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糸井 |
ぼくは前川さんの歌を
聴き直すようになってから、
わかったことがあります。
それは、詞や曲を作っている人が、
予想もしなかったような歌い方を
混ぜてるんじゃないか、ということです。 |
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前川 |
はい、はい。 |
糸井 |
ぼくは詞を作る立場ですから、
少しわかります。
「雪列車」に関しては、
ぴたっ、ぴたっ、と来てるんです。
だけど、前川さんの歌の中には、
例えばたった2文字で
かなり長く歌わせるような、
「どうやって歌えばいいのかな?」
というような歌詞があるでしょう。
それを、歌い手としての前川さんは
「なに? その譜割り!」
と驚くようなアレンジをして歌ってます。 |
前川 |
そうです、そうです。 |
糸井 |
ほんとは、もっと平板な
節だったはずが‥‥ |
前川 |
そうそう。
もうちょっと音符をつけたらいいかな?
なんて、やります。 |
糸井 |
そうですよね。
そうやって、
受け取った人は困るだろうな、
というような難しい曲を、前川さんは、
「前からそうだった」というように
自分なりにアレンジして歌っちゃうんですよ。 |
前川 |
ぼくはですね、
譜面どおりに歌ってることは、
ほとんどないです。 |
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一同 |
(笑) |
前川 |
すみません。 |
糸井 |
やっぱり、譜面はちがうんですか。 |
前川 |
ちがいます。
自分でおもしろくしちゃったりします。 |
糸井 |
その節回しは、
レコーディングのときに
発明するんですか? |
前川 |
そうです。 |
糸井 |
なまけ者だとおっしゃるわりには‥‥、
その瞬間、すごい集中してますね。 |
前川 |
あ、そういったものに関しては、
集中力ありますよ。
ここはこうしよう、ここはこうしよう、
そういうものは、ぼくはめちゃくちゃあります。 |
糸井 |
ほぉおお。 |
前川 |
ぼくはね、
努力とかなんかは嫌なんですが、
アンテナだけは張ってるんですよ。 |
糸井 |
一所懸命。 |
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一同 |
(笑) |
前川 |
はい。
歌は、売れなくてもいいんです。だけども、
「あ、この歌は、たぶん、
何十年後とかに、
絶対いい歌だと言われる」
「ずっと歌い継がれるだろう」
ということは、わかります。
‥‥ぼくはね、
演歌って苦手なんですよ。
ぼくが生まれたところは佐世保で、
米軍基地のあるところでした。
ちっちゃいときから、
洋楽ばっかり聴いてたんで、
演歌というものになじみがありませんでした。
デビューから、演歌のような歌を
たくさん出すことになりましたけど、
そのあたり、すごく
クール・ファイブのおかげで助かったんです。
つまり、あの人たちのコーラスは全部、
ストレートなんですよ。 |
糸井 |
そういえばそうですね。 |
前川 |
絶対揺らさないんです。 |
糸井 |
揺らさない。 |
前川 |
演歌の感じの歌も、
彼らのおかげでストレートに歌えます。
ストレートで歌うって
けっこう気持ちいいんですよ。
そのおかげで、
しゃれた歌だなぁ、と思ってもらえたり、
あとあと古さを感じさせないものに
なっていたんだろうということがあります。 |
糸井 |
アレンジは、どなたが? |
前川 |
アレンジは、
アレンジャーの方です。 |
糸井 |
クール・ファイブをいかすための
アレンジャーが、また
いらっしゃったんですね。 |
前川 |
アレンジャーってすごいんですよ。
作詞、作曲、たいへんいいものができたときでも
編曲でめちゃくちゃになりますから。
編曲のすごい力を感じたのは、
「そして、神戸」です。
この一曲。 |
糸井 |
はぁ、そうか! |
前川 |
あの、
「ジャジャージャン、ジャジャジャジャ
ジャジャージャーン」
を聴いたとき、
うわぁーかっこいい、と思いました。 |
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糸井 |
あれは、「なにがはじまるんだ?」
と思ってしまう前奏ですよ。
あの歌、実は、
歌がはじまる前に、
もう、はじまっちゃってるんです。 |
前川 |
そうです。 |
糸井 |
はじまっちゃってるところに、
前川さんが「ああ、間に合った」といって
歌いはじめるんですよ。 |
前川 |
そうそう、そうそう(笑)。
そうのとおりです。 |
糸井 |
そのことを、作詞家は知ってるんですよ。
アレンジもそうなってる。
「そして、神戸」です。
いいですか、みなさん、
(観客に向かって)
なにかがあって、「そして」なんですよ。 |
一同 |
うーん。 |
前川 |
そうですよ。
(つづきます) |