妖怪・精霊・神様の絵を描く金子富之さん。
東北の山深い「限界集落」に建つ
古めかしい日本家屋で、
妖怪・精霊・神様などの絵を描く画家、
金子富之さん。
恐怖、畏怖、荘厳、神秘、不気味‥‥。
おどろおどろしさと、神々しさと。
目を逸らすことができないほどの、
妖しい魅力に誘い込まれるようにして、
金子さんの世界を覗いてきました。
(帰ってこれました)
担当は「ほぼ日」奥野です。ぜひ。
第5回
本当は「自分」を見ている。
- ──
-
常陸国出雲大社で開催されていた
金子さんの個展を見にいったのですが、
会場に飾ってあったような巨大な絵は、
どれくらいで描かれるんですか。
- 金子
-
3ヶ月から4ヶ月くらい‥‥ですかね。
- ──
-
なるほど、それくらいかかるんですね。
いま、そこに、ものすごい数の
アイディアをスケッチしたノート類が
山積みになってますが、
頭のなかには、描きたい絵の構想が、
どれくらいストックされてるんですか。
- 金子
-
イメージが固まっているものだけでも、
100は超えていると思います。
- ──
-
頭のなかに、妖怪変化や魑魅魍魎が、
100匹以上もウジャウジャと(笑)。
- 金子
-
います(笑)。
今だって、増え続けていますよ。
- ──
-
じゃ、あとは、それを絵にするだけで。
- 金子
-
たぶん、ぜんぶは、
頭のなかから出せずに寿命が来て、
死ぬと思います。
- ──
-
ひとつの絵につき何ヶ月もかかるなら、
自ずから限界ありますもんね。
- 金子
-
まあ、もったいないなあと思いますが、
仕方ないですね。
あの世でも描かないと‥‥(笑)。
- ──
-
一生で描き切れないとわかっていても、
それでも、描くんですか。
- 金子
-
描きます。出せるだけ出します。
大げさに聞こえるかもしれませんが、
ぼくにとって、絵は、
生きるための‥‥生きる術です。
絵を描くことで、
生かされているような感じなんです。
- ──
-
はい。なにしろ、絵で身体を壊して、
絵に救われた人ですもんね。
金子さんが、作品を制作するうえで、
大事にしていることって何ですか。
- 金子
-
感覚を加速させること。
- ──
-
感覚?
- 金子
-
わかりにくいかもしれませんけど、
ある種の感覚‥‥
たとえば龍の表情を描くとしたら、
「龍に対する感覚」を「加速」させて、
龍の雰囲気を、イメージの中で、
どんどん巨大化させていくんです。
- ──
-
なんとなく‥‥わかる気がします。
- 金子
-
強度を上げていくというか。
そうすると、龍が、僕の望む表情に、
迫力のある表情になっていきます。
- ──
-
感覚、かあ。
- 金子
-
怖い、嬉しい、痛い、畏れ‥‥とか、
何でもいいんですが、
描いている人が、ある「感覚」について、
リアリティを感じているか、
そのことが、なにより重要だと思います。
技術的な「うまいヘタ」もありますけど、
その作品が、
本当に人を惹きつけるかどうかは、
作家が、何らかの「感覚」を、
どれだけ本気でリアルに感じているかに、
かかってくると思います。
- ──
-
で、その「リアルな感覚」を、絵にする。
- 金子
-
はい。
- ──
-
自分は、たとえば、
金子さんの描いた「ゾウ」の絵を見ると、
「なんて自由なんだ」と思います。
ピンク色だし、トゲトゲも生えているし、
目だって10個くらいついてるし。
- 金子
-
自由、ですか。
- ──
-
この間、テレビで布袋さんが‥‥
布袋さんと言っても、
この場合、七福神の布袋さんじゃなくて、
ギターの神様の布袋寅泰さんですが、
そちらの布袋さんが、
「14歳でギターを手にしたとき、
なんて自由な楽器なんだろうと思った」
って、おっしゃっていたんです。
- 金子
-
ええ。
- ──
-
自分も好きでギターを弾くんですけど、
ギターを自由だと感じたことは
一度もなくて、
むしろ「なんて不自由な楽器なんだ!」
と、ずーーっと思ってきたので、
そこがつまり、
才能のある人と凡人との差なんだなと。
- 金子
-
自由と思えるかどうか、か‥‥。
- ──
-
ご本人的にどうかわかりませんけど、
僕は、なんて自由なゾウだと、
金子さんのゾウを見て思ったんです。
で、自由に描けるのは、
金子さんの「ホームグラウンド」が
「ここ」だからなんだろうな、と。
- 金子
-
自分が自由かどうか、
自分では、よくわからないんですけど、
あれは‥‥、
ああいうゾウのイメージを通じて
表現したかった
「そのときの自分の感覚」なんですね。
もっと言えば‥‥自分自身というか。
- ──
-
自分‥‥金子さん自身。
- 金子
-
妖怪や精霊や神様を描くのが好きだと、
それは本当ですが、
でも、
いろんなものをそぎ落としていったとき、
最後に残るのは「自分」だと思う。
自分は、自分に、
いちばん興味を持っていると思います。
- ──
-
妖怪よりも?
