白い犬。梅佳代さんちの「あのこ」のこと。白い犬。梅佳代さんちの「あのこ」のこと。

このコンテンツについて

曇りガラスの向こうから、こっちを見てる。
雪にまみれて、雪と一体化してる。
みちばたでプリッとウ◯チをしている‥‥。
梅佳代さんの写真集に、
ときどき出てくるあの「白い犬」が
一冊の写真集になりました。
タイトルもズバリの『白い犬』です。
梅佳代さんにとっては、
一緒に暮らしたことのない実家の犬のこと。
最初は怖くて触れなかったけど、
いつしか友だちになっていた、白い犬のこと。
梅佳代さんが、いつものように、
ユーモアたっぷりに、話してくれました。
担当は「ほぼ日」奥野です。


第6回
能登の流れ星になって。

──:
リョウは、フッといなくなった?
梅:
うん、もうずっとテンション低かってん。

歳とって弱って、
ごはんを何も食べんくなったりしとって、
もう死ぬこと、みんな、わかっとった。
──:
そうなんですね。
梅:
でも、もしかしたら、
この、おとなしいまま冬越すかもねって、
話してたんだけど。
──:
ええ。
梅:
ある朝に、突然、いなくなってしまった。
だから、きっと死んだんだと思う。
──:
犬って、死ぬところを人に見せないとか、
聞いたことあります。
梅:
リョウ、臆病者やしな。
死ぬとわかったら、怖かったかな。

あるときなんて、
自販機で、ウ◯コ漏らしたんだよ。
──:
豊富ですよね、そっち系の話(笑)。
梅:
そう、自動販売機で
ジュースが落ちてくる音にビビって、
ウ◯コ漏らしてん、リョウ。
──:
その瞬間に、生まれてしまったと。
梅:
そう、ビビリやからビックリして。
自販機、はじめて見たんじゃない。
──:
なにせ、家の近くにないんですもんね。
ジュースの自動販売機。
梅:
だから、ずーっと吠えてたんだよ。
音が鳴ってたから、自販機から。
──:
もう一本当たるか当たんないか‥‥の、
ピーヒョロロ~みたいな?
梅:
そう、そんな音にワンワン吠えとって、
ほんで、
ジュース落ちてくるガタって音に
完全にビクッてなってウ◯コ漏らして。

妹が見たって。田舎の犬だからね。
──:
田舎関係あります?(笑)
梅:
だって、都会の犬みたいな、
オシャレそうな犬に出会ったときも、
死ぬほど吠えとったし。
──:
毛足の長い‥‥みたいなタイプの。
梅:
そうそう、自分は田舎の犬だから、
内心は焦ってるからしっぽ完全に下げて、
でも歯を出して、めっちゃ吠えとった。

で、そのオシャレ犬には、
完全にシカトされとったんだけど(笑)。
──:
この顔とか、いいですね。
梅:
うん、それいい。

梅佳代『白い犬』(新潮社刊)より

──:
目を閉じてる。
梅:
そんな顔、よくしとったかもしれんなあ。
──:
仏さまみたいです。
梅:
仏だよね。ちなみに、この写真、
2009年って書いてあるけど、
見てると、
いつの時代かわからんくならん?

梅佳代『白い犬』(新潮社刊)より

──:
あー、たしかに。
昭和の風景といっても、うなずける感じ。
梅:
ここに写ってる子ら、すごいよ。
友だちが3年連続で産んだ年子。
──:
うわ、すばらしいですね。
梅:
この3人は『のと』によく出てくる。

わたしのレギュラー選手ねんけど、
だんだん成長してきて、
最近、撮らせてくれなくなってきた。
──:
おいくつくらいなんです、いま?
梅:
もうだいぶ年頃で、
来年から中1、中2、中3になる。
──:
そうか、年子の3きょうだいとなると、
中学3年間にピッタリ収まるんだ。
梅:
ヤバいやろ?

