読者のみなさんにはすっかりおなじみ、
イラストレーターの福田利之さん。
今回あらためて、お時間をいただいて、
インタビューさせていただきました。
そしたら、まだまだ、いろいろと、
知らないことがありました。
たとえば、福田さんのお父さんのこと。
著名なカメラマンで、
あの上田義彦さんのお師匠だったって、
ご存知でした?
福田利之さんのイラストと人の魅力が、
あらためて伝わったらと思います。
担当は「ほぼ日」奥野です。
福田さんへは、初インタビューでした。
このインタビューは、2018年4月〜5月に
武蔵野市立吉祥寺美術館で開催された
『福田利之展|吉祥寺の森』会場で収録させていただきました。
時間をかけて、丁寧に描けば。
- 福田
- こうやって話してると、
奥野さん、絵より写真が好きですよね。
- ──
- いえいえ、そんなことないです(笑)。
でも、写真がいいなあと思うのは、
ノスタルジーを感じるところなんです。
- 福田
- ああ、ノスタルジー。
- ──
- 何十年も前のモノクロ写真の風景にも、
実際は、色があったわけですよね。
で、その色って、
シャッターを押したちょうどその瞬間、
太陽から地球に届いた光によって
照らされた色なわけで‥‥。
- 福田
- そう思うと不思議ですね。
- ──
- 50年前の太陽の光に照らされた
50年前の光景を、
50年後の自分が、
50年後の太陽の光のもとで、見ている。
星を眺めているのと同じような、
何とも言えない気持ちになるんです。
- 福田
- 本当だ。
- ──
- お父さんがやってらした「写真」には
そういうところがありますけど、
福田さんのやってらっしゃる「絵」は、
またちょっと、ちがいますかね。
- 福田
- 絵の場合は、よりパーソナルなものが、
グッと入る気がします。
ハッキリ入れられる‥‥といいますか。
- ──
- なにせ、福田さんの絵には
「コーヒー」が混ざっていますもんね。
写真にコーヒーは、混ぜられないです。
- 福田
- だいたいの絵に混ぜてます。
- ──
- それは、コーヒーがお好きという以上の
理由があったりするんですか?
何というか、見た目がちがってくるとか。
- 福田
- 父親の影響で「古いもの」が好きだって、
さっき話しましたけど、
自分の絵にも、
時間を感じる何かを入れたかったんです。
- ──
- なるほど、それで。
- 福田
- はい。お醤油とかも混ぜたりします。
- ──
- お父さんの影響、本当に大きいんですね。
お父さんと、横尾さんと、ガロと。
- 福田
- はい。あと、これは
「ほぼ日」だから言うわけじゃないけど、
僕にとっては、
やっぱり糸井さんも、すごく大きいです。
- ──
- それは、どういった部分で?
- 福田
- 自分がいちばん多感だった時期、
いいなあと思う場所に、
いつも、糸井さんがいたんです。
ずっと糸井さんを見て、憧れていました。
僕、4年くらい、
大阪でイラストの会社にいんたんです。
- ──
- あ、そうでしたか。会社員時代があった。
でもそうか、会社員になりたかったから。
- 福田
- そうなんです。
社会に出ていくときって、
仕事をするって並大抵なことじゃないぞ、
僕は社会人になるんだ、
もう子どもじゃいられないんだと思って、
出ていくわけじゃないですか。
- ──
- そうですよね。怖かったです、自分も。
- 福田
- そんなとき‥‥まだぺーぺーで、
なにか辛いことがあったようなときに、
パッと糸井さんを見たら、
とってもおもしろそうに仕事をしてた。
若くていろいろとままならなくて、
しんどいこともあって、
自分は何のために絵を描いてるんだろう、
そう思ったときに糸井さんを見たら、
本当に、おもしろそうに仕事をしていた。
- ──
- はい。
- 福田
- もちろん糸井さんにだって
たいへんなことはあったはずですけど、
そんな顔は見せずに、
遊びも仕事にできるって教わりました。
まあ、今の言い方は、
ちょっと語弊があるかもしれませんが。
- ──
- いや、でも、そうですよね。
- 福田
- 自分も楽しく絵を描きたい、
仕事が辛いとか言ってる場合じゃない、
遊ぶようにはたらきたい、
糸井さんを見て、そんなふうに思って。
- ──
- ある意味、それでフリーに?