- 金子
-
はい。
- ──
-
そのことに、とても共感します。
自分は、自分のことをわかりたいですよね。
- 金子
-
目に見えない世界よりも、
自分自身のほうに、関心があると思います。
そういう世界を通して、
結局は、自分が何者なのか知りたがってる。
- ──
-
なぜ自分は、妖怪の絵を描いているのか?
見えない世界を見ようとしてた金子さんは、
本当は「自分」を見ていた‥‥。
- 金子
-
ぼくは、この道を、
どこまで歩いていけるかなと思います。
つまり、妖怪の絵って、
モチーフとしてなかなか売れませんし、
そのうえ、
ぼくの絵は大きいから、尚更なんです。
- ──
-
ええ。
- 金子
-
でも‥‥その道を歩いていった先には、
どんな自分がいるんだろう‥‥。
- ──
-
別の意味で「見えない世界」ですね。
- 金子
-
誰かにどんなにあこがれても、
その誰かになるのは、無理ですよね。
ですから、自分は、
自分の延長上のものにしかなれない。
- ──
-
はい。
- 金子
-
だったら、その延長上にいる自分は、
どんな絵描きなんだろう。
- ──
-
80歳になった、金子さんとか?
- 金子
-
その歳まで、
今の絵のテーマを追求し続けていたら?
どんな自分に、
どんな絵描きになれるだろう、
どこまで歩いて行けるだろうと思います。
歩けなければ這っても、休んでもいいし。
でもまたいずれ、歩き出すと思います。
- ──
-
120歳くらいまで長生きして、
ご自身が妖怪みたいになってたりとか。
- 金子
-
ああ、それは、すごく興味ありますね。
そうなった自分を、見てみたい(笑)。
<終わります>
山形ビエンナーレ2018に、
金子富之さんの
「首かじり」が出ます‥‥。
2018年9月1日(土)~24日(月・祝)の期間中の
<金・土・日・祝日>に開催される
「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2018」に
金子富之さんの「首かじり」が展示されます。
(作品の展示場所は上山市の「蟹仙洞」とのこと)
ほら、首をかじってるんです‥‥。お、恐ろしい‥‥。
恐ろしいけど‥‥見てみたい。そんな人は、ぜひ。
なお、その他の参加者の顔ぶれを見ると、
荒井良二さんが芸術監督をつとめてらっしゃったり、
ミロコマチコさんの展示や、
皆川明さんが出演するトークイベントなどなど、
「ほぼ日」でもおなじみのみなさんが
いろんなかたちで、関わってらっしゃるようですよ。
夏の終わりのアートのお祭り、参加してみては。
詳しいことは、公式サイトでチェックを。
みちのおくの芸術祭
山形ビエンナーレ2018
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- 会 期
- 2018年9月1日(土)~9月24日(月・祝)の間の週末(金・土・日・祝日)のみ開催。
※開館時間・休館日などは施設による
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- 主な会場
- 山形県郷土館「文翔館」、とんがりビル、郁文堂書店、BOTA coffee&BOTA theater、gura、
長門屋ひなた蔵・塗蔵、東北芸術工科大学キャンパス
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- 芸術監督
- 荒井良二
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- ホームページ
- https://biennale.tuad.ac.jp