妖怪・精霊・神様の絵を描く金子富之さん。
東北の山深い「限界集落」に建つ
古めかしい日本家屋で、
妖怪・精霊・神様などの絵を描く画家、
金子富之さん。
恐怖、畏怖、荘厳、神秘、不気味‥‥。
おどろおどろしさと、神々しさと。
目を逸らすことができないほどの、
妖しい魅力に誘い込まれるようにして、
金子さんの世界を覗いてきました。
(帰ってこれました)
担当は「ほぼ日」奥野です。ぜひ。
第3回
肉を売りにくる、おばあさん。
- ──
-
大学進学で東北にいらしたのは、
やっぱり、
得体の知れない何かに誘われて‥‥
みたいな動機ですか。
- 金子
-
予備校生のときに、赤坂憲雄先生の
『遠野物語考』を読んで、
東北という地に興味を惹かれました。
民話とか伝説とか妖怪みたいな話が、
たくさん残っていると知って。
- ──
-
実際に来てみて、どうでしたか。
- 金子
-
はい、たくさん教えてもらいました。
正直、東京の真ん中で
「山姥(やまんば)が来るぞ!」
って言われても、
怖くはないじゃないですか。
- ──
-
まあ、そうですね。
- 金子
-
でも‥‥ここで聞くと怖いんですよ。
夜の闇とか、本気で恐ろしいし。
- ──
-
そうでしょうね‥‥場の力。
- 金子
-
村の人たちから聞く伝説なんかも、
まったく根拠のないところから
生まれたわけでもないような、
何とも言えない感触があるんです。
たとえば、その昔、このあたりに、
どこからともなく
「肉」を売りに来るおばあさんが、
いたらしいんです。
- ──
-
ええ‥‥‥‥‥肉。
- 金子
-
金山峠って峠を越えて、来ていたと。
で、あるとき買った肉を見てみたら、
人間の爪みたいなものが‥‥。
- ──
-
こっ‥‥‥‥‥怖い。
- 金子
-
村の人に聞いた話です。
それも、いわゆる怪談話じゃなくて、
たんたんと、
「昔、そういうことがあったんだ」
というトーンで話すので、
まったく根拠がない話にも聞こえず、
かえってリアルなんです。
- ──
-
先ほど、このあたりには、
大蛇伝説もあるって言ってましたね。
- 金子
-
山賊のすみかに大蛇が住んでるって
言い伝えなんですけど、
実際このへんのアオダイショウとか、
相当、大きくなるので‥‥。
- ──
-
ようするに、民間伝承って
多かれ少なかれ
現実に根ざしているということですか。
今みたいな話って、仲良くなった人に、
聞いたりしてるんですか。
- 金子
-
ええ、村の集まりがあったときなどに、
お年寄りが教えてくれるんです。
話だけなら「え、ほんとかなあ?」と
思うかもしれないけど、
帰り道、
本物の真っ暗闇に包まれてみると‥‥。
- ──
-
「あの、さっきの話‥‥」みたいな。
- 金子
-
怖くないときは、
暗闇でも一人で歩けたりもしますけど、
何か心に不安があったり、
恐怖の想像力が旺盛になったときは、
昼日中でも、
電気がついていても、怖くなるんです。
不安で生じた心の亀裂から、
恐怖が、「侵入」してくるような‥‥。
- ──
-
具体的ではないんだけど、
なんとなく嫌な感じとか、
本能的に感じる恐さってありますよね。
- 金子
-
とくに暗闇の中では、大げさじゃなく、
生命の危機を感じたりします。
ここにいたら危ないぞ‥‥みたいな、
そういう状況下では、
妖怪だとか幽霊だとかっていうよりも、
もっと漠然とした、
得体の知れない恐怖感みたいなものを、
肌身で感じる気がします。
- ──
-
一方で「オバケなんて、非科学的だ」
という意見もありますが、
でも、妖怪とか怪異現象って、
実は、現代の西洋科学と同じ役割を
担っていたんだと、
京極夏彦さんもおっしゃってますね。
- 金子
-
ええ。
- ──
-
つまり、現代西洋文明に住む自分たちは
科学を通して世界を認知しているけど、
昔の農村のお百姓さんたちは、
その村に伝わる
民話や伝承や言い伝えなんかをつうじて、
世界を認知していたんだ、と。
だから、妖怪も西洋科学も、
「周囲の世界を見るメガネ」という点で、
同じ役割をしてるんだって。
