第11回 この歌はいつまでも歌い継がれる、そのことだけがわかる。
糸井 ぼくは前川さんの歌を
聴き直すようになってから、
わかったことがあります。
それは、詞や曲を作っている人が、
予想もしなかったような歌い方を
混ぜてるんじゃないか、ということです。
前川 はい、はい。
糸井 ぼくは詞を作る立場ですから、
少しわかります。
「雪列車」に関しては、
ぴたっ、ぴたっ、と来てるんです。
だけど、前川さんの歌の中には、
例えばたった2文字で
かなり長く歌わせるような、
「どうやって歌えばいいのかな?」
というような歌詞があるでしょう。
それを、歌い手としての前川さんは
「なに? その譜割り!」
と驚くようなアレンジをして歌ってます。
前川 そうです、そうです。
糸井 ほんとは、もっと平板な
節だったはずが‥‥
前川 そうそう。
もうちょっと音符をつけたらいいかな?
なんて、やります。
糸井 そうですよね。
そうやって、
受け取った人は困るだろうな、
というような難しい曲を、前川さんは、
「前からそうだった」というように
自分なりにアレンジして歌っちゃうんですよ。
前川 ぼくはですね、
譜面どおりに歌ってることは、
ほとんどないです。
一同 (笑)
前川 すみません。
糸井 やっぱり、譜面はちがうんですか。
前川 ちがいます。
自分でおもしろくしちゃったりします。
糸井 その節回しは、
レコーディングのときに
発明するんですか?
前川 そうです。
糸井 なまけ者だとおっしゃるわりには‥‥、
その瞬間、すごい集中してますね。
前川 あ、そういったものに関しては、
集中力ありますよ。
ここはこうしよう、ここはこうしよう、
そういうものは、ぼくはめちゃくちゃあります。
糸井 ほぉおお。
前川 ぼくはね、
努力とかなんかは嫌なんですが、
アンテナだけは張ってるんですよ。
糸井 一所懸命。
一同 (笑)
前川 はい。
歌は、売れなくてもいいんです。だけども、
「あ、この歌は、たぶん、
 何十年後とかに、
 絶対いい歌だと言われる」
「ずっと歌い継がれるだろう」
ということは、わかります。

‥‥ぼくはね、
演歌って苦手なんですよ。

ぼくが生まれたところは佐世保で、
米軍基地のあるところでした。
ちっちゃいときから、
洋楽ばっかり聴いてたんで、
演歌というものになじみがありませんでした。

デビューから、演歌のような歌を
たくさん出すことになりましたけど、
そのあたり、すごく
クール・ファイブのおかげで助かったんです。
つまり、あの人たちのコーラスは全部、
ストレートなんですよ。
糸井 そういえばそうですね。
前川 絶対揺らさないんです。
糸井 揺らさない。
前川 演歌の感じの歌も、
彼らのおかげでストレートに歌えます。
ストレートで歌うって
けっこう気持ちいいんですよ。
そのおかげで、
しゃれた歌だなぁ、と思ってもらえたり、
あとあと古さを感じさせないものに
なっていたんだろうということがあります。
糸井 アレンジは、どなたが?
前川 アレンジは、
アレンジャーの方です。
糸井 クール・ファイブをいかすための
アレンジャーが、また
いらっしゃったんですね。
前川 アレンジャーってすごいんですよ。
作詞、作曲、たいへんいいものができたときでも
編曲でめちゃくちゃになりますから。

編曲のすごい力を感じたのは、
「そして、神戸」です。
この一曲。
糸井 はぁ、そうか!
前川 あの、
「ジャジャージャン、ジャジャジャジャ
 ジャジャージャーン」
を聴いたとき、
うわぁーかっこいい、と思いました。
糸井 あれは、「なにがはじまるんだ?」
と思ってしまう前奏ですよ。
あの歌、実は、
歌がはじまる前に、
もう、はじまっちゃってるんです。
前川 そうです。
糸井 はじまっちゃってるところに、
前川さんが「ああ、間に合った」といって
歌いはじめるんですよ。
前川 そうそう、そうそう(笑)。
そうのとおりです。
糸井 そのことを、作詞家は知ってるんですよ。
アレンジもそうなってる。
「そして、神戸」です。
いいですか、みなさん、
(観客に向かって)
なにかがあって、「そして」なんですよ。
一同 うーん。
前川 そうですよ。


(つづきます)

2010-07-12-MON