LIFE』の、
「レシピそのままつくってみてください」
っていう考え方に至った理由は、
まさしく飯島奈美さんと出会ったからなんです。
飯島さんは、レシピを発表する直前まで、
分量とかを、「やっぱりこれにする」とか、
ものすごく検討するんですよ。
あぁー!
校了の直前まで検証をして、
たとえば、大さじ2分の1なのか、
小さじ2なのか、
担当者と電話で相談してるの。
けっこう、科学者なんですよ。
そうですよね。
私も、別の雑誌で見た時に、
卵焼きを、お砂糖の量を変えて
焦げ目の模様を4種類
挙げてらっしゃるのを見て、
ほんと、実験に近いと思いました。
私、ナポリタンに夢中になってしまって。
焼きそばのコツとか、
ナポリタンのコツなんて、
なかなか聞けないことなので、
これは助かった! って。
ナポリタン、あれ!
麺を置いておいて、のばす!
意外でしょう?
「のばす」って!
ファミリーレストランで
バイトをしていたときと同じです。
麺を先に全部茹でて、
120グラムずつラップで包むのをやってたんです。
放置しておいて、後で炒めるみたいな。
いわゆる、みんなが言う
「まずいこと」をさせてるんですよね。
喫茶店の味ですよね。
そうそうそう。
『LIFE』はね、
どういうのがいいと思うかみたいな
イメージが先にあって、
それを科学者が追っかけてるみたいな、
そんな料理本なんです。
ストーリーがちょっと
付いてるのがありがたくて。
お祭りの後、お父さんたちは
ビールのつまみが欲しくて、
子どもたちはおかずが欲しいっていったら、
焼豚にしよう、とか。
あと、夏の終わりに
お母さんはさっぱり食べたい、
子どもたちはガッツリ食べたいから、
おそうめんに、てんぷらとか。
それが、すごく助かるんです。
おおもとは、飯島さんの仕事が
ドラマの中のご飯を作る人だったから。
それが一番やりたいし、
やりやすいことだったんです。
ストーリーが先にあって、
「ここの場面で出すご飯を考えてください」
というところから頼まれるんですね。
そうです。
『LIFE』っていうタイトルも
そういう意味だったんです。
生活の中のあるシーンで、
1人の役者さんを作るみたいに
ご飯を作るっていう──。
最初ぼくは意気込んで、
「ストーリーは全部俺が書く」
って言ってたくらい(笑)。
もうちょっと自分の余裕があれば、
書きたかったんですよ。
『LIFE』のシチュエーション全部、
書きたかったぁ。
シチュエーションから?
そう。漫画家さんだったら漫画にしたい、
っていうのと同じに、ぼくも
「うーん、ここは離婚家庭にしちゃおう」
とかさ。
はいはいはい。
やりたかったんですよ。
漫画の中でも食べるシーンを出すんです。
ここ(『3月のライオン』)に
描くのは楽しいですよ。
ひな祭りが近かったら、
小さい子からおじいちゃんまでいる家は
何を出すだろうって、献立を考えて。
本当に考えてらっしゃいますよね。
だから『LIFE』を読んだ時も
楽しかったんですよ、ストーリーが。
「そうだ、外で食べようか?
 のサンドイッチ」も、
「がんばれ兄ちゃん! のハンバーグ」も。
それから、とても助かったのっていうのがあります。
「お客さんがいっぱい来る、どうしよう」
と思ってる時に、
「そういえばお祭りの日のがあった!」とか。
人数分考えなくてもいいメニュー、
結構ありますよね。
そうですよね。汎用性が高いというか。
わたしのところは、もともと、
お客さんが来ない家で、
お客さん料理を出したことがなかったから
頭の中に参考がなくて。
今の家って、隠れ家じゃないですか。
そうですね。隠れ家ですね。
若い時からわいわいしてる家以外は、
人が来ないように来ないようにと
相当気をつかってますよね。
それが最近になって、
家に人いっぱい来るようになったんです。
誰かのお家に赤ちゃんができると、
もう外食ができなくなるので、
だんだん家に移ってきました。
あぁ、なるほど。
そうすると、お宅にお邪魔して
赤ちゃんもいっしょにみんなでって。
そうすると、何作ったらいいだろう? って。
そうか、そうか。いいねぇ。
そうすると、羽海野さんの
プライベート空間っていうのは、
どこになってるんですか、今は?
この間まで私の家に
アシさん(アシスタントさん)の仕事場もあって、
寝る部屋もあって、自分の家なのに会社みたいで。
北島三郎一家みたいだ。
あははは!(笑)
いっぱいお弟子さんがいて、
掃除とかしながら、
「あ、大将」みたいな。
そうです。だから、
トイレもお風呂も私じゃない人も使う。
みんなのものなんだ。
はい。だから家にいる感がなくて、
休まらなかったんですけど、
仕事場を借りたら、自宅が、
「あ、ここは私のお家だ」
ってなりました。
よかったですね。
お正月とかも前は実家に帰っていたのが、
逆に親戚がみんな家に来るようになって、
友達も一緒に呼んじゃって。
若い頃だと、親もいるからちょっと、
ってなってたのに、
「いいよ、みんな、一緒くたで」。
女主人だもんね。
「お父さんちょっとごめんね。友達もいるけど」
みたいな。
それは大変化ですね。
そうなんです。
やっと大人になれたんだな、私、
と思いました。
(つづきます)
2011-04-04-MON





美大を舞台にした『ハチミツとクローバー』でデビュー。
高校生棋士を主人公にした長編第2作
『3月のライオン』で「マンガ大賞2011」を受賞。
同作は現在も白泉社「ヤングアニマル」誌で連載中。