第12回 あとから追いかける歌、「そして、神戸」。
糸井 前、何があったんですか?
というところはみんなに想像させおいて、
「そして、神戸」です。
「泣いてどうなるのか」
と言われても、
なんで泣いてるかもわかんないですから。

だって、歌の中で、
ひどいことしてますよ。
花を踏みにじったり。
前川 そうです。
「花を踏みにじる」
糸井 靴を投げ落としたり。
前川 やってます。
「濁り水の中に 靴を投げ落とす」
糸井 こんな歌、あるか?
一同 (笑)
糸井 靴を投げ落としたりするほど
胸をヘンにさせるようなことがあって、
神戸という場所に、なにかがあって、
前にあった事件と
自分の抱えた事件が、衝突している。
それが「そして」なんですよ。
前川 ほおぉ。そっか、そうですね。
糸井 あの歌にはドラマがふたつあるんです。
前川 あの詞は、
千家和也さんが書いてくださいました。
糸井 あの詞、すごいです。
千家さんって、
奥村チヨさんの「終着駅」を
書いた人でしたよね。
「落ち葉の舞い散る停車場は」
前川 そうそう、浜圭介さんが作曲ですね。
「そして、神戸」も浜圭介さんです。
糸井 たまんないですよ、あの歌。
作詞家が、自分のなにかと
無理心中させるかのようにぶつけてるのが
あのあたりの時代の詞です。
ぼくなんかには「そして、神戸」は
考えられない。
前川 すごいですよねぇ。
そうそう、
「札幌」とか「大阪」などの地名が
入っている歌は歌いやすくて、
ヒットしやすいと言われてるんですよ。
だけど、「名古屋」とか「神戸」とか、
3文字では、作りづらいらしいです。
糸井 へぇえ。
前川 神戸のヒット曲も、ほとんどありません。
糸井 「こうべぇ〜」で、伸ばさないと
歌えないですもんね。
前川 そうですね。
「こうべっ」って言ったら
どうしようもない。
一同 (笑)
糸井 そうですね。
前川 だからあのとき、
よくも頭に、
「ジャジャージャン、ジャジャジャジャ
 ジャジャージャーン」
ってつけたな、と思いました。
糸井 思い切りがいいですよ。
前川 泣いてどうなるのか、
なんのことだろう、
捨てられた我身が、
ふむふむ、
あ、みじめだから泣いてるんだ、
という歌詞です。
逆ですよね。
糸井 「花を踏みにじる」という歌詞も、
聴く人にしてみれば
「なんで?」というくらい
すごい歌詞ですよ。

もしかしたら、行きずりの異性に
雑な恋愛をしたのかもしれない。
そしてたいてい、そういったことには
自分の悪さも
入っていくんだろうと思います。
だから、「踏みにじる」という言葉なんですね。
前川 ああ、なるほど。
そうやって考えたことなかったです。
糸井 それを直立不動の前川さんが
何の表情もなく、ボカーンって、
「おまかせー!」と
堂々と歌うわけですよ。

それで、聴くほうのみんなが
なにかを感じてるという状態です。
歌を作っていく人の数のうちに、
お客さんも含んでる歌ですよ。
前川 ねぇ。
糸井 歌は、耳も含んでます。
前川 そうなんですねぇ。そうかぁ、
いやぁ、おもしろいなぁ。
‥‥こう、糸井さんと話してて思うのは、
こんなに話してるのに、
「詞、書いてくださいよ」
「作ろうか」
という話が出ない、ということです。
糸井 そうですね。
前川 たぶん、
「きよしちゃんできたよ」
そういう関係というか‥‥。
糸井 うん(笑)。
一同 (笑)
前川 なんか、ふと来るんだろうなぁという気が
ぼくは‥‥。
糸井 それ、実はぼく、
作りかけてます。
前川 (手をパチン)
一同 (拍手)
糸井 こういうのって
迷惑な場合があるわけだし、
できあがるまでは、
ほんとうはできてないんですけどね。


(つづきます)

2010-07-13-TUE