- ──
- ぼくたちが、どなたかに
インタビューさせていただくときには
いろんなタイミングがあって、
こういった展覧会に合わせることも
もちろん、あるんですね。
- 上田
- ええ。
- ──
- でも、そういうときでも、
極力「◯◯さんが展覧会をやっています」
という告知記事ではなく、
できるだけ
自分たちなりのテーマや切り口を考えて
臨むようにしているんです。
- 上田
- はい。
- ──
- ですので、今回も、
いろいろとテーマを考えてきたのですが
会場に足を踏み入れたら
「わ、これはもう
展覧会推しにせざるを得ない!」と。
- 上田
- ああ、うれしいです(笑)。
- ──
- 上田さんの「35年ぶん」が
この場に詰まっているんだと思うと‥‥。
- 上田
- 自分はいったい何を撮ってきたんだろう、
自分でもわからないというか、
まぁ、ぼんやりとはわかってますけど、
そいつらが一箇所に集まったら
「ちょっとでも
おもしろいことに、なってるのかな?」
って、それが知りたくて。
- ──
- こういう展覧会は、はじめてですよね?
広告のお仕事、雑誌のお仕事、
作品、プライベートなスナップショット、
それらを
同じ会場に展示する‥‥というのは。
- 上田
- はい。
- ──
- では、このような風景を見るのも、
ご自身、はじめてだということですか。
- 上田
- ええ。
なので、最悪の展覧会になっちゃったら
どうしようというか、
まあ、それは言いすぎかもしれないけど、
会場をつくりながら不安だったし、
イライラもしましたし、
「もうできない、ダメだ」
って、諦めそうになったこともあって、
気持ちが荒んでいたんです(笑)。
- ──
- そうなんですか。
- 上田
- でもね、しばらくのあいだ
床に置かれた写真をじーっと眺めてたら、
「ま、いいか」と思えた。
で、「やってみよう!」と。
- ──
- おお。
- 上田
- まずは1枚、
自分の好きな写真を、壁にかけてみました。
そして
「じゃあ、このとなりはこの写真かな」
「そのとなりは、こっちだな」
というふうに
ひとつひとつの壁をつくっていったんです。
- ──
- なるほど。
- 上田
- ひとつひとつの写真を思い出しながら、
とにかく思い出しながら、
年代とかテーマとか関係なく、
「あの写真が、
この写真のとなりにあったらうれしいな」
って、そういうやりかたで。
- ──
- 楽しかったですか?
- 上田
- ええ。楽しんでたら、できちゃいましたね。
- ──
- この上田さんの「ギャラリー916」って
ふだんは、大きな白壁に
大きな写真が「ポン、ポン、ポン」と
ぜいたくに展示してあることが
多いと思うんですが、
今回は真逆で、でも、実にぜいたくです。
- 上田
- できるだけ、展示しようと思ったんです。
「集大成」という意味じゃないんですが。
- ──
- 集大成では、ない?
- 上田
- もちろん現時点での集大成ではあるけど、
まだ写真は撮るし、
まだまだ、終わっていませんからね。
- ──
- そうですよね。
- 上田
- ですから
「こんなところで、
こんな展覧会をやっちゃっていいの?」
という気持ちはありました。
でも、現時点のぼくが好きな写真を
「こんな感じなんです」って並べるのも
意味あるかもしれないと思い直して。
- ──
- ここに飾られているのは
「上田さんの好きな写真」なんですね。
- 上田
- ええ、ぼくが
「ずーっと見てても飽きないんだよね」
という写真です。
- ──
- それこそ何万枚も撮影してきたなかから
こうして残った写真には、
何か「傾向」があったりしますか?
- 上田
- そうですね‥‥うん、たとえば、これ。
- ──
- 日本海の海岸に立って
真っ暗になってからも、わずかな光を頼りに
えんえん「波」を撮った作品ですよね。
- 上田
- そう、仕事で行った海岸で、
ぼくが、夢中で取りはじめちゃったんで
寒いなか、ずーっと
妻夫木聡くんを待たせちゃったという。
- ──
- え、妻夫木さん、お待ちになって(笑)。
何時間くらい‥‥?
- 上田
- いやぁ‥‥相当な時間いたと言われていて、
波がくるたびに反応して
ずーっと、撮り続けていたんですけれども
時間は、ちょっとわかりません(笑)。
- ──
- そんなにも夢中になって。
- 上田
- ここにあるのは、
そんなふうに撮った写真が多いと思います。
偶然、その場に立ち会っちゃって、
驚いて、びっくりして、
パッとシャッターを切った写真が残ってる。
結局、自分がドキドキしたり、
感動したから撮った写真が、残ってますね。
- ──
- ドキドキとか、感動とか‥‥した場面?
- 上田
- あるていどの想像はしていたけれど、
それを、現実が超えてしまった場面ですね。
そんな場面に立ち会ってしまうと
もう、納得するまで
撮らなければならなくなっちゃうんですよ。
- ──
- 妻夫木さんを、待たせてまで(笑)。
- 上田
- はい、もうしわけなかったんですが(笑)、
写真を撮る「原因」があるとすれば
きっと、そういうことだろうと思います。
逆に、まったく心が動いてもいないのに
シャッターを切った写真は
否応もなく、
自分の記憶からスーッと落ちていくから。
- ──
- そういうものですか。
- 上田
- そう、ぜんぜん覚えていない。
で、そういうことのすべては
撮った瞬間に、わかってるんですね。
- ──
- 今の写真が、残るか残らないかは?
- 上田
- ええ、残る写真が撮れたときは、
もうね、
自分の心と身体が「はしゃぐ」んです。
「撮れた、撮っちゃった」って(笑)。
- ──
- え、上田さんが「はしゃぐ」んですか?
ちょっと意外な感じです(笑)。
- 上田
- 同時に
「いまの写真は、もう二度と撮れない」
ということも、直感的にわかる。
もう同じことは絶対に起こらない、
そういう場面に立ち会うことができて、
見てしまったおどろきと、
フィルムに定着してしまったドキドキ、
二度と撮れない写真を
自分が撮ることのできたよろこび‥‥。
- ──
- ええ。
- 上田
- それが「写真の快感」なんです。
- ──
- なるほど。
- 上田
- そういう写真が撮れた日には、
もう、その話しかしないくらい(笑)。
- ──
- そういう写真が、この会場に。
- 上田
- はい。250点‥‥かな。
<つづきます>
(2015-05-04-MON)