- 金子
-
村人たちの共通認識が、
その村や山の領域の情報空間を
つくっていると考えれば、
まさしく、そのとおりですよね。
- ──
-
人智の及ばない天変地異が起こったら、
妖怪のしわざにしたり、
神様のお怒りに触れたからだ‥‥とか。
つまり、凄い雷が落ちて人死が出たのは、
菅原道真公を、
太宰府に島流しにしたからだぞ‥‥って。
- 金子
-
現代の西洋科学の言葉で「雷とは」って
定義するのが現代の文明人なら、
当時の人々は、
「雷は、菅原道真公のたたりなんだ」と。
- ──
-
たしかに自分も、科学的な考えのほうを
より信じてはいますけど、
でも、それですべて割り切っちゃうと、
「物語」の入る余地が、
どこにもなくなっちゃう気がしています。
- 金子
-
納得したいんでしょうね、人間、何でも。
いつの時代でも。
だから、現代科学のなかった昔にも、
このひどい自然災害などが
なぜ起こったのか、
納得したかったと思うんです、人々は。
- ──
-
そこで「物語」が発明された。
- 金子
-
あの山の奥の霧の向こうに何かがいる‥‥
と言われても、「何か」じゃ納得できない。
だから「大蛇だ」「山賊だ」「山姥だ」
と言って、具体的な物語にすれば、
怖いけど納得できて、
たぶん、生きやすくなると思うんです。
- ──
-
納得っていうのは、つまり
「正体を知ることで不安を解消したい」
ですよね。
犯人の動機は‥‥って知りたがるのも、
漠然とした不安を解消したい、
理解することで納得したいわけですし。
- 金子
-
だって納得できないとソワソワするし、
落ち着かないですもんね。
だから、人は「納得」を、
求めて生きてるんだろうなと思います。
- ──
-
そのための装置が「物語」であると。
ちなみに関係ないですが、
金子さんは、ご自分の絵は怖いですか。
- 金子
-
自分の絵は怖くないですね。
- ──
-
じゃあ、こういう人に暗闇で会っても‥‥。
- 金子
-
それは会いたくないです。
会ったら、急いで逃げます‥‥(笑)。
<つづきます>
山形ビエンナーレ2018に、
金子富之さんの
「首かじり」が出ます‥‥。
2018年9月1日(土)~24日(月・祝)の期間中の
<金・土・日・祝日>に開催される
「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2018」に
金子富之さんの「首かじり」が展示されます。
(作品の展示場所は上山市の「蟹仙洞」とのこと)
ほら、首をかじってるんです‥‥。お、恐ろしい‥‥。
恐ろしいけど‥‥見てみたい。そんな人は、ぜひ。
なお、その他の参加者の顔ぶれを見ると、
荒井良二さんが芸術監督をつとめてらっしゃったり、
ミロコマチコさんの展示や、
皆川明さんが出演するトークイベントなどなど、
「ほぼ日」でもおなじみのみなさんが
いろんなかたちで、関わってらっしゃるようですよ。
夏の終わりのアートのお祭り、参加してみては。
詳しいことは、公式サイトでチェックを。
みちのおくの芸術祭
山形ビエンナーレ2018
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- 会 期
- 2018年9月1日(土)~9月24日(月・祝)の間の週末(金・土・日・祝日)のみ開催。
※開館時間・休館日などは施設による
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- 主な会場
- 山形県郷土館「文翔館」、とんがりビル、郁文堂書店、BOTA coffee&BOTA theater、gura、
長門屋ひなた蔵・塗蔵、東北芸術工科大学キャンパス
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- 芸術監督
- 荒井良二
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- ホームページ
- https://biennale.tuad.ac.jp