ラストワルツを聴きながら。
あのすごさを、余すことなく語りあう。

第3回 コピーと表現。

糸井 さっき、沼澤さんが、
「自分のことを全然知らない人を
 ライブで思わず捕まえちゃう」って話、
 具体的に聞くと、もっとおもしろいかも。
沼澤 福岡ブルーノートが、
学割を試した時があるんですよ。

そうしたら、見事に
若い学生の男の子たちが多かった。
ふだんのような女性の客が少なくて。

・・・確実に、大学生の男の子たち。
やっぱり、ちょっと、
素直に構えてはこないじゃないですか。

学割で来てるし、
「この値段だったら、観てもいいかな」
ってノリで来ているのも、こちらはわかる。

椅子に座っていて、最初は、
そうとう、斜に構えてるんですよ。
はじめの2〜3曲、絶対に動かない。
「そんなにカンタンに受けいれないぞ」
たぶん、そういう姿勢があったんです。

でも、ライブが進むにつれて、
だんだん前のめりになってきて、
最後に、ウワーッて立ち上がった・・・。

最後、大騒ぎしましたよ・・・ぼくが
「STUDENTS、ばんざい! 明日もやってます!」
って言ったら、次の日も、みんな戻ってきた。
それが、糸井さんも観にきてくれた
"Nothing But The Funk"ってバンドですけど。
糸井 ・・・あのメンバーだったら、
たいがいのことは、できるね。
幼稚園から老人まで捕まえられると思う。
あのメンバー、もともとは箱バンじゃないですか。
沼澤 ええ。いわゆるバーをまわるバンド出身ですね。
糸井 だから、すごいんですよね。
あまり音楽の好きじゃない人だとか、
お酒を飲みに来た人だとか、
こっちを向かないお客さんを
相手にしている時期が長かった人たち・・・。
沼澤 たぶん、そうですよね。
糸井 だからこそ身につけた、
超強大なナンパのテクニックっていうか、
まずは誰でも捕まえられる・・・。
しかも、自分で落としたいという人も
捕まえられるというか、両方の能力を
のばせてきたような気がするんですね。

・・・あ、ぜんぜん違う例なんですけど、
玉置浩二さんの「安全地帯」って、
箱バン出身なんです。
沼澤 へぇ、そうなんだ。
糸井 だから、「安全地帯」のメンバー、
どんな演奏でも、へっちゃらでできるんです。

目の前のお客さんのイメージにあわせて、
「・・・こういうのを、お求めですよね?」
すっかり下手に出ながらも、
ガッチリその人をつかまえる、みたいなことを
やってきた人たちだから、やっぱり、
「色っぽい」と言われるところがあって。

知らない人に対して、
何かを口説こうとした人たちの強さっていうのは、
もちろん、The Bandのメンバーにもあって・・・。
沼澤 そうかもしれないですね。

The Bandって、メンバーが
すごい自分たちの内面に向かう人たちだから、
「どうだ、いいだろう?」
というタイプではなかったはずなのに、
それでも、誰のバックをやった時にでも、
「あ、The Bandのサウンドだ!」
ってすぐにわかるのが、すごい珍しいですよね。
糸井 前に出ているようには見えないのに、
キャラがそのまま、そこにある。
沼澤 それって、すごい稀な例じゃないですか。
看板がいるようで、いないみたいなバンド。
こんなバンド、あとにも出てこない・・・。

リードボーカルもいて、自分たちの曲もあって、
自分たちのアルバムを出していて、なおかつ、
エリック・クラプトン、ニール・ヤング、
ボブ・ディラン、ニール・ダイヤモンド、
マディ・ウォーターズ、
そういった、すでに音楽の世界で
ほんとうに有名な人たちが、
「俺と一緒にやってくれないか?」
って言った、こういうバンドはいないですよ。

たとえば、
「あのベースとドラムがいいから来て」
ってことは、よくあるけど、
自分たちの作品もアルバムもちゃんと出していて、
しかも誰かの後ろでもできるっていう
The Band みたいなありかたは、ありえない・・・。

