吉本隆明の ふたつの目。 ──ほんとうの考えを探し出す──  これまでたくさんの著作を生み、講演を行ってきた 吉本隆明さんが、ずっと気にしてきたことのひとつは、 「ほんとうのこと」についてなのだそうです。 「ほんとう」を探すために 吉本さんが持つようになった視点について、 糸井重里との話をお届けします。 * 吉本隆明さんの講演集は、 7月9日(水)に販売がはじまります。 おたのしみに。
吉本隆明の ふたつの目。 ──ほんとうの考えを探し出す──  これまでたくさんの著作を生み、講演を行ってきた 吉本隆明さんが、ずっと気にしてきたことのひとつは、 「ほんとうのこと」についてなのだそうです。 「ほんとう」を探すために 吉本さんが持つようになった視点について、 糸井重里との話をお届けします。 * 吉本隆明さんの講演集は、 7月9日(水)に販売がはじまります。 おたのしみに。

007 モーターボート。

糸井 前にやった業績について
人は留まりがちですが、
「それは終わったことだ」と
片づけられたほうがいいんでしょうね。
吉本 執着することが多けりゃ、
そこに止まるか、止まった形になると思います。
それじゃあ、執着しなきゃいいのか、というと、
そうでもないと思います。
それは坊さんが
「悟った、悟った」というのと同じで、
そんなのあてになるか、ということです。

ですから、何かしら
適当な執着と、適当な自分離れが
あるのがいいんじゃないでしょうか。
糸井 吉本さんは、組織のリーダーを
やってなかったおかげで、
「みんなの期待する吉本隆明」を
演じなくてよかったということも
あるんじゃないでしょうか。
吉本 ああ、それはもう、そうです。
つまり、自分でなくなったら、
もう何もないというのと同じですから、
それは最後のよりどころです。
糸井 ほんとうの教養とは、
注意深さのようなものから
芽生えていくんですね。
吉本 今、二山目の戦後不況に
当面しているわけですけど、
糸井さんは、それを潜り抜けるということが
できているんじゃないのかなと思います。
糸井 それは、どうでしょうか。
吉本 ですから、糸井さんという人は
教養ある人だっていうことに
なりそうな気がしますね。
糸井 事実としてそうなら、うれしいですし、
そうなりたいです。
でも、これはみんなが、
ほんとうはできることですよね。
吉本 できる、やさしいことです。
糸井 吉本さんに、以前
「何が欲しいですか」と訊いたことがあって、
そのときに
「モーターボート」と即答されたのを
僕は、ものすごく憶えてるんです。
吉本 そうそう。そうです。
糸井 いまもそうですか?
吉本 そうです。
モーターボートか釣り船、
つまり、エンジンのついた釣り船です。
それがあったら、いいです。
必要なときに欲しいです。
遊びにいくとき、欲しいなと思います。
糸井 じゃあ今度、乗りましょうか。
吉本 糸井さんが、おおいに儲けてくれて
モーターボートいっちょうとか、
よこしてくれるとか(笑)。
糸井 がんばりましょうか。
吉本 エンジンのついた、和船、釣り船、一艘。
これほど愉快な遊びはありません。
僕は、そう、
遊ぶんなら、船に乗って、と
思いますね。
糸井 そうですか。
吉本 遊びとしては、格段の違いです。
あの、変なとこから
陸を見てる感じというのは、
ちょっとほかにないですからね。
糸井 なるほど、なるほど。
吉本 いいですよ。
泳ぐところもあるし、
釣りするところもあるし
漕いだりするところもある‥‥
それは、もう、ちょっと
こたえられないと言いましょうかね。
糸井 具体的にそんなに船が欲しいんだったら
本気で考えたほうがいいですね。
祈れば通じるかもしれない。
励みにして
がんばりましょう。
吉本 ははは。
いや、がんばります。

(明後日に続きます)

2008-07-23-WED

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN