福田 | 脇阪さん、じつは僕が いちばん困る質問というのがあって。 それをあえて脇阪さんにしてもいいでしょうか。 |
脇阪 | どうぞどうぞ、してみてください。 |
福田 | 「何にインスピレーションを受けますか」 という質問です。 |
脇阪 | ああ。ああ。 それ、難しい質問ですよね。 よく訊かれますものね(笑)。 |
福田 | じつはさっき、それを考えて 旅行をなさるのかなという質問をしたんです。 けれどもそういうわけではなさそうなので。 |
脇阪 | やっぱりこの京都の町とか、京都の歴史とか、 あるいはそのいっしょに組んでいる SOU・SOUのデザイナーの若林くんであるとか、 そういうもの、人から 刺激を受けてるんだと思います。 |
福田 | 京都の町もやっぱり、昔と比べて どんどん変わってきてるとは思うんですが。 |
脇阪 | 確かに変わってきてはいますけれども、 でも、やっぱり、飽きないですね。 普通の仕舞た屋が並んでるような道を歩いてても、 新しい発見があったり、 何か感じるものがあるんですよ。 町の佇まいとか、あるいは、人のあり方なのかなぁ、 たぶん歴史とかそういうものがずっと積み重なってきてる。 そして、その新しさみたいなのもその中にある。 そういうことがひじょうに、 心地よい刺激になってるというかね。 いまも知らないことがいっぱいありますしね。 いただいたお菓子ひとつにしても、 全然知らないようなものがいまだにあります。 それがいろんな分野で、隠れるようにしてある。 あんまりあからさまにないんですよね。 |
福田 | それは何かひじょうに京都っぽいですね。 |
脇阪 | それと、自分独自の何かをやろうとしてる人が 結構京都には多いですね。 誰に言われたわけじゃないですけど、 京都の町の中の擦り込みみたいなことで、 「人のマネするのは ひじょうにこうかっこ悪いことだ」と。 あれは二番煎じやないかっていうようなことは、 すごくバカにされることだっていう意識が擦り込まれてて、 自分は自分独自でありたいみたいな風土がある。 お菓子屋さんでも自分とこはこのお菓子をやるんやって、 どんだけ小さくてもつぶれそうでも構わない、 自分とこはこれでいくんだみたいなね。 だからこんだけお菓子屋さんがいっぱいあっても、 同じような店は少ないわけです。 そういうおもしろさがあるんですよ。 京都には、独自のものをやろうっていう気風がある。 |
福田 | 日本はどちらかというと、 アメリカだったりフィンランドだったり、 摸倣というとあれですけど、 影響を受けてるものが多いと思うんですけど。 |
脇阪 | 京都人ももちろん日本人ですから、 摸倣をすることもあるでしょう。 けれど、日本の中では かなりそういう独自のものやろうっていう 意識が強いんじゃないかと思いますよ。 |
福田 | 僕は1年だけ、京都に住んだことがあるんです。 五条の、六波羅蜜寺のちょっと上がったあたりに。 大阪人なんですけども、 京都に対する憧れがありまして、 僕の人生の中でその1年間が いちばん楽しかったんですよ。 |
脇阪 | そうですか。どういうところが楽しかったですか? |
福田 | お寺が好きなので、その雰囲気を味わってるだけでも ほんとに身震いしました。 銭湯に行ったら、芸妓さんとか舞妓さんのかごが きれいに整然と並んでいて、 わりと光も暗めで、その美しさだけで、 何かもうゾクゾクゾクっとしたり。 ずっと住みたいなと思っていたんですけれど、 お金がなくて、大阪に帰り、今は東京に住んでいます。 けれどもあのときの1年間ていうのは ほんとに今でも、ずっと心に残ってます。 だから京都は奥が深いっていう話は、 1年ぐらいの経験しかないんですけど、 すごく納得するところです。 脇阪さん、10年くらい住むと 次のところに移りたくなると おっしゃっていましたけれど、 京都を離れることってあるんでしょうか。 |
脇阪 | もう10年になりますからね(笑)。 けれども今回は、ここに住み続けようと思っています。 動かないから、今度は部屋の空気を 変えようとしてますよ。 京都にもどるときに、じつは、 パリという選択肢もあったんですよ。 けれども50歳を過ぎていましたので、 いまさらその年齢でパリもないだろうと、 じゃあ京都に帰ろうと決めたんですね。 |
福田 | パリ! 脇阪さんがパリに住んだら、 どんなデザインをなさったのだろうと 想像しちゃいます。 その土地の空気を、 吸い込んで形になさるじゃないですか。 僕、脇阪さんのニューヨーク時代の作品も とても好きなんですよ。 |
脇阪 | アメリカのラーセンという会社にいたときの。 |
▲ソファなどの生地として使われた、脇阪さんデザインのファブリック。 |
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福田 | 手描きのストライプですよね。 繊細で、とてもきれいです。 きっと、これを作られたときの ニューヨークの空気感って こんな感じだったんじゃないかなって気がします。 |
