- SWITCH新井さん
- 2010年の対談で、糸井さんは、
「梅佳代は、赤ちゃんをおんぶしながら
写真を撮るだろうね」と言っていて、
今まさに、
そういう状態になってるわけですけど。
- 梅
- はい。
- SWITCH新井さん
- 赤ちゃんが生まれたことと、
写真に情が生まれたことのあいだには、
何か関係がありますか。
- 梅
- おばさんの年齢になったっていうのは、
あります、かなり。
いつも思うんですけど、
自分って、毎年違う人じゃないですか。
- 糸井
- ああ、そうだね。
- 梅
- それが10年も経ったら、
完璧にわかるっていうか。
だから、今年撮れたこの写真は、
10年後のわたしには、
たぶんというか、絶対撮れないんです。
- 糸井
- そう思うんだ。
- 梅
- うん、で、10年前のわたしにも撮れない。
そのことを最初に思ったのは
ハタチのころで、
たぶん今、わたしが撮った写真って、
10年後には撮れないって。
- 糸井
- へえ。
- 梅
- だから、いつでも、
今がいちばんおもしろいんじゃないかと、
思ったりもしています。
まあ、一生続けるとか
そこまで思ってなかったから、
「ふーん」くらいの気持ちだったんですけど、
毎年心の中で思っとって。
- 糸井
- たぶん、望まれてる限りは撮ると思うよ。
- 梅
- そうかな。
- 糸井
- 撮るか撮らないかで言ったら、
辞める可能性はいつだってあると思う。
だって、赤ん坊が生まれて、
写真なんか撮ってるヒマないんだから。
- 梅
- そうなんですよ、まさに!
- 糸井
- でもさ、誰かに頼まれたからとか、
展覧会が決まったとか、
そうなったら、
おんぶしようが何しようが、撮るよね。
イヤでもやることになっちゃうのって、
職業って、すごいことでさ。
- 梅
- そうですね。
- 糸井
- だって、ぼく自身が、
文章を書くの、好きじゃないんですよ。
- 梅
- ははははは!(笑)
- 糸井
- 前川清さんだって、いつも言うんだよ。
「歌を歌うの好きじゃない」って。
でも、そういう前川さんの歌を聴いて、
人は泣くわけですよ。
- 梅
- うん、うん。たしかに。
- 糸井
- ぼくにとって「文章を書く」なんて、
どっちかっていうと、
つらいことのほうが多いですからね。
- 梅
- そうなんや。
- SWITCH新井さん
- でも、好きなことは続けられるけど、
嫌いなことって‥‥続けられます?
- 糸井
- ぼくの大好きなお寿司屋さんがあって、
本当に心を込めて、
おいしいお寿司を、
一生懸命、食べさせてくれるんですよ。
歳は、ぼくより5つか6つ下なのかな。
- 梅
- うん。
- 糸井
- でね、あるときに訊いたの、
「お寿司を握るの好きですか?」って。
そうしたら、
「今は好きじゃないです」って言った。
- 梅
- へえ。
- 糸井
- 「ずっと好きだと思ってた。
でも、その時期もう終わりましたね。
今は、好きじゃないです」
これ、お客からしてみたら、
腕はすっごく上がってるんです(笑)。
- SWITCH新井さん
- おもしろい。
- 糸井
- どんどんおいしく、
愛想だってよくやってくれるんだけど、
好きだと思っていたころとは、
今は、違うんだって。
- SWITCH新井さん
- 別の境地に行ったということですかね。
- 糸井
- 好きだ嫌いだって言ってるうちは、
まだ自分勝手なのかもしれないですね。
どうしても必要とされてしまうとか、
差し出したら、
お客には、よろこんでもらえるとか、
苦しいんだけど、
達成したときによろこびがあるとか。
- 梅
- うん、うん。
- 糸井
- 辞めない理由は様々だとは思うけど、
そもそも
「やってることそのものが好きだ」
っていうのは、
問題の立て方が違ってるのかもね。
- SWITCH新井さん
- 問題の立て方。
- 糸井
- つまり、プロフェッショナルな人に、
やってることが好きかどうか聞いて、
何か答えてくれたとしても、
そんなんじゃないよな、と思うわけ。
好きか嫌いかだけで考えてたら、
プロとして続けられないんだと思う。
- SWITCH新井さん
- なるほど。
- 糸井
- だから、梅佳代が、
今、赤ん坊を撮ってるっていうのが、
ぼくにはおもしろくて。
本当に、プロになったんだなぁって。
- 梅
- へぇ。
- 糸井
- ただ、そこで「食うためだから」と
言い過ぎて、ダメになるプロもいる。
「望まれてるもの」に寄せていって。
- 梅
- ああー。
- 糸井
- やっぱり、カメラマンの場合は
「ファインダーをのぞいていたら、
撮りたくなっちゃった」
って部分がやっぱり大事ですよね。
- 梅
- そうですね。
- 糸井
- そこで、スイッチ入るでしょ?
- 梅
- 入る。
<続きます>
2019-01-13-SUN
2019-01-13-SUN