いっとき、
帰るたんびにその友だち妊娠しとって、
「え、また‥‥え?」みたいな展開。
──:
帰省すると繰り返すデジャヴ(笑)。
梅:
帰るたびに去年とまったく同じ状況なの。

ホラ、田舎の風景も、
そこんちのばあちゃんも全員同じやから。
──:
はい(笑)、ばあちゃんは、
3年くらいじゃそうそう変わらないです。
梅:
だから4年目もこわごわ帰ったんやけど、
さすがに、それはなかった。

でもスゴイよ。絶対もっと産めたと思う。
あの3人も、最初リョウを怖がってたな。
──:
今回、この『白い犬』という写真集を
出そうと思ったのは、どうしてですか?
梅:
そうやね、犬の本を出すつもりなんか、
ぜんぜんなくって、今まで。
──:
ええ、梅佳代さんが撮るものといえば、
なんとなく「人間」でしたし。
梅:
でも、なんか、急に‥‥
急に今年の春過ぎ、夏がくる前とかに、
写真集つくろうと思った。

すっかりサボっとったこと思い出して。
──:
えーと、『のと』以来ですか?
梅:
そうです。
知らん間にけっこう時間が経っとった。
──:
前作からは‥‥3年くらい?
梅:
うん。3年経ったら、けっこうだよね。
中1が高1になるんやで。怖!
──:
あるいは、3年あったら、
子どもが3人産まれたりもしますよ。
梅:
あー、そうや! ああ、本当。

友だちが3年連続で子ども産んでる間、
わたしは、ボサッとしてたんやね‥‥。
──:
でも、新作をと思ったときに、
リョウの本をつくろうと思ったのは?
梅:
やっぱり、おらんくなったからかな。

リョウはたぶんどこかで死んどるけど、
死んだからって本にするのも
アレかなと思ったけど、
でも、つくるなら今しかないと思って。
──:
なるほど。
梅:
やっぱり死んだから、なのかなあ。

だって、犬の本を出そうだなんて、
それまでのわたし、
ぜんぜん思いついてなかったから。
──:
最初は怖かったけど、
いつしか友だちになっていたことも、
大きいかもしれませんね。
梅:
うん‥‥最後は友だちになれたから、
本になったのかも。
──:
あらためて、
リョウがいなくなって、どうですか?
梅:
やっぱり、さみしいよ。
玄関が静かになってしまったからね。
──:
なるほど。
梅:
あと、イノシシが出るようになって、
ネズミが増えたって。
──:
いなくなってから?
梅:
うん、古い家だから、
昔からネズミがよく出てたんだけど、
リョウのケモノ臭のおかげで、
一時期、ずいぶん減ったらしいんや。

で、死んだらまた、ネズミの天下で。
──:
でも、ある朝いなくなってたってことは、
死んじゃったところは、見てない。
梅:
そう。見てない、誰も。

だから、山で生きとるかもしれない。
なんか、ぜんぜん別の存在になって。
──:
わかりませんよね、あるいはね。
梅:
犬とはちがうレベルになって、
山で人間語しゃべっとるかもしれん。

昔、そういう漫画あったやろ?
──:
高橋よしひろ先生の
名作『銀牙 ー流れ星 銀ー』ですね。

人の言葉をしゃべる犬たちが、
凶悪な人食い熊と戦ったりする話です。
梅:
そうなっとる可能性も、あると思うよ。
だって、しゃべってそうやし。日本語。
──:
大活躍してるかもしれませんね。

それこそ、流れ星みたいになって、
野山を駆けまわってたりとか。
梅:
そうそう、ホントに。本当にね。

犬のリーダーになっとるかもしれんしね。
今ごろ、能登の山のどっかで。

<おわります>

2017-01-27-FRI
取材協力:ダンデライオンチョコレート

写真集『白い犬』、発売中。
写真展「白い犬」も開催中。

梅佳代ファンならきっとご存知、
これまでの梅佳代さんの写真集のなかに
ちょくちょく登場する
梅家の愛犬・リョウが本になりました!

タイトルはズバリの『白い犬』です。
表紙からして、もう「いい!」です。
すでに全国書店等で絶賛発売中です。

Amazonでのお求めは、こちらからどうぞ。

で、この本の発売を記念して、
現在、南青山の「TOBICHI②」では
写真展を開催しています。
会期は、2月5日(日)までです。
梅佳代さんの過去の著作をズラリならべる
特設ショップもオープンしてます。
ぜひぜひ、みんなで見に来てくださいね!

開催概要

梅佳代さん写真展@TOBICHI② 白い犬。

会期:
2017年1月20日(金)~2月5日(日)
時間:
11時~19時 ※会期中無休、1月22日(日)は17時クローズ
会場:
南青山 TOBICHI②
住所:
東京都港区南青山4­28­26
MAP:
https://www.1101.com/tobichi/access.html
入場料:
無料

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