吉本隆明の ふたつの目。 ──ほんとうの考えを探し出す──  これまでたくさんの著作を生み、講演を行ってきた 吉本隆明さんが、ずっと気にしてきたことのひとつは、 「ほんとうのこと」についてなのだそうです。 「ほんとう」を探すために 吉本さんが持つようになった視点について、 糸井重里との話をお届けします。 * 吉本隆明さんの講演集は、 7月9日(水)に販売がはじまります。 おたのしみに。
吉本隆明の ふたつの目。 ──ほんとうの考えを探し出す──  これまでたくさんの著作を生み、講演を行ってきた 吉本隆明さんが、ずっと気にしてきたことのひとつは、 「ほんとうのこと」についてなのだそうです。 「ほんとう」を探すために 吉本さんが持つようになった視点について、 糸井重里との話をお届けします。 * 吉本隆明さんの講演集は、 7月9日(水)に販売がはじまります。 おたのしみに。

008 大切にしてきたもの。

糸井 ところで、「ほぼ日」では
就職論の本を
出したりしたんですれども。
吉本 ほう、ほう。
糸井 僕らなりにいろいろ研究して
『はたらきたい。』という本を
つくりました。
そこでわかったことのひとつは、
まともに仕事をしようとする人というのは
いっしょに仕事をしていく仲間が欲しいんだ、
ということだったんです。
そのことの手がかりとなる、
究極の面接試験の質問というのが、
「あなたはこれまで
 なにを大切にしてきましたか?」
でした。
吉本 うん。
糸井 その質問にうまく答えようが答えられまいが、
その答えの中に
一緒に仕事をしたい人を探す
鍵があるんだそうです。
もし吉本さんが
「あなたはなにを大切にしてきましたか」
と訊かれたら、
どんなふうに答えますか。
吉本 そうですね。
具体的な、というか、
機能的なことで答えるとすれば、ですよ。
糸井 はい。
吉本 それは、自分が生きている現在を考えるときに
なにに目を使っていますか、
ということだと思います。
糸井 ‥‥なるほど。
吉本 例えば、少し前ですが、
バブル経済のとき、日本は
今の中国と同じで、
アメリカに次ぐ経済大国だと言われていました。
アンケートを取ると
日本の人口の8割から9割の人は
「自分は中流階級だ」という答えをしていました。

そういう状態のとき、どういう目の使い方を
すればいいかというと、それは、
「中流の中以下の人が、
 どういうふうになってるかな、
 どう考えてるかな」
ということだと思います。
それが、その「とき」を
本格的に観察し、解明する場合に、
機能的にいちばんいいと考えています。
人事問題から、経済問題まで、すべてがそうです。
糸井 真ん中の下のことを。
吉本 真ん中を「含んだ下」です。
職業で言えば、中小企業から、
個人企業の商売をしている人です。

「“中”以下の人がこれからどうなっていくか」を
ひとつ、主眼にして、
生きてる今を考え、それを広げて
自分のやってることに関連づけるんです。

そこになんだか、
ほんとうのことが
隠れているような気がするんです。

それ以外のことは、要するに
個人の、遊んだりとか稼いだりとか、
そういうことに属するから、
それはまぁ、誰でも同じように考えてると
思えばいいじゃないかと思います。
糸井 そこの雑さもおもしろいですね。
「誰でも同じように考えてる」
吉本 大金持ちになるんだ、でもいいし、
社会に奉仕したい、でもいいでしょう。
どうぞ、どうぞ、
個人的には否定する要素はないよ、と思います。
糸井 ‥‥僕は
「吉本さんが大切にしてきたもの」
を訊いたのに、吉本さんは、
個人が意志で大切にしてきたことというのは
言おうが、言うまいが、
同じようなことなんだとおっしゃるんですね。
吉本 そうです。
糸井 例えば、
「自分に嘘をつかないこと」だとか
「友達を大事にする」だとかいうのは、
みんなが普通に思ってる普通のことで、
思ったり、思わなかったりするだろうし、
また、言おうが、言うまいが、
お前が大事にしてこようが、くるまいが、
あんまり変わんない、と。
吉本 変わんないです。
糸井 あとは、
そのふたつの目玉で、なにを見ているか。
そのことのほうが、
「自分」なんだと。
吉本 ええ。
糸井 ‥‥はははは。
吉本 ぼくはそう思ってるわけです。

そして、それを機能的に言うとするなら、
全体社会をつかむ場合に
いちばんやさしい方法は、それですよ、
ということです。
それ以外の考え方や感じ方をしたり、
倫理感を入れると、
必ずその部分だけまちがえます。
僕は、よくそうやって
できるだけ面倒なことは介入しないように、
あっさり問題がわかるように考えています。

(来週に、続きます))

2008-07-25-FRI

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN