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糸井 |
前川さんの握手の話もそうですけど、
ぼくも、やんなきゃいけないな、と思って
やりはじめたことが、
自分とってうれしいことに
このところ、変わってきています。
チェンジって、なかなか
やりきることはできないと思います。
そう簡単なもんじゃない。
ぼくも、いつでも作り笑いができる人に
なっちゃうのは嫌だし。 |
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前川 |
はい。 |
糸井 |
嫌なことは嫌だという
サインを出すことは、これからもしていたい。
なおかつ、もっと屈託なく、
うれしいという気分が出せたら
いいなぁと思っています。 |
前川 |
はい。そのとおりですね。 |
糸井 |
だけど‥‥もう(笑)、
この歳になって、いまさら
そんなこと言ってるんですよね。 |
前川 |
でも、だからこそ
いいんじゃないでしょうかね? |
糸井 |
どうして若いときに気づけないんだろう(笑)。 |
前川 |
だから、いまが若いんですよ。 |
糸井 |
あら! |
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前川 |
たぶん。 |
糸井 |
そっか。‥‥晩熟ってことか。 |
一同 |
(笑) |
糸井 |
前川さんは、そういう
いろいろの心を持ってる人です。
そういう人の歌ですから、
ぼくはやっぱり、ちがうと思います。
ご本人は、心を込めてないみたいに
おっしゃるけど、
やっぱり歌って、まるごとが出ちゃいますから。 |
前川 |
ええ。 |
糸井 |
ちょっと汚いかもしれないけど、
歌は、言わば
吐いたものと同じなんですよ。
心を込めないで吐いたものでも、
何食ったかは、見えるじゃないですか。 |
前川 |
見えますね。 |
糸井 |
それを、聴いてるぼくらは
浴びちゃってるんじゃないかな。 |
前川 |
なるほど。 |
糸井 |
前川さんは、歌詞の意味なんて考えないと
おっしゃってるわけです。
それは、一般的には「考えろ」と
言われることです。 |
前川 |
そうですね。
考えないといけませんね。 |
糸井 |
だけど、前川さんが
憶えちゃった以上、
その歌は、吐き出すものになります。 |
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前川 |
はい、そうですそうです。
考えなくても、出てくるんですよ。 |
糸井 |
入れちゃったんだから、
出るんですよね。
とうもろこし食えば、
とうもろこしが出ます。 |
前川 |
なるほどなぁ‥‥。
歌い手も人間ですから、
たのしいときも悲しいときもあります。
その歌詞にはまるときもあれば、
そうじゃないときもあります。 |
糸井 |
うん、うんうん。 |
前川 |
たのしいはずの日に、
悲しい歌を歌って、それで、
お客さんに「いかがですか」と言っても
それはどうなのかなぁ、
ほんとは歌いたくないなぁ、
と思うこともあります。
歌というのは、まず、
作詞作曲なさった方々が作ったものです。
それをぼくが、歌っています。
ですから、レコーディングのとき、
いちばんによろこばれるのは、
作詞作曲の先生です。 |
糸井 |
はぁー、わかる。 |
前川 |
歌い手は意外とね、
うれしいってもんでもないんですよ。
悲しいもんでもないんですけどね。 |
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糸井 |
なるほどなぁ(笑)。 |
前川 |
いま、ご自分で歌を作る方が
たくさんいらっしゃるから、
これはあてはまらないかもしれないんですが、
歌い手って、「体を貸す」という部分が
少なからず、あると思います。 |
糸井 |
歌手でそのことを、
自分でわかってる人って
あんまりいないでしょうね。 |
前川 |
うーーん、どうでしょう。 |
糸井 |
だって、「好きなんだ」と
思い込もうとするじゃないですか。 |
前川 |
そうでしょうね。
その歌が好きで、
歌詞を理解して理解して歌おう、
という人もいるでしょう。
だけど、例えば全国を回るツアーだと、
何ヶ月も同じ歌を、何度も歌うわけです。
一所懸命のりにのって歌えた日、
「よかったろう」
と言うと、マネージャーが
「今日、調子悪かったでしょう?」
なんて言ってきたりするんですよ。 |
一同 |
(笑) |
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前川 |
「え? 調子よかったけど?
え? そうですか‥‥」
それで、風邪なんかひいたり
ぼーっと別のことを考えて歌ったりした日、
「よかったですね、今日」
なんて、みんながぽーんと肩を(笑)。 |
糸井 |
それはすごい(笑)。 |
前川 |
ですから、
「聞く耳」って、
自分が考えてるものとは
ちがうんじゃないかと思うんです。
自分が得意じゃないな、と思ってる
メロディーの歌があるんですが、
それはみなさん、
とてもよろこんで聴いてくださる曲で、
大ヒットしました。
ですから、お客さまと自分の感覚って、
とっても、ちがうんですよ。
自分が考えて理解して、
どっぷり浸かって出せばそれでいい
というわけではありません。
(つづきます) |