妖怪・精霊・神様の絵を描く金子富之さん。
東北の山深い「限界集落」に建つ
古めかしい日本家屋で、
妖怪・精霊・神様などの絵を描く画家、
金子富之さん。
恐怖、畏怖、荘厳、神秘、不気味‥‥。
おどろおどろしさと、神々しさと。
目を逸らすことができないほどの、
妖しい魅力に誘い込まれるようにして、
金子さんの世界を覗いてきました。
(帰ってこれました)
担当は「ほぼ日」奥野です。ぜひ。
第4回
場所の持つ「力」に抗えない。
- ──
-
さっき、東京のど真ん中で
「山姥が来るぞ!」って言われても
何とも思わないけど、真夜中、
このあたりで聞くと怖くなっちゃう‥‥
という話がありましたが。
- 金子
-
ええ。
- ──
-
画家である金子さんにとって、
場所って、けっこう大事な要素ですか。
こういう家にも住んでるわけですけど。
- 金子
-
はい。大事です。ものすごく。
単純に、別のアトリエで描いてたら、
別の絵になっていると思います。
- ──
-
そうでしょうね、きっと。
- 金子
-
これは‥‥説明しづらいんですが、
ちいさいころから
「場所に持っていかれる」感覚が
ものすごくあって。
- ──
-
持っていかれる?
- 金子
-
自分の気持ちが
自分を取り巻いている「場所」に
持っていかれちゃう‥‥
つまり、
その場所と同じ気持ちになっちゃって、
自分自身の気持ちを
乗っ取られてしまう‥‥というか。
- ──
-
場所と同じ気持ち。
- 金子
-
どう表現していいか悩むんですが、
新しい場所に入ると、
まるで、
自分がそれまで生きてきた感覚や、
持続してきた思い、雰囲気などを
持ってかれてしまうんです。
- ──
-
それって、元に戻らないんですか。
- 金子
-
自分の家に帰ってきて、
しばらくしたら、復活するんです。
たとえば2~3日、
旅行でどこかへ行って帰ってきたら、
元の自分を取り戻すまでに、
また2~3日はかかる、みたいな。
- ──
-
それって「嫌な感覚」ですか。
- 金子
-
子どものころは苦痛だったんですが、
大人になってからは、
持ってかれる感覚を楽しめるように
なってきました。
- ──
-
そんなに
ヒョイヒョイ持ってかれるんですか。
- 金子
-
しょっちゅう持ってかれます。
置いてかれてます(笑)。
- ──
-
この家に5年も住んでるってことは、
金子さん、
もう、だいぶ持ってかれてますね。
- 金子
-
ええ、戻ってこれないほど(笑)。
とにかく、場所というものには
得体の知れない「力」があるなと、
子どものころから感じていました。
- ──
-
それとは逆に、
雰囲気のまま動く人っていますよね。
- 金子
-
というと?
- ──
-
いっしょにいると、その場が、
その人のルールになってしまうような
ちからを持っている人‥‥。
たとえば、写真家の梅佳代さんなんか、
そんな人じゃないかなと思う。
- 金子
-
強いんじゃないですかね、そういう人。
どこへ行っても、その人のままだから。
- ──
-
そうなんです。梅佳代さんて
石川県の能登のご出身なんですけど、
そこの雰囲気‥‥
もっと言うと、育った実家の空気を
自分の半径3メートルの空間に
満たしたまま動いてる感じなんです。
- 金子
-
へえ。
- ──
-
で、その空間の内側に入っちゃうと、
交わされる言葉のニュアンスも、
微妙に、その場の、
梅佳代さんのルールになるというか。
- 金子
-
どんな場所に行っても、
自分の雰囲気をキープできる人って、
何かについて信じ切ることが出来て、
つねに、安定してそうです。
- ──
-
安定している‥‥ように、見えます。
有名人を撮るのも、
そこらへんの小学生男子を撮るのも、
同じように見えますから。
- 金子
-
ぼくの場合は場所に敏感すぎて、
場所の影響を、
ものすごく受けてしまうんです。
- ──
-
でも、だからこそ、
こういう家を仕事場にしてる意味が、
あるわけですよね。
ちなみにですけど、
奥様的には平気なんですか、この家。
- 金子
-
もともとは、家内が住んでたんです。
- ──
-
あ、へえ。そうだったんですか。
じゃあ、奥様は、
妖怪とかオバケにも動じないタイプ?
- 金子
-
いえ、大嫌いみたいです。
- ──
-
は、じゃあ、金子さんの絵とか‥‥。
- 金子
-
作品の話はあまりしないんですが、
幽霊の掛け軸とか
描いたこともあるんですけど、
正気の沙汰じゃないって
思ってたでしょうね‥‥たぶん。
- ──
-
これだけ巨大な妖怪の絵があるのに、
そこに触れずに暮らせるんですか。
え、どうやって知り合ったんですか。
- 金子
-
妖怪仮装大会で知り合いました。
- ──
-
なんですかそれ!(笑)
オバケが大嫌いで、
金子さんの描かれる作品については
話もしないのに、
妖怪仮装大会にはご出場されて‥‥。
- 金子
-
出てました。「口裂け女」で。
- ──
-
なぜ‥‥友だちの付き合いか何かで、
イヤイヤ出たんですかね。
- 金子
-
いや、かわいい系の仮装が多いなか、
ひとりだけ、
暗黒舞踏みたいな世界観で出てたし、
けっこう勝ちに来てたと思う。
- ──
-
おもしろい‥‥(笑)。
- 金子
-
だってぼく、審査員だったんですけど、
家内に1票入れたくらいですから。
- ──
-
おお(笑)。
- 金子
-
そしたら、優勝しちゃったんですよ。
そこからでしたね。
- ──
-
お付き合いがはじまったのは?
- 金子
-
はい。
- ──
-
それで、そのまま、結婚までされて?
- 金子
-
ええ、あんな仮装するくらいですから、
自分よりヤバいんじゃないかと、
最初、距離を置いてたんですけど‥‥。
不思議なもので、結婚しちゃいました。
- ──
-
金子さん‥‥おもしろすぎます(笑)。
<つづきます>
山形ビエンナーレ2018に、
金子富之さんの
「首かじり」が出ます‥‥。
2018年9月1日(土)~24日(月・祝)の期間中の
<金・土・日・祝日>に開催される
「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2018」に
金子富之さんの「首かじり」が展示されます。
(作品の展示場所は上山市の「蟹仙洞」とのこと)
ほら、首をかじってるんです‥‥。お、恐ろしい‥‥。
恐ろしいけど‥‥見てみたい。そんな人は、ぜひ。
なお、その他の参加者の顔ぶれを見ると、
荒井良二さんが芸術監督をつとめてらっしゃったり、
ミロコマチコさんの展示や、
皆川明さんが出演するトークイベントなどなど、
「ほぼ日」でもおなじみのみなさんが
いろんなかたちで、関わってらっしゃるようですよ。
夏の終わりのアートのお祭り、参加してみては。
詳しいことは、公式サイトでチェックを。
みちのおくの芸術祭
山形ビエンナーレ2018
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- 会 期
- 2018年9月1日(土)~9月24日(月・祝)の間の週末(金・土・日・祝日)のみ開催。
※開館時間・休館日などは施設による
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- 主な会場
- 山形県郷土館「文翔館」、とんがりビル、郁文堂書店、BOTA coffee&BOTA theater、gura、
長門屋ひなた蔵・塗蔵、東北芸術工科大学キャンパス
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- 芸術監督
- 荒井良二
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- ホームページ
- https://biennale.tuad.ac.jp