- 福田
- はい。僕も性格的に、
自分でおもしろがれないと駄目だから。
- ──
- なるほど、そうだったんですね。
でも、会社員を経験してみて、
よかったって思うことはありませんか?
- 福田
- あります。社会ってこういうものだって
学ぶことができましたから。
会社や組織の仕組みだとか、
納得できなくても、
踏ん張らなきゃならない場面があること、
短い期間でしたが、学べましたし。
- ──
- そこを知ってることって、
ぜったい、悪いことじゃないですもんね。
- 福田
- ええ、多くの人が知ってるわけですから。
- ──
- 福田さんは、ここからまだ、
何十年も、絵を描き続けるわけですけど。
- 福田
- 描かないとヤバいです。子どももいるし。
- ──
- 絵も変わっていきますかね。
- 福田
- 変わっていくでしょうね。
変化がなかったらおもしろくないですし、
変わらなかったら飽きちゃうし、
ぜったいに、変わっていくと思います。
- ──
- ご自身のなかで
福田さん第1期、福田さん第2期とか、
そういう意識はあるんですか?
- 福田
- ゴジラじゃないんで‥‥。
- ──
- 福田さん第1形態、福田さん第2形態‥‥。
- 福田
- あんまり、ないと思います。
少なくとも、自分の中では、あんまり。
- ──
- 昔から絵はお上手だったんですか?
- 福田
- ぜんぜん、上手じゃありませんでした。
図画工作とか美術の成績もよくなくて、
5段階で「3」くらいが、せいぜいで。
- ──
- 「好き」では、あったんですか?
- 福田
- ん‥‥そんなに好きでもなかったかも。
- ──
- え、そうなんですか。
- 福田
- うん。
- ──
- じゃ、いつからスイッチが入ったんですか。
- 福田
- そうですね‥‥中学のときですかね。
僕、模写がすごく苦手だったんですけど、
だから成績も良くなかったんですが、
「トダ先生」って先生が、
なんか、僕をやたら褒めてくれたんです。
- ──
- おお。
- 福田
- そこで、その気になったというか、
はじめて、おもしろいって思えたというか。
- ──
- 何を褒めてくれたんですか。
- 福田
- いや、ふつうに描いた絵で、
もう何を描いたのかさえ覚えてませんけど。
- ──
- へぇー‥‥。そうなんですか。
- 福田
- 自分はずっと絵が下手だと思ってたから、
真剣に向き合ってなかったんです。
- ──
- でも、褒められて、うれしくて。
- 福田
- で、そのときに、思ったんです。
- ──
- ええ。
- 福田
- たとえ下手くそでも、
ちゃんと時間をかけて、丁寧に描けば、
誰かに「いい」と思ってもらえる絵が、
誰かの心に届く絵が、
自分にも描けるかもしれない‥‥って。
- ──
- そこが、
イラストレーター福田利之さんの原点。
- 福田
- かもしれないです。
- ──
- この絵‥‥福田さんの作品のなかでは、
ちょっとサイズが大きめですね。
- 福田
- 何も考えずに、描き下ろした作品です。
- ──
- これは、誰かに頼まれた絵じゃなく。
- 福田
- はい、頼まれて描いた絵じゃないです。
- ──
- 描きたくて描いた絵。
- 福田
- はい。
- ──
- この子は‥‥。
- 福田
- 自分の子どもです。
<おわります>
2018-09-03-MON
ほぼ日ホワイトボードカレンダー2019
ファイルポケットつき
のイラストも、福田利之さんのお仕事。
ほぼ日ホワイトボードカレンダー2019では
卓上版を全面リニューアルしました。
何度も書いては消せるメッセージボードに、
紙片などを収納しておける
機能的なポケットを、組み合わせたんです。
【ファイルポケットつき】
という名前で、生まれ変わりました。
でも、他にない機能を備えた卓上版ですが、
やっぱり見ためも「うれしく」したい。
そこで、福田利之さんです!
すてきなイラストを描いていただきました。
森の仲間たちがカレンダーを彩ります。
ぜひとも、ごらんになってみてくださいね。
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN