妖怪・精霊・神様の絵を描く金子富之さん。
東北の山深い「限界集落」に建つ
古めかしい日本家屋で、
妖怪・精霊・神様などの絵を描く画家、
金子富之さん。
恐怖、畏怖、荘厳、神秘、不気味‥‥。
おどろおどろしさと、神々しさと。
目を逸らすことができないほどの、
妖しい魅力に誘い込まれるようにして、
金子さんの世界を覗いてきました。
(帰ってこれました)
担当は「ほぼ日」奥野です。ぜひ。
第1回
妖怪の絵に、救われた。
- ──
-
金沢の21世紀美術館へ
池田学さんの展覧会を見に行ったとき、
ミヅマアートギャラリー代表の
三潴末雄さんが、たまたまいらして、
「池田学、すばらしいでしょう。
次は、金子富之だよ」
って、おっしゃっていたんです。
- 金子
-
本当ですか。うれしいです。
- ──
-
そのときは、金子さんのことを知らず、
家に帰って調べてみたら、
妖怪とか精霊とか神様を描いた作品に、
一気に引きずり込まれてしまって。
- 金子
-
ありがとうございます(笑)。
- ──
-
しかも、山形県にある「限界集落」の、
いかにも何か出そうな(笑)、
古い日本家屋で制作されていると聞き、
さらに興味が湧いてきました。
- 金子
-
はい、ここに住んで、制作活動しています。
- ──
-
もともとは、ご出身は別なんですよね。
- 金子
-
ええ、予備校までは埼玉県にいました。
大学でこっち‥‥東北に来たんです。
描いていたのも、
当時はもっぱら風景画だったんです。
- ──
-
へえ、そうなんですか。妖怪じゃなく。
- 金子
-
でも、かなり無理して描いていたので、
身体を壊してしまって。
- ──
-
無理?
- 金子
-
ええ、すごく自分に負荷をかけていたので、
健康を害してしまったんです。
そのときに、自分が本当に描きたいものを
描いてないから苦しいんだ、
描きたいものを描かなきゃダメだと思って、
妖怪や神様を描きはじめたんです。
- ──
-
で、そちら方面で大爆発してしまった。
- 金子
-
そうかなぁ、はい(笑)。
- ──
-
苦手なことを、
歯を食いしばってまでがんばるのって、
大変ですもんね。
- 金子
-
やはり自分に合ってることをやるのが、
いちばん、
自分の能力を発揮できるということを
痛感しました。
本当に興味のあるモチーフ、
本気で追求していきたいテーマ‥‥。
- ──
-
それが、妖怪・精霊・神様だったと。
風景を描いていたころは、
風景が合ってると思ってたんですか。
- 金子
-
そうですね‥‥日本画だったんですが、
そのときから、
風景をスケッチするにしても、
神社だったり、
そういう場所ばっかり描いてたんです。
なので、風景を描いてはいたんですが、
やっぱり意識は、当時から、
目に見えない世界へ向いていたんです。
- ──
-
でも、こう見ると、
風景画も素敵だなあって思うのですが。
何が辛かったんでしょうね。
- 金子
-
限界を感じたんです。
- ──
-
自分に?
- 金子
-
はい。
本当に毎日ギリギリまでやっていて、
これ以上は無理というところまで
絵に向かっていたのですが、
「これだけやっても、
これくらいしか描けないのか」と。
- ──
-
そうなんですか。
でも、それほどまでにストイックに。
- 金子
-
かなり自分に厳しくやっていました。
で、厳しくすればいいってわけでも
ないみたいで、
自分に厳しくしすぎたら、
ただ病気になっただけでした(笑)。
- ──
-
なるほど‥‥。
- 金子
-
たぶん、そこで一回「壊れた」んです。
- ──
-
心身ともに。
- 金子
-
自分を取り巻く世界が、
八方ふさがりになってるような感じで、
閉じてしまったんです。
それが、1999年くらいのことでした。
- ──
-
今から20年くらい前。
- 金子
-
当時は、絵に対しても自分に対しても、
可能性を感じられなくなって、
世界が、すっかりすぼまってしまって。
- ──
-
ええ。
- 金子
-
そこで心機一転フィールドへ出ようと、
大学のスケッチ旅行で
チベットへ向かったんです。
で、飛行機に乗っていたら‥‥
夜明けを迎えて、
真横から、朝日が差してきたんですよ。
- ──
-
はい。
- 金子
-
不思議なことに、その光を浴びた瞬間、
「あ、やっていけるかもしれない」
「自分は大丈夫かもしれない」
って、思ったんです。
なんの根拠もなかったんですけど‥‥。
- ──
-
太陽って、すごいものですね‥‥。
で、そのあと、今みたいな方向に。
- 金子
-
はい。
- ──
-
それまでにも、
妖怪の絵とかって描いていたんですか。
- 金子
-
描いてませんでした。好きでしたけど。
- ──
-
風景をスッパリやめて、
妖怪や精霊や神様を描き出したら‥‥、
いかがでしたか。
- 金子
-
これだと思いました。これしかないと。
感情が乗ったんですね。絵に、感情が。
で、絵に感情が乗ってくると、
自分自身が絵と共鳴して、
絵と、シンクロしはじめたんです。
- ──
-
おお。
- 金子
-
そして、それまでに感じたことのない
カタルシスを感じて‥‥。
- ──
-
わあ。
- 金子
-
救われたと思いました。
- ──
-
妖怪とか、精霊とか、神様の絵に。
- 金子
-
はい。
<つづきます>
山形ビエンナーレ2018に、
金子富之さんの
「首かじり」が出ます‥‥。
2018年9月1日(土)~24日(月・祝)の期間中の
<金・土・日・祝日>に開催される
「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2018」に
金子富之さんの「首かじり」が展示されます。
(作品の展示場所は上山市の「蟹仙洞」とのこと)
ほら、首をかじってるんです‥‥。お、恐ろしい‥‥。
恐ろしいけど‥‥見てみたい。そんな人は、ぜひ。
なお、その他の参加者の顔ぶれを見ると、
荒井良二さんが芸術監督をつとめてらっしゃったり、
ミロコマチコさんの展示や、
皆川明さんが出演するトークイベントなどなど、
「ほぼ日」でもおなじみのみなさんが
いろんなかたちで、関わってらっしゃるようですよ。
夏の終わりのアートのお祭り、参加してみては。
詳しいことは、公式サイトでチェックを。
みちのおくの芸術祭
山形ビエンナーレ2018
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- 会 期
- 2018年9月1日(土)~9月24日(月・祝)の間の週末(金・土・日・祝日)のみ開催。
※開館時間・休館日などは施設による
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- 主な会場
- 山形県郷土館「文翔館」、とんがりビル、郁文堂書店、BOTA coffee&BOTA theater、gura、
長門屋ひなた蔵・塗蔵、東北芸術工科大学キャンパス
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- 芸術監督
- 荒井良二
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- ホームページ
- https://biennale.tuad.ac.jp