怪・霊・神様の絵を描く金子富之さん。

  • 炎の擁護者(ほのおのようごしゃ)制作風景
  • 2009-2013
  • 岩絵具、墨、アクリル、箔、薄美濃紙
  • 230X1350cm
  • ©KANEKO Tomiyuki Courtesy Mizuma Art Gallery

東北の山深い「限界集落」に建つ
古めかしい日本家屋で、
妖怪・精霊・神様などの絵を描く画家、
金子富之さん。
恐怖、畏怖、荘厳、神秘、不気味‥‥。
おどろおどろしさと、神々しさと。
目を逸らすことができないほどの、
妖しい魅力に誘い込まれるようにして、
金子さんの世界を覗いてきました。
(帰ってこれました)
担当は「ほぼ日」奥野です。ぜひ。

第4回

場所の持つ「力」に抗えない。

──

さっき、東京のど真ん中で
「山姥が来るぞ!」って言われても
何とも思わないけど、真夜中、
このあたりで聞くと怖くなっちゃう‥‥
という話がありましたが。

金子

ええ。

──

画家である金子さんにとって、
場所って、けっこう大事な要素ですか。

こういう家にも住んでるわけですけど。

金子

はい。大事です。ものすごく。

単純に、別のアトリエで描いてたら、
別の絵になっていると思います。

──

そうでしょうね、きっと。

  • 天手力男神(あめのたぢからおのかみ)
  • 2014
  • 岩絵具、透明水彩、アクリル、ペン、箔、薄美濃紙
  • 200X300cm
  • ©KANEKO Tomiyuki Courtesy Mizuma Art Gallery
金子

これは‥‥説明しづらいんですが、
ちいさいころから
「場所に持っていかれる」感覚が
ものすごくあって。

──

持っていかれる?

金子

自分の気持ちが
自分を取り巻いている「場所」に
持っていかれちゃう‥‥
つまり、
その場所と同じ気持ちになっちゃって、
自分自身の気持ちを
乗っ取られてしまう‥‥というか。

──

場所と同じ気持ち。

金子

どう表現していいか悩むんですが、
新しい場所に入ると、
まるで、
自分がそれまで生きてきた感覚や、
持続してきた思い、雰囲気などを
持ってかれてしまうんです。

──

それって、元に戻らないんですか。

金子

自分の家に帰ってきて、
しばらくしたら、復活するんです。

たとえば2~3日、
旅行でどこかへ行って帰ってきたら、
元の自分を取り戻すまでに、
また2~3日はかかる、みたいな。

──

それって「嫌な感覚」ですか。

金子

子どものころは苦痛だったんですが、
大人になってからは、
持ってかれる感覚を楽しめるように
なってきました。

──

そんなに
ヒョイヒョイ持ってかれるんですか。

金子

しょっちゅう持ってかれます。
置いてかれてます(笑)。

──

この家に5年も住んでるってことは、
金子さん、
もう、だいぶ持ってかれてますね。

金子

ええ、戻ってこれないほど(笑)。

とにかく、場所というものには
得体の知れない「力」があるなと、
子どものころから感じていました。

──

それとは逆に、
雰囲気のまま動く人っていますよね。

金子

というと?

──

いっしょにいると、その場が、
その人のルールになってしまうような
ちからを持っている人‥‥。

たとえば、写真家の梅佳代さんなんか、
そんな人じゃないかなと思う。

金子

強いんじゃないですかね、そういう人。
どこへ行っても、その人のままだから。

──

そうなんです。梅佳代さんて
石川県の能登のご出身なんですけど、
そこの雰囲気‥‥
もっと言うと、育った実家の空気を
自分の半径3メートルの空間に
満たしたまま動いてる感じなんです。

