
- 乗組員B
- 毎日調整、ですか。
- 高橋
- 僕たちはすべての競技に詳しいわけではありません。
各競技には「スポーツマネージャー」とよばれる
競技に精通した責任者がおり、
彼らが「国際競技連盟」という、
各競技の国際統括団体との窓口を
担ってくれています。
国際競技連盟の意見を
スポーツマネージャーがとりまとめてくれるので、
僕たちは彼らをはじめ、
IOC(国際オリンピック委員会)や
IPC(国際パラリンピック委員会)など
関係機関の間に入って、
「どの競技をいつ、何時からやりたいか」
要望を聞いて意見をまとめる「調整役」
みたいなことをやっているんですね。
- 乗組員B
- ほお。
- 高橋
- 組織委員会の中には
セキュリティ、輸送、会場清掃、
放送、会場マネジメント、エネルギーなど
いろーんな部署があって、
それぞれの意見をまとめなきゃいけないので、
必然的に、調整に追われる毎日に。
- 乗組員A
- 想像しただけで大変そうです。
- 乗組員B
- ほんとうですね‥‥。
- 乗組員A
- その「どの競技をいつ、何時からやる」というのは、
どんな風に決めていくのですか?
- 高橋
- いきなり細かい競技日程を決めるのではなくて、
大きくわけて4種類のスケジュールを
順に考えました。
いちばんに考えたのは「デイリースケジュール」。
デイリースケジュールというのは、
オリンピック・パラリンピック
それぞれの競技の予選や決勝を
「何月何日にやるか」日程を組み立てたものです。
- 乗組員A
- デイリースケジュール。
これはどれくらいの時間をかけて、
考えるんですか?
- 高橋
- 僕が着任した2017年4月に考えはじめて、
11月末にIOCに素案を提出しました。
- 乗組員A
- え、約8ヶ月ですか。それは長い。
- 高橋
- でも、これで「完成」ではなくて
あくまでも素案なんです。
次に考える「セッションスケジュール」と同時に
最終調整をして、確定しました。
- 乗組員B
- セッションスケジュール?
- 高橋
- 競技を「何時から何時まで実施するか」という、
日程に時間的要素が入ってきたものです。
これを決めるのにも8ヶ月くらいかかりまして、
ひとまず形になって、7月にIOC理事会に
承認されたときはホッとしました(笑)。
- 乗組員B
- これだけ決めるのに時間がかかるのは、
調整ごとが多いからですか?
- 高橋
- そうですね。
競技によって実施条件があるので、
はじめにスポーツマネージャーと
国際競技連盟に対して、
調整をお願いするんですね。
たとえば、ある競技では泳ぐ際に、
「水温は何度以下でなければいけない」
という実施条件がありまして。
そうすると、日中だと
水温が上がるリスクがあるので、
午前中の方がよい、ということになります。
- 乗組員B
- そんな、細かい規定が。
- 高橋
- 競技ごとの規定を踏まえた希望を
国際競技連盟から聞いて、
ベースとなる競技日程を組むんです。
で、今度はそのベースとなる競技日程を持って、
各会場のオペレーションを統括する
会場チームに対して、
「この競技日程でやれますか?」
と調整をお願いしに回って。
- 乗組員B
- お願いしに回る‥‥
意外とアナログな方法なんですね。
- 高橋
- 直接会った方が話しやすいですしね。
- 乗組員B
- どんな仕事もそうですよね。
- 高橋
- そうすると部署によって、いろんな意見を言います。
「この時間では早すぎてスタッフが動けない」
「この時間までに会場を準備するのは難しい」
「インターバルが短すぎて掃除ができない」
「終了時刻が遅くて終電に間に合わない」など
問題が、うわあっと湧き出てくるんです。
- 乗組員B
- ひやあー。
- 高橋
- 万が一のことが起きたら怖いですから、
意見を言ってもらった方が僕たちも
いろんな可能性を考慮できるのでいいのですが、
全ての意見を網羅することは難しいので、
どこを調整しようか悩ましいところ。
さらにもう一度、組織委員会の意見をまとめて、
セッションスケジュールを決め直して、
国際競技連盟に再確認。
さらにもう一つ、OBS
(オリンピック・ブロードキャスティング・サービス)
という放映権を持っている団体の意見も重要でして。
- 乗組員B
- OBS?
- 高橋
- 放映権を持っている各国のテレビ局を
統括している団体ですね。
日本で大会を観戦する方よりも、
テレビを通して観る方のほうが圧倒的に多いので、
画面の向こう側にいる観客は無視できません。
各国のテレビ局もプライムタイムに
自国の人気競技を放映したいので、
そうした放映権者の要望も
考慮しなければならないんです。
- 乗組員B
- えーっと‥‥
つまり関係者の構造としては‥‥
- 高橋
- 大きく分類すると
大会組織委員会と国際競技連盟がいて、
OBS、IOC・IPCがいますね。
利害関係の異なる人が多ければ多いほど
まとまらないことって、
会社の会議でもよくありますよね。
まさにそういう状況で(笑)。
お互いの妥協点を探りながら日程を決めました。
- 乗組員B
- もっと、トップダウンで
調整をされていると思っていたのですが、
けっこう人間くさい感じですか?
- 林
- 意外と人間くさいです。
毎日担当の現場や部署に足を運んで。
- 乗組員B
- イメージとしては、
企業の営業さんのような。
- 林
- 近いですね。
- 乗組員B
- 「うちの要望、通ってないじゃないか!」と
怒られることもあったり。
- 林
- みなさん大人ですし、
お互いの状況もわかっているので
そんなに感情的にはなりませんけどね。
でも、怒られることは、ときどきありました(笑)。
- 高橋
- 僕らもできるだけ意見を汲み取りたいのですが、
どうしても国際競技連盟と組織委員会と
OBS、IOC・IPC、
お互いの要望がそぐわないことはあります。
必死にお互いが納得できる解決策を探って、
顔見せて、頭下げて。
- 乗組員A
- あー、人間くさいですね。
- 乗組員B
- しかも競技日程だけではなくて、
試合時間や練習日程も調整するんですよね。
- 高橋
- そうですね。
なかなか、一筋縄ではいかないです(笑)。
(つづきます。)
2018-12-25-TUE