脇阪 | そうですか。ニューヨークって、 何かものすごく派手な感じがしますけども、 かなり色なんかは重いんですね。 車の色なんかも結構わりと重い色が多い。 |
福田 | イエローキャブや、 ブロードウェイの派手なネオンのイメージがありますが、 確かに古い建物がずっと残っていますし。 |
脇阪 | そうですね。そういう意味では 北欧の方が、色使いにしても派手ですね。 |
福田 | ところで、 脇阪家は食器がすごくいっぱいありますね。 |
脇阪 | そうですね、 この人(奥さま)の趣味です。 ほとんど骨董品ですよ。 |
福田 | そうなんですか! |
脇阪 | 京都は安くていいものがあるんですよ。 使い勝手のよいものというんですかね。 |
福田 | じゃあ、お二人でよく出歩いたりもなさるんですか? |
脇阪 | 散歩をしますよ。 町も近いですから歩いて行ったり。 けれども、そんなにあっちこちに 行くわけでもないですね。 むしろ家にいることが多い。 僕はどちらかといえば 何かをつくってるのが好きだし、 この人は家で料理つくったり、 植栽の手入れをしたりするのが好きだし。 ふたりとも家ん中でごそごそしてるのが好きなんですよ。 だから今、いちばん困るのは、 夢中になってやってるときはいいですけど、 何か詰まってきたときですね。 何となく表現も詰まってるし、気分も詰まってるし、 てなったときに、さぁどうする? って。 やることがないというか、 もうそれがひじょうに困りますね。 |
福田 | そうなってももう、 外には行かないという感じですか? |
脇阪 | 食事に行ったりしますよ。 でも、そやけど、それって、 ちょこっとした気分転換で。 もうちょっと大胆に 気分転換をしたくなるときがあります。 |
福田 | 毎日、奥様に出されているハガキですが、 見返したときに、 これを描いたときにどういう気分だったとか 覚えてらっしゃいますか? |
脇阪 | いや、あんまり覚えてないですね。 朝一番に描くんですけれど。 |
福田 | 脇阪さんのハガキは、 そのままテキスタイルになりそうなものが とても多いんですね。 |
脇阪 | そうですね。もうね、なってしまうんですよ。 どうしてもテキスタイルに。 これを繰り返していったら、と、 無意識のうちにつくってしまうというか。 |
福田 | お描きになるものの最終形が、 テキスタイルとして見えているという ことなんだと思います。 とてもすばらしいことだと思います。 僕は──、個展で、 原画を誉めてもらうことがあるのですけれど、 じつは複雑な気持ちになるんです。 というのは、イラストレーターという職業を 自分が好きでやってる以上は、 最終形は印刷物だと考えているものですから。 |
▲福田さんの描くものは、書籍やCDジャケットなど、 いろいろな印刷物に使われている。 |
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脇阪 | ああ、なるほど。 |
福田 | 印刷されたときに、 原画を超える何か、 輝くものを出さないと、と。 それが、永遠のテーマなんです。 |
脇阪 | 福田さんが、依頼された仕事としての イラストレーションではなく、 個展のために描かれるときというのは、 どういう気持ちで描かれますか? |
福田 | まず自分にとって気持ちのいい絵を描きます。 個展は見本市というイメージで、 それを展示することで、 あ、この絵はおもしろいね、 じゃあこんな感じで今度仕事を 依頼できませんかっていうような意味合いで 僕は展覧会をやっているんです。 脇阪さんは、 イラストレーションのお仕事を なさることはありますか? |
脇阪 | いや、イラストレーションの仕事は いままで、一度もしたことがありません。 でも僕は、たぶんね、 テキスタイルデザインへいきましたけれども、 もともとはね、たぶん、 イラストレーションみたいなものが やりたかったんだと思いますよ。 けれども僕はそこにあるものを描くのは下手です。 たまに植物を描くくらいかな。 けれども、何かを見て描くと、 引きずられてしまって、 すごくおもしろくない絵ができる。 |
福田 | そうなんですか! でもちょっとわかる気がします(笑)。 |
脇阪 | おりこうさんの部分があってね、 すごくおりこうさんに うまく描こうという意識が働いてしまうんですね。 逆に、時間がなくて、 たとえば1分しかないときも、 1分で描きます。 そうするとそれなりの何か、 また新しい何かが、 出てくることあるんですよね。 |
福田 | なるほど‥‥! たくさん、よいお話をうかがいました。 こうしていつまでもお話を お聞きしていたいほどなのですけれど、 そろそろおいとませねばなりません。 あの、脇阪さん、また、あらためて、 寄らせていただいてもいいですか? |
脇阪 | どうぞ、どうぞ。 こちらに戻っていらしたら またお寄りください。 |
福田 | ありがとうございます! |
脇阪 | こちらこそありがとうございました。 こんなんで大丈夫? たのしいお話だったけれど。 |
福田 | すみません、すごく緊張してしまって! |
(おわり) |
2012-12-21-FRI