ほぼ日刊イトイ新聞
10年たったら、梅佳代さんがおかあさんになった。

梅佳代さんと糸井重里が、
はじめてあったのは2008年のこと。
それから10年、ことあるごとに
「ほぼ日」と遊んでくれた梅さんが、
なんと、おかあさんになりました! 
というわけで、写真のこと、
お子さんのこと、このごろのこと、
糸井といろいろ話してもらいました。
いつものとおりに、楽しい会話。
雑誌『SWITCH』との共同企画です。
司会は『SWITCH』新井敏記編集長、
全8回、どうぞお楽しみください。


※当日は、1月5日(土)にオンエアされたラジオ番組
J-WAVE『RADIO SWITCH』の収録を兼ねていました。

梅佳代(うめかよ)

1981年、石川県生まれ。
2002年、日本写真映像専門学校卒業。
在学中に〈男子〉〈女子中学生〉シリーズで
写真新世紀連続受賞。
2006年、初写真集『うめめ』(リトルモア)を刊行。
13万部を超えるベストセラーとなる同著で、
翌年第32回木村伊兵衛写真賞を受賞。
以降主な著書に、
『男子』『じいちゃんさま』『ウメップ』(リトルモア)、
『のと』(新潮社)、
共著に『うめ版 新明解国語辞典×梅佳代』(三省堂)
などがある。
2013年、東京オペラシティアートギャラリーで
「梅佳代展 UMEKAYO」を開催。
初期から最新作まで15 年間に渡る作品から
未発表を含む約570点が大胆に再構成され、
幅広い層からの大きな注目を集めた。
近著に、故郷能登に暮らす
一匹の犬の17年間を追った記録『白い犬』(新潮社)、
全寮制の男子校で学ぶ少年たちの日々を
カメラに収めた『ナスカイ』(亜紀書房)。
日常の中に潜む様々な光景を
独自の観察眼で捉えた作品に定評があり、
国内外の媒体や展覧会で作品を発表している。

第4回 好きだ嫌いだって言ってるうちは、まだ自分勝手なのかもしれない。

SWITCH新井さん
2010年の対談で、糸井さんは、
「梅佳代は、赤ちゃんをおんぶしながら
 写真を撮るだろうね」と言っていて、
今まさに、
そういう状態になってるわけですけど。
はい。
SWITCH新井さん
赤ちゃんが生まれたことと、
写真に情が生まれたことのあいだには、
何か関係がありますか。
おばさんの年齢になったっていうのは、
あります、かなり。

いつも思うんですけど、
自分って、毎年違う人じゃないですか。
糸井
ああ、そうだね。
それが10年も経ったら、
完璧にわかるっていうか。

だから、今年撮れたこの写真は、
10年後のわたしには、
たぶんというか、絶対撮れないんです。
糸井
そう思うんだ。
うん、で、10年前のわたしにも撮れない。

そのことを最初に思ったのは
ハタチのころで、
たぶん今、わたしが撮った写真って、
10年後には撮れないって。
糸井
へえ。
だから、いつでも、
今がいちばんおもしろいんじゃないかと、
思ったりもしています。

まあ、一生続けるとか
そこまで思ってなかったから、
「ふーん」くらいの気持ちだったんですけど、
毎年心の中で思っとって。
糸井
たぶん、望まれてる限りは撮ると思うよ。
そうかな。
糸井
撮るか撮らないかで言ったら、
辞める可能性はいつだってあると思う。

だって、赤ん坊が生まれて、
写真なんか撮ってるヒマないんだから。
そうなんですよ、まさに!
糸井
でもさ、誰かに頼まれたからとか、
展覧会が決まったとか、
そうなったら、
おんぶしようが何しようが、撮るよね。

イヤでもやることになっちゃうのって、
職業って、すごいことでさ。
そうですね。
糸井
だって、ぼく自身が、
文章を書くの、好きじゃないんですよ。
ははははは!(笑)
糸井
前川清さんだって、いつも言うんだよ。
「歌を歌うの好きじゃない」って。

でも、そういう前川さんの歌を聴いて、
人は泣くわけですよ。
うん、うん。たしかに。
糸井
ぼくにとって「文章を書く」なんて、
どっちかっていうと、
つらいことのほうが多いですからね。
そうなんや。
SWITCH新井さん
でも、好きなことは続けられるけど、
嫌いなことって‥‥続けられます?
糸井
ぼくの大好きなお寿司屋さんがあって、
本当に心を込めて、
おいしいお寿司を、
一生懸命、食べさせてくれるんですよ。

歳は、ぼくより5つか6つ下なのかな。
うん。
糸井
でね、あるときに訊いたの、
「お寿司を握るの好きですか?」って。

そうしたら、
「今は好きじゃないです」って言った。
へえ。
糸井
「ずっと好きだと思ってた。
 でも、その時期もう終わりましたね。
 今は、好きじゃないです」

これ、お客からしてみたら、
腕はすっごく上がってるんです(笑)。
SWITCH新井さん
おもしろい。
糸井
どんどんおいしく、
愛想だってよくやってくれるんだけど、
好きだと思っていたころとは、
今は、違うんだって。
SWITCH新井さん
別の境地に行ったということですかね。
糸井
好きだ嫌いだって言ってるうちは、
まだ自分勝手なのかもしれないですね。

どうしても必要とされてしまうとか、
差し出したら、
お客には、よろこんでもらえるとか、
苦しいんだけど、
達成したときによろこびがあるとか。
うん、うん。
糸井
辞めない理由は様々だとは思うけど、
そもそも
「やってることそのものが好きだ」
っていうのは、
問題の立て方が違ってるのかもね。
SWITCH新井さん
問題の立て方。
糸井
つまり、プロフェッショナルな人に、
やってることが好きかどうか聞いて、
何か答えてくれたとしても、
そんなんじゃないよな、と思うわけ。

好きか嫌いかだけで考えてたら、
プロとして続けられないんだと思う。
SWITCH新井さん
なるほど。
糸井
だから、梅佳代が、
今、赤ん坊を撮ってるっていうのが、
ぼくにはおもしろくて。

本当に、プロになったんだなぁって。
へぇ。
糸井
ただ、そこで「食うためだから」と
言い過ぎて、ダメになるプロもいる。

「望まれてるもの」に寄せていって。
ああー。
糸井
やっぱり、カメラマンの場合は
「ファインダーをのぞいていたら、
 撮りたくなっちゃった」
って部分がやっぱり大事ですよね。
そうですね。
糸井
そこで、スイッチ入るでしょ?
入る。
<続きます>

2019-01-13-SUN