ヒウおじさんの鳥獣戯話。 さぁ、オトナたち、近くにおいで。 |
「ほぼ日」では『ハブの棒使い』の連載でおなじみ、 |
第23回 猿について語るのは実に難しい。 それはほかでもなく人間が猿に近しい存在だからである。 ことに日本人はイエローモンキーと呼ばれるほど猿に近く、 外国人のなかには日本人と猿の区別がつかない人も多い。 猿真似というのは日本人の手先の器用さを揶揄した語だし、 猿芝居というのは日本古来の芸能、能や狂言の蔑称だし、 猿知恵というのは日本人の好む没個性の浅い考えをいう。 たぶん自覚が足りないが、われわれは確かに猿に似ている。 欧米の霊長類研究者の最新の知見によると、 チンパンジーやボノボは類人猿だが日本人は類猿人である という説が有力になっている。 いや、日本人は類人猿ではないかと主張する学者さえいる。 さて、日本に生息しているのはニホンザルである。 本州の下北半島を北限、九州の屋久島を南限とする 日本固有種の哺乳動物なのだ。 一般的にサル類は熱帯地方を中心に分布する動物で、 ニホンザルは世界の猿のなかで最も北に分布している。 ヨーロッパにも北米にも野生の猿はいない。 日本人にとっては身近な存在である猿も、 欧米人にとっては謎めいた動物なのである。 だからこそ、彼らの目にはニホンザルと日本人の 区別がつかないのも無理からぬ話なのである。 そんな欧米人のために、 ニホンザルと日本人の見分け方を内緒で教えてあげよう。 第一に、ニホンザル社会のボスは圧倒的な統制力を持ち、 抜群のリーダーシップで群れをまとめていくが、 日本人社会のボスは総じて弱腰である。 下からの突き上げに弱く、外からの圧力にはさらに弱い。 身体を張って民を守ろうとなんて気概はさらさらないのに、 やたら権力の座には執着している。これが日本人のボスだ。 第二に、ニホンザルのオスは独立心がたいへん強く、 若いうちから群れを出て仲間同士で鍛錬していくが、 日本人のオスはたいがいへっぴり腰である。 メスの意見にいつも右往左往し、己の意見などまるでない。 仲間とつるんでもただぐだぐだしているだけで、 そのくせ始終発情している。これが日本人のオスだ。 第三に、ニホンザルのメスは和をとても尊重し、 集団で助けあいながら子育てを行うが、 日本人のメスは概して自己中心的である。 自分にしか興味はなく、見てくればかり気にしている。 わが子以外の子どもの姿など目に入ったためしなどなく、 ときには育児を放棄しさえする。これが日本人のメスだ。 第四に、ニホンザルの子は好奇心旺盛でよく遊び、 いつもみんなで野外を駆け回っているが、 日本人の子は内弁慶ばかりが目立つ。 部屋に閉じこもってゲームに興じ、外でなんか遊ばない。 たまに外出しても、だりぃ〜うぜぇ〜の連発で、 かわいげなんかどこにもない。これが日本人の子だ。 欧米の霊長類研究者はこうも言っている。 早晩日本人はニホンザルの支配下に入るだろう、と 芋洗いで有名な幸島の猿は日本人同様に清潔好きだし、 地獄谷温泉の猿は日本人も顔負けなほど温泉好きだ。 猿がわれわれの文化を侵犯する兆候はすでに現われている。 主従関係でいえば、猿のほうが上位にあるのは確実だ。 猿回しという伝統芸を見ているとよくわかるが、 日本人は彼らの情けで稼がせてもらっているにすぎない。 機嫌をとりもつために、猿の顔色をうかがわねばならない。 高崎山の猿は観光客を脅して食べ物を奪うし、 日光の猿にいたっては軍団まで作っているらしい。 ニホンザルに逆らうと日本人は立つ瀬がないのである。 イラストレーション:石井聖岳 illustration © 2003 -2007 Kiyotaka Ishii 【鳥飼さんの本】
【石井さんの本】
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2007-08-31-FRI
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