6、「言い訳」
元彼氏のお父さんみのるさんは
もうこの世にいないのですが、
大変にキュートな人で、大好きでした。
あるときみのるさんは、いつものように、
近所のおばちゃんに激しく迫られていた。
「ねえ、みのるさん、いつ山の別荘に行くの?
私なんとしてもその日に合わせて
パートを休んでいっしょにいくから、
教えてよ」
っていう感じで追い詰められていた。
みのるさんは、
「あのな、最近はもう
予定を立てるということを
やめたんです。
人生は予定を立てると、
その予定にしばられて
身動きが取れないようになる。
もう、そういうのはかなわんのです。
その日のことは
その日にならないとわからない、
それが人生だと最近思うんです。
だからほら、見なさい、
このTVのガイドブックを。こんなふうに印をつけて
先々まで観たい番組を選んでいるけれど、
実のところ、観られたら観る、だめならそれに執着しない、
そういうふうに思ったうえで、
印をつけているわけです、だから先のことはわからん」
とまで言っていた。
ちょうど前の晩、みのるさんは
「一人きりの山小屋に、
あのおばちゃんが来ると、
すごく気をつかってしまうから、
なんとかしてはぐらかそうと思う」
と言っていたのです。
「ここまで言うか?」と私はものかげで
それを聞きながら心の中で大爆笑していました。
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