金子

へえ。

──

で、その空間の内側に入っちゃうと、
交わされる言葉のニュアンスも、
微妙に、その場の、
梅佳代さんのルールになるというか。

金子

どんな場所に行っても、
自分の雰囲気をキープできる人って、
何かについて信じ切ることが出来て、
つねに、安定してそうです。

──

安定している‥‥ように、見えます。

有名人を撮るのも、
そこらへんの小学生男子を撮るのも、
同じように見えますから。

金子

ぼくの場合は場所に敏感すぎて、
場所の影響を、
ものすごく受けてしまうんです。

──

でも、だからこそ、
こういう家を仕事場にしてる意味が、
あるわけですよね。

ちなみにですけど、
奥様的には平気なんですか、この家。

金子

もともとは、家内が住んでたんです。

──

あ、へえ。そうだったんですか。

じゃあ、奥様は、
妖怪とかオバケにも動じないタイプ?

金子

いえ、大嫌いみたいです。

──

は、じゃあ、金子さんの絵とか‥‥。

金子

作品の話はあまりしないんですが、
幽霊の掛け軸とか
描いたこともあるんですけど、
正気の沙汰じゃないって
思ってたでしょうね‥‥たぶん。

──

これだけ巨大な妖怪の絵があるのに、
そこに触れずに暮らせるんですか。

え、どうやって知り合ったんですか。

金子

妖怪仮装大会で知り合いました。

──

なんですかそれ!(笑)

オバケが大嫌いで、
金子さんの描かれる作品については
話もしないのに、
妖怪仮装大会にはご出場されて‥‥。

金子

出てました。「口裂け女」で。

──

なぜ‥‥友だちの付き合いか何かで、
イヤイヤ出たんですかね。

金子

いや、かわいい系の仮装が多いなか、
ひとりだけ、
暗黒舞踏みたいな世界観で出てたし、
けっこう勝ちに来てたと思う。

──

おもしろい‥‥(笑)。

金子

だってぼく、審査員だったんですけど、
家内に1票入れたくらいですから。

──

おお(笑)。

金子

そしたら、優勝しちゃったんですよ。
そこからでしたね。

──

お付き合いがはじまったのは?

金子

はい。

──

それで、そのまま、結婚までされて?

金子

ええ、あんな仮装するくらいですから、
自分よりヤバいんじゃないかと、
最初、距離を置いてたんですけど‥‥。

不思議なもので、結婚しちゃいました。

──

金子さん‥‥おもしろすぎます(笑)。

  • 蚯蚓の怪(みみずのかい)
  • 2012
  • 岩絵具、透明水彩、墨、ペン、絹
  • 120X42.5cm
  • ©KANEKO Tomiyuki Courtesy Mizuma Art Gallery

<つづきます>

山形ビエンナーレ2018に、
金子富之さんの
「首かじり」が出ます‥‥。

2018年9月1日(土)~24日(月・祝)の期間中の
<金・土・日・祝日>に開催される
「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2018」に
金子富之さんの「首かじり」が展示されます。
(作品の展示場所は上山市の「蟹仙洞」とのこと)
 ほら、首をかじってるんです‥‥。お、恐ろしい‥‥。
恐ろしいけど‥‥見てみたい。そんな人は、ぜひ。

なお、その他の参加者の顔ぶれを見ると、
荒井良二さんが芸術監督をつとめてらっしゃったり、
ミロコマチコさんの展示や、
皆川明さんが出演するトークイベントなどなど、
「ほぼ日」でもおなじみのみなさんが
いろんなかたちで、関わってらっしゃるようですよ。
夏の終わりのアートのお祭り、参加してみては。
詳しいことは、公式サイトでチェックを。

みちのおくの芸術祭
山形ビエンナーレ2018

  • 会 期
    2018年9月1日(土)~9月24日(月・祝)の間の週末(金・土・日・祝日)のみ開催。
    ※開館時間・休館日などは施設による
  • 主な会場
    山形県郷土館「文翔館」、とんがりビル、郁文堂書店、BOTA coffee&BOTA theater、gura、
    長門屋ひなた蔵・塗蔵、東北芸術工科大学キャンパス
  • 芸術監督
    荒井良二
  • ホームページ
    https://biennale.tuad.ac.jp