HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
はたらき方をさがす旅。皆川明さん+松家仁之さん+糸井重里 鼎談
松家
皆川さんと糸井さんが
リーダーとして共通することは
たくさんあると思うんですが、
「ミナ ペルホネン」と「ほぼ日」を見ていて
ちょっと気づくことがあるんです。

この前、「ミナ ペルホネン」の展示会に
おじゃましたのですが、
展示会となれば、
「ミナ ペルホネン」で働くいろんな役割の人たちが、
いっせいに洋服を運び、接客をなさいます。
糸井さんの「ほぼ日」も、
編集部とか技術部とか、いろいろあると思いますが、
イベントをやればみんなが案内係をつとめるし、
コンテンツのキャストやモデルもなさる。
聞けば、「ミナ」にも「ほぼ日」にも
営業部はないのだそうです。
どの部署にいても
「自分はこれだけやってればいいんだ」と
思っているスタッフはひとりもいない。
全員が社内のいろんなことに関わって
うねうねとアメーバが動くように(笑)、
連携してはたらいているように見えるんです。
皆川
そうですね。営業はいませんし、
部署もそんなに決まってないかもしれない。
糸井
営業もいないし、スポンサーもいません。
松家
ああ、そうですよね。
それは会社の方針がきちっとしているという
自信のなせる技でしょうか。
糸井
自信かなぁ、なんだろう?
皆川
ぼくは自分で服づくりをはじめた初期に、
車に洋服を積んで、売ってくれるお店を回りました。
だけど、まったく相手にされなくて、
営業に行ったらいけないんだな、ということを
学びました。
糸井
皆川さんは、北関東とか、
いろんなところを
回ってらしたんですよね。
皆川
ええ「今週は東北ね」とか、
車に洋服を積んで走りながら、
「あ、あそこ良さそうだね」なんていって
車停めて、おじゃまして、
洋服広げちゃ、相手にされない。
そうやって1週間まったくダメで、
「今度は関西のほうへ行ってみよう!」といって回り、
ヨーロッパも行きました。
でも、1着も売れない。
だから「行ってはいけない」ということが
最初の1~2年で、ほんとうにわかったんです。
糸井
「行ってはいけない」んですね?
皆川
はい。
こちらに来ていただいて、
「見よう」と思っていただかなくてはいけないのです。
「見てやろう」という状態では、
ものがまったく見えないのです。
松家
うーん‥‥とても大事なことですけれども、
でも、その発想は、
できそうで、意外とできない。
糸井
そうですよね。
皆川さんは、いちどそれをとことん
「やったから」ですね。
松家
「ほぼ日」に営業がいないのは
どうしてなんですか?
糸井
「営業をやっていいんだ」ということになれば
そっちを一所懸命やれるからです。
売ることに力を注いで
つまらないものでも売ってみせることができます。
そんなふうになってしまったら、逆に
つまらないものをつくれちゃうんです。
松家
ああ、なるほど!
糸井
前にいちど、ほぼ日で
「この1か月、わざと稼いでみよう」
というチャレンジ月間のようなものを
設けたことがあるんです。
ねじ込んだり煽ったりはしませんが、
新しい売り方を考えたり、
こういうポップを置いてもらおう、といって
お店に通ったり、
WEBページ内にいろんな仕掛けをしたり、
いろいろやりました。
そしたら売り上げは、やっぱり上がりました。

「ほらやっぱり危ない!」と自分たちで思ったのです。

とにかく一所懸命やると、
営業努力で売上は上がる。そのほうが早い。
営業は「最後」ですから、効果があるんです。
けれども、そうすると何かが間違っていくのです。

黙ってても売れるもの、喜ばれるもの、
それを「つくっていく」ほうが、
「売ってみせます」に
負けちゃいけないんです。
ですからぼくらは
まっすぐにそのものをポンと置いて
「いいですね」
と言われるものをつくりましょう、
ということになりました。
松家
なるほど、ふつうの会社だと、
「営業ががんばる月間」をやったら
できたじゃない、もっとやろう、
ということになりますよね。
糸井
なりますね。
じつはぼくは、半分、そういう人間なんです。
松家
半分は。
糸井
こうしたほうがうまくいきますよ、
儲かりますよ、というゲームは
おもしろいんです。
はまるとぼくはそっちへ行きます。
だから気をつけて、しなかった。
皆川さんのとこだって、
「営業で押し込め」みたいな発想をしたら、
売上規模は一気に倍になるでしょう。
でもしない。
松家
「ミナ ペルホネン」は、
お店のありかたじたいが
「もっともっと売ろう」というものでは
ないですものね。
皆川
いま糸井さんがおっしゃった話に
つながるかもしれないんですが、
自分たちが全速力でやったときにできることは
なんとなくわかっているんです。
だけどその全速力のなかに、どこか、
りきみが生まれるのです。

ぼくがもともと長距離ランナーだったからかも
しれないんですけれども、
同じペースで長く走りながら、
筋力よりも
どちらかというと心肺が強くなっていき、
ランナーズハイの状態になって
グッと伸びていく感じを、
仕事でもイメージしている、
ということはあると思います。

筋力でマックスの速度までいったら、
その後、終わってしまうのです。
いちど落ちてしまったら、
走ろうと思ってもからだが動かない。
だけど、心肺はだんだん慣れて強くなります。
その「心肺力」で持続したほうがいいという
イメージがあるのです。
手法でマックスにいくよりも、
自分たちの気持ちで続いていくという感じです。
手法というのは、なんとなく
筋力的な感じがします。

「ランナーズハイになる」ということは、つまり
自分たちの気分が、うれしい状態なわけです。
「自分たちがやったものが喜ばれたね」
「じゃ、もう1回やろう」
そんな気分を続けていくほうが、向いています。
「ここに出店したら人がいっぱい来るよ、
 坪効率もいいよね、この場所に出そうよ」
そういうことは、自分たちの気分から
離れるという感じがあると思います。
糸井
そうですね、
違う人になっちゃう感じがしますね。
皆川
はい。逆に、方法論でいくとしたら、
自分たちのメンタリティなんてなくても、
そこそこの売り上げは
いってしまうのではないでしょうか。
それは避けたいと思っています。

(つづきます)
2016-06-30-THU
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