妖怪・精霊・神様の絵を描く金子富之さん。
東北の山深い「限界集落」に建つ
古めかしい日本家屋で、
妖怪・精霊・神様などの絵を描く画家、
金子富之さん。
恐怖、畏怖、荘厳、神秘、不気味‥‥。
おどろおどろしさと、神々しさと。
目を逸らすことができないほどの、
妖しい魅力に誘い込まれるようにして、
金子さんの世界を覗いてきました。
(帰ってこれました)
担当は「ほぼ日」奥野です。ぜひ。
第2回
見たことないけど、「いる」。
- ──
-
妖怪や精霊や神様みたいな存在が、
好きだったんですか、昔から。
- 金子
-
はい。目に見えない世界のことが、
ずっと気になっていました。
こどものころから‥‥怪獣だとか。
ネッシーみたいなものまで含めて。
- ──
-
ツチノコとか。
- 金子
-
雪男とか。
- ──
-
きっかけは、マンガとか? 怪談とか?
- 金子
-
学研の「ひみつシリーズ」という、
宇宙人だとか怪獣だとか幽霊だとかが
「いるか、いないか」について、
マンガで描いた本に興味を持ちました。
もともとは、
恐竜好きの子どもだったんですが‥‥。
- ──
-
そこから。
- 金子
-
はい。未確認生物、宇宙人、幽霊、
妖怪、神様、と。
- ──
-
その順番で(笑)。
- 金子
-
そうやって「異形のもの」に惹かれて、
子ども時代を過ごしていました。
公文に通っていたんですけど、
帰りが夜遅くなっちゃったりしたとき、
あえて暗い道を通ったりして。
- ──
-
それは、ようするに
何かに出会えるんじゃないか‥‥と?
- 金子
-
出会いたいというより、
暗闇に対して興味があったんですよね。
怖いけど恐れてはいけない、みたいな、
そんな気持ちがあって。
- ──
-
暗闇から目を逸らしてはいけない、と。
- 金子
-
闇の中に、お堂がぼうっと浮かんでたり、
棕櫚(しゅろ)の木が
どこか人間の黒髪みたいに見えたり‥‥。
廃墟があったら行きたくなっちゃうし、
洞窟があったら入りたくなっちゃうし。
- ──
-
でも、それを絵に描こうとは、思わず。
- 金子
-
そうですね。思わなかったです。
一時期は、
「オバケを描くなら、見なきゃダメだ」
とも思ってましたし。
- ──
-
おお、リアリズム!
でもそれ、努力だけじゃ無理ですよね。
そういうものを「見る」には。
- 金子
-
そうですね(笑)。
- ──
-
実際、妖怪や精霊や神様みたいなものを
ごらんになった経験は‥‥。
- 金子
-
ないです。いるだろうなとは思いますし、
変な体験をしたことも何度かありますが、
見たことは一回もないんです。
- ──
-
でも、この家で、あの絵を描いていたら、
見たことないのに
いるだろうなって思ってしまう気持ちも、
わからないではないです。
で、いると思うけど見たことはないって、
正直でいいと思いました(笑)。
- 金子
-
はい(笑)。
- ──
-
金子さんが描く絵のモチーフって、
実際のビジュアルというか、
流布されているイメージとしては、
「ない」場合がありますよね。
つまり「ナントカ神」と言っても、
こうです、という決まった姿が。
- 金子
-
そうですね。
- ──
-
その場合、その姿は、想像で?
- 金子
-
はい、想像です。内と外との。
- ──
-
内と外?
- 金子
-
禅や修験道で修行をする人たちが、
過酷な状況に身を置いていると、
幻覚が見えちゃう、みたいなことが、
あるらしいんですけど。
- ──
-
ええ、山伏の知人に、
えらい煙でいぶされる修行があるって
聞いたことがありますが、
たぶん、そういうときに‥‥ですかね。
- 金子
-
そういうのを「魔境に入った状態」と
言うそうなんですが、ぼくも、
眠っている状態と起きている状態との
中間あたりに意識を置いておくと、
何かが‥‥見れるときがあるんですよ。
- ──
-
それ、意図的にできるんですか?
- 金子
-
できます。
というか難しいことじゃなくて、
まあ、眠いのに眠らないでがんばって、
我慢し続けるだけなんですけど。
- ──
-
おお、根性で(笑)。で、そうすると、
半覚醒のような状態になって‥‥。
- 金子
-
そう、そういうときに見た変なものを、
絵に描いたこともあるんです。
- ──
-
へえ‥‥それは、ありありと現れる?
- 金子
-
手でつかめそうなほどリアルに‥‥。
これとか、そうです。
- ──
-
わあ‥‥誰ですか、これは。
- 金子
-
頭にナマズを乗っけてる黒いピエロ。
‥‥なんだかわかんないけど(笑)。
- ──
-
はい(笑)。
- 金子
-
で、そんなことをして描いても、
正直、おもしろいとは思わないんです。
- ──
-
絵としては。なるほど。
- 金子
-
ですから、普段は外からのイメージと、
内からの想像力を混ぜて描いてます。
- ──
-
ああ、そういう意味で「内と外」ですか。
- 金子
-
何もないところからは、浮かびづらいんです。
ドローイングを繰り返してるうちに、
ちょっとずつ、イメージが湧いてくることも
多いんですが、その場合も、
ただの真っ白い紙より、
少し汚れてたり、シミがあったりするほうが、
何かが‥‥出てきやすいです。
- ──
-
シミから生まれる妖怪! おもしろい。
- 金子
-
ぼくの場合は、意識の深いところから
無理に引っ張り出したイメージを描いても、
納得のいく絵には、なりにくいんです。
- ──
-
魔境から持って帰ってきたイメージ‥‥
とか言うと、
ありがたがったりしちゃいそうですけど、
そんなこともないんですね。
- 金子
-
やっぱり意識がハッキリ覚醒した状態で
作品に向かわないと、ダメですね。
それに、「魔境」ですから、
あんまり行ったり来たりはしないほうが
いいかなとも思いますし(笑)。
<つづきます>
山形ビエンナーレ2018に、
金子富之さんの
「首かじり」が出ます‥‥。
2018年9月1日(土)~24日(月・祝)の期間中の
<金・土・日・祝日>に開催される
「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2018」に
金子富之さんの「首かじり」が展示されます。
(作品の展示場所は上山市の「蟹仙洞」とのこと)
ほら、首をかじってるんです‥‥。お、恐ろしい‥‥。
恐ろしいけど‥‥見てみたい。そんな人は、ぜひ。
なお、その他の参加者の顔ぶれを見ると、
荒井良二さんが芸術監督をつとめてらっしゃったり、
ミロコマチコさんの展示や、
皆川明さんが出演するトークイベントなどなど、
「ほぼ日」でもおなじみのみなさんが
いろんなかたちで、関わってらっしゃるようですよ。
夏の終わりのアートのお祭り、参加してみては。
詳しいことは、公式サイトでチェックを。
みちのおくの芸術祭
山形ビエンナーレ2018
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- 会 期
- 2018年9月1日(土)~9月24日(月・祝)の間の週末(金・土・日・祝日)のみ開催。
※開館時間・休館日などは施設による
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- 主な会場
- 山形県郷土館「文翔館」、とんがりビル、郁文堂書店、BOTA coffee&BOTA theater、gura、
長門屋ひなた蔵・塗蔵、東北芸術工科大学キャンパス
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- 芸術監督
- 荒井良二
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- ホームページ
- https://biennale.tuad.ac.jp