糸井 |
最近、吉本さんは
何をいちばんに考えていらっしゃいますか。 |
吉本 |
いまは、なにはともあれ
いちばんの関心事は、からだのことです。
目も悪いし、足壊疽も悪いし、
もう、どうにもなんないです。
こうやればいいはずだ、ということを
やってくれるお医者さんは、
日本には少ないんですよ。
西欧の端っこのほうの
デンマークとかスウェーデンとか、
ああいう国では、そこがすごく発達しています。
それは、マルクス主義者が言うこととは
またちがう意味で、革命的です。
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糸井 |
なるほど‥‥北欧ですね。
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吉本 |
ええ。北欧の若い人は、
税金をいっぱい取られちゃいます。
その代わりに、ああいう国は
老人の病気の面倒をみたり、介護を完全にするし、
何かあれば、すぐに医者がかかわってきます。
若い人は、何とも文句は言わない。
そういうことが、できてるんですよ。
完璧に近いことをやっています。
それは、別な意味で革命です。
要するに、それができれば、
革命と同じことなんです。
社会を革命してから、
なんとかどうにかしてやっていって、
それからからだみたいなものについて考えて、
という、
従来のしかたとはぜんぜん別の意味の革命が、
あのあたりの国は、できてます。
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糸井 |
北欧がそうなった、ということについては
何か理由があるんでしょうか。
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吉本 |
やっぱり、貧乏国で、
いちばんには発達してなかったからでしょう。
いいところもいい治療法も、みんな、
資本主義と社会主義に取られちゃったから。
そして、「やることはないな」という
国だったからでしょう。
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糸井 |
だから、
分けあわなきゃならなかったんでしょうか。
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吉本 |
そうなんですよ、
分けて、なんとかしなきゃいけなかったんです。
このことは、ある日本の介護専門家の人が、
海外を視察してきたあとに、
対談の場でぼくに話してくれたことです。
その人の誇張は多少あるでしょうけども、
ぼくはそのとき、
ああ、革命っていうのは、ほとんど、
こういうもんでもできるんだ、
と思いました。
日本の医者なんか
ぜんぜん問題にならないくらいのことをしつつ、
知識も蓄積しています。
それは、ほとんど、
「人間って何なんだ」ということだと思います。
「自分たちは何なんだ」ということについて
ひとつの方法として、
すでに確立して進んでいるのです。
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糸井 |
病を研究することじゃなくて、
生きることを研究するのが
お医者さんなんですよね。
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吉本 |
そう、ぼくなんかは、
そっちのほうが大切だと思います。
ぼくは、好きな猫をよく見て、
結局、人間という動物は
何がどうなれば幸福になるんだろう、と
思うんです。
猫やほかの動物とちがうところは、ときどき
──ぼくらみたいな者はしょっちゅうに近い、
共産党なんかはそれを
専門にしてるわけですけど──
自然成長に反対のことを故意に意識して主張して、
そういうことを、
まぁ、いちばん進んでると錯覚してたんですよ。
だけど、そんなことして、冗談じゃない。
人間という動物は
ときどき、そういう変なことで
自然にそむくことを勝手にあみ出します。
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糸井 |
(笑)
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吉本 |
人間の特徴をいかすようにすればいいんだ、
おんなじじゃねぇか。
自由と平等っていうのは、
そういうふうにもできるじゃねぇか。
北欧の国は、とにかくひとつ、
完成してるという意味ではないけど、
やってるんだということになります。
これは、そうとう重要なことだと思ってます。
(次回の掲載は月曜日です) |