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糸井 |
前、何があったんですか?
というところはみんなに想像させおいて、
「そして、神戸」です。
「泣いてどうなるのか」
と言われても、
なんで泣いてるかもわかんないですから。
だって、歌の中で、
ひどいことしてますよ。
花を踏みにじったり。 |
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前川 |
そうです。
「花を踏みにじる」 |
糸井 |
靴を投げ落としたり。 |
前川 |
やってます。
「濁り水の中に 靴を投げ落とす」 |
糸井 |
こんな歌、あるか? |
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一同 |
(笑) |
糸井 |
靴を投げ落としたりするほど
胸をヘンにさせるようなことがあって、
神戸という場所に、なにかがあって、
前にあった事件と
自分の抱えた事件が、衝突している。
それが「そして」なんですよ。 |
前川 |
ほおぉ。そっか、そうですね。 |
糸井 |
あの歌にはドラマがふたつあるんです。 |
前川 |
あの詞は、
千家和也さんが書いてくださいました。 |
糸井 |
あの詞、すごいです。
千家さんって、
奥村チヨさんの「終着駅」を
書いた人でしたよね。
「落ち葉の舞い散る停車場は」 |
前川 |
そうそう、浜圭介さんが作曲ですね。
「そして、神戸」も浜圭介さんです。 |
糸井 |
たまんないですよ、あの歌。
作詞家が、自分のなにかと
無理心中させるかのようにぶつけてるのが
あのあたりの時代の詞です。
ぼくなんかには「そして、神戸」は
考えられない。 |
前川 |
すごいですよねぇ。
そうそう、
「札幌」とか「大阪」などの地名が
入っている歌は歌いやすくて、
ヒットしやすいと言われてるんですよ。
だけど、「名古屋」とか「神戸」とか、
3文字では、作りづらいらしいです。 |
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糸井 |
へぇえ。 |
前川 |
神戸のヒット曲も、ほとんどありません。 |
糸井 |
「こうべぇ〜」で、伸ばさないと
歌えないですもんね。 |
前川 |
そうですね。
「こうべっ」って言ったら
どうしようもない。 |
一同 |
(笑) |
糸井 |
そうですね。 |
前川 |
だからあのとき、
よくも頭に、
「ジャジャージャン、ジャジャジャジャ
ジャジャージャーン」
ってつけたな、と思いました。 |
糸井 |
思い切りがいいですよ。 |
前川 |
泣いてどうなるのか、
なんのことだろう、
捨てられた我身が、
ふむふむ、
あ、みじめだから泣いてるんだ、
という歌詞です。
逆ですよね。 |
糸井 |
「花を踏みにじる」という歌詞も、
聴く人にしてみれば
「なんで?」というくらい
すごい歌詞ですよ。
もしかしたら、行きずりの異性に
雑な恋愛をしたのかもしれない。
そしてたいてい、そういったことには
自分の悪さも
入っていくんだろうと思います。
だから、「踏みにじる」という言葉なんですね。 |
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前川 |
ああ、なるほど。
そうやって考えたことなかったです。 |
糸井 |
それを直立不動の前川さんが
何の表情もなく、ボカーンって、
「おまかせー!」と
堂々と歌うわけですよ。
それで、聴くほうのみんなが
なにかを感じてるという状態です。
歌を作っていく人の数のうちに、
お客さんも含んでる歌ですよ。 |
前川 |
ねぇ。 |
糸井 |
歌は、耳も含んでます。 |
前川 |
そうなんですねぇ。そうかぁ、
いやぁ、おもしろいなぁ。
‥‥こう、糸井さんと話してて思うのは、
こんなに話してるのに、
「詞、書いてくださいよ」
「作ろうか」
という話が出ない、ということです。 |
糸井 |
そうですね。 |
前川 |
たぶん、
「きよしちゃんできたよ」
そういう関係というか‥‥。 |
糸井 |
うん(笑)。 |
一同 |
(笑) |
前川 |
なんか、ふと来るんだろうなぁという気が
ぼくは‥‥。 |
糸井 |
それ、実はぼく、
作りかけてます。 |
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前川 |
(手をパチン) |
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一同 |
(拍手) |
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糸井 |
こういうのって
迷惑な場合があるわけだし、
できあがるまでは、
ほんとうはできてないんですけどね。
(つづきます) |