第2回 3匹の鳩に託す。 昔は、鳩が情報屋でした。鳩に、すべてをかけていたのです

ひきつづき、朝日新聞東京本社、
糸井重里と「ほぼ日」25%乗組員は、
編集局フロア内を歩いております。

ここにいらっしゃる編集局のみなさんは
新聞の見出しを考えたり、
紙面の割付を担当されるんですか?

「基本的には、そうです」

いつも思うんですが、新聞って、
行数がいつもぴったりでしょう。
短時間で文字数を合わせるのは
大変じゃないでしょうか。

「いや、じつは、そうじゃないときもあるんですよ。
 記事が遅れたり差し替えになったとき、
 1行空白ができたまま
 発行してしまう場合があります。
 どうしても埋まらずにタイムアップです。
 そういう新聞を見たときには
 “ああ、きっとバタバタしてたんだろうな”
 と思ってください」

そういうこともあるんですね。

「はい、常に時間に追われた仕事ですので‥‥。
 あそこの壁、時計が4つかかっていますでしょう?
 あのデスクはスポーツグループなんですが、
 大リーグの記事を入れる関係で、
 日本、ロサンゼルス、ニューヨーク、
 あとはロンドンに合わせた時計がかけられています。
 では、ここでクイズにしましょう。
 この編集局の部屋だけで、
 合計いくつ時計があるでしょうか?」

チッチッチッチッチッチッチッチッチッ‥‥‥
えーーーーっと、
15個くらいですか?

「いえ、ブブー。
 答えは60個です」

さすが、すごいですね。

「どこの机に座っていても
 時計がすぐに見えるようになってるんです」


ひと部屋60個の時計がある会社です。

編集部が、こんなふうに
とても広いひとつのフロアに
なっているのは、
何か理由はあるんですか?

「グループ間の情報交換がしやすいように、
 ということがあります。
 たとえば、オリンピックや日本シリーズが
 開催されている時期には、
 スポーツ部でワーッとにぎやかな声があがると、
 遠く離れた政治部が
 “◯◯が優勝したかな?”
 “だとすれば、一面は
 スポーツが入ってくるのかな?”
 という想像ができます。
 こういうフロアですと、誰もがひと目で
 編集局の動きがわかるのです」

では、記者の人たちは、
そのあたりの並びを頭に入れつつ
取材するんでしょうか?

「いえ‥‥正確に言うと、
 このフロアにいるのは
 ほとんどが編集記者で、
 取材する記者は外にいます」

取材する人と、編集する人が
別なんですね。

「はい。世の中で新聞記者と呼ばれる人たちには
 ふた通りあって、
 ひとつは取材記者、もうひとつは編集記者です。
 取材記者が集めた情報をもとに、
 何を載せるのかを決めて
 新聞を作りあげていくのが編集記者です。
 見出しを考えるのも編集記者です」
 例えば、朝刊だと
 およそ17万文字の記事が載っていますが、
 実際に新聞社に集められる取材記者からの情報は、
 その10倍と言われています」

では、紙面には、その10分の1の情報が
厳選されて載ってるんですね。
記事は、メールなどでやりとりするんですか?

「いまはほとんどパソコンを使いますが、
 昔は電話でした。
 外で書いた原稿を電話で読み上げて
 それを編集記者が聞き取って書いた時代がありました。
 そのときは、編集局内、とてもうるさかったです」

きっと、そうでしょうね。

「はい。締切りがありますし、
 スクープを扱いますから、
 中には尋常じゃない雰囲気で
 電話をしている人もいました‥‥。
 そして、電話がなかった時代にも
 新聞はありました。
 どうしていたと思いますか?」

電話が普及する前ですか? 飛脚?

「ヒントは、ある動物です。
 ある動物が、記事を運ぶ役目を果たしていたんです」

もしかして、鳩ですか!?

「正解です。
 伝書鳩。聞いたことがおありになるでしょう?」


鳩が新聞記事を運びました。

「我々はほんとうに
 伝書鳩を使っていたんです。
 本社の屋上で鳩を飼っていました。
 およそ300羽ぐらいです」

ふぇええ。

「鳩は背中に黒い筒をつけていて、
 そこに記事を入れて運んでいました。
 我々は昭和36年くらいまで
 伝書鳩を使っていました」

わ‥‥わりとつい最近じゃないですか。

「はい、わりと、そうですね。
 ですから、朝日新聞の上空、
 夕方は鳩が飛んでいるのが
 “いつもの風景”となっていました」

鳩は一羽も迷子になることなく
帰ってきたんですか?

「9割くらいの鳩が
 ちゃんと帰ってきました」

おりこうさんですね。

「残りの1割はどうなったのかというと、
 大きな鳥に食べられてしまったり、
 記事の入った筒を落としてしまったり、
 ほんとうに迷子になって
 帰ってきませんでした。
 ときには、特ダネを持った鳩が
 ほかの会社の新聞記者の手に
 渡ってしまったり」

ええ‥‥それは(笑)!

「ですから、記者が現場に行くときには、
 鳩を3羽連れていったんだそうです。
 本社の屋上に行って、まず鳩を3羽捕まえて、
 風呂敷に包んで現場に連れていきます。
 そして、3羽に同じ記事を持たせて飛ばせば、
 少なくとも1羽は本社に戻ってきて
 ちゃんと載せることができる、と」

おもしろいですね。
スクープも、鳩しだい。

「はい。鳩がいちばん長く飛んだ記録は、
 北海道から東京まで。
 朝出発して夕方に戻ってきました」

‥‥あ、そういえば「ほぼ日」には
メールマガジンの「ほぼ日グルッポー」というのが
あるんですよ。

「『ほぼ日』さんとは
 “新聞”でもつながってて、
 “鳩”でもつながってるんですね」

ふふふふ。
ところで、もうひとつつながっているものを
発見しました。

「何でしょう」

朝日新聞さんには、階段の踊り場に
ぶらさがり健康器が置いてあるんですね。

「はい。各階にあります」

体をゆすらない、と
注意事項が書いてあります。

「パソコンに向かって作業していると
 疲れてしまうので、
 たまには体をのばしたりすることも必要です」

「ほぼ日」にもあるんですよ、
ぶらさがり健康器。

(つづきます)


2011-01-12-WED
イラスト:イリアヒム・カッソー