リードボーカルが4人いるのに、
しかも誰かが入れるんですもん・・・。
裏方から音楽をはじめたから、なんでしょうね。

メンバーの全員が歌をうたえているというのは、
他の楽器のことを、すごくわかっているんだろうな、
って、ぼくは思うんです。
「自分のメインの楽器はこれだけど、
 ボーカルもやっていると、
 自分の楽器以外の楽器をやっている人が
 何をしてほしいかが、わかる
」という・・・。
糸井 自分の分野で言うと
コピーライターが絵を分かんなかったら、
コピーもだめですもんね・・・。
逆に、絵を描く人も、そうだし。
ちがう分野もできる人どうしが組まないと、
アイデアが、ふくらまないから。
沼澤 それは、そうかもしれない。
「この人には、話が通じる」
「この人には、わかってもらえてる」
それを知ると、
「じゃあ、この話は・・・」って。

そうじゃなかったら、ぼくがイトイさんに、
スティーヴ・ジョーダンの
ドラム教則ビデオ、渡さないですよ。
「ドラムもやらない人に」って話ですし。
糸井 ぼくみたいな、
「ドラムって、棒、2本だっけ」
みたいな人にねぇ(笑)。

沼澤 「これ、見た方がいいよ」って、
一緒にたのしめない人には言いませんもの。
伝えたい人がいるから、言うわけじゃないですか。
糸井 沼澤さんが前に言ったことで、
すごいなぁ、と思ったのは、
「ドラムでは、ほとんどのことが
 既に、やり尽くされているんです。
 だから、過去の資料を調べるのは当然だし、
 興味のある人のところに、習いにも行きます。
 自分のやったフレーズを、
 『おまえ、いま、それ、どうやったの?』
 と聞かれても、ぜんぶ説明できるんです」
という言葉なんです。

沼澤さんは、
「誰にもマネできない価値を持ってる」
とは言わないわけじゃないですか。
すごい度胸の要るセリフだと思うんです。
一見、「何も作っていません」と聞こえるから。

だけど、沼澤さんの言葉をよく聞いてみると、
つまり「自分独自の言語はない」って話なんです。

「ヘネレペ!」って言葉を急に言っても、
その「ヘネレペ」は、誰にも通じないんですよ。
やっぱり、「どうよ」でも何でもいいから、
誰かが一度は使った言葉じゃないと、
言葉って通じないですからね・・・。
沼澤 あぁ、自分の言葉を、
またイトイさんに翻訳してもらっちゃった!

たしかに、そうなんです。
こういうもの、ああいうもの、
っていうブロックが、いくつかある。
それの、組みあわせで・・・。
糸井 料理でも、味噌も魚も、
自分でその生きものを
作ったわけではないのと、同じですよね。
だから、沼澤さんが、
「自分は学んで、それを組みあわせる」
って言っているのは、そのとおりだと思う。
自分で何かを発明できるとか思ってるうちは、
どの分野でも、何か、あやしげなんですよ。
沼澤 (笑)
糸井 「いままでに、なかったもの」とか、
平気でみんな、言いがちじゃないですか。
「なかったもの」なんか、有り得ないんだけども。
沼澤 有り得ないですねえ。
糸井 ただ、表現に触れた時に、
「・・・うわぁ、なかったものじゃないか!」
って思う、その瞬間を作ることだけはできる。
沼澤 一瞬、そういうふうに思わせるってことですか?
糸井 言葉で言うならば、
伝え方やニュアンスが違うから、
違う感動があるという・・・。
沼澤 それ、ドラムも一緒ですね。
同じことを言っていても、
「何でこの人が言うと
 おもしろいわけ? ずるいじゃん」
ってことがあるけど、それってもう、
その人の持つ空気や、見てくれだったり・・・。
糸井 うん。それが「価値」ですよね。

声でも、骨格に響いて声が出る。
その骨格を変えただけでさえ、
同じ分量で同じ言葉を発しても、
響きかたが違うわけで・・・伝わりかたは違う。

それぞれの人が今まで生きてきたぶんだけの
ゆがんだカタチをしているんですよね。
それぞれの、その響きじゃないと、
だめなんでしょうねぇ・・・。
沼澤 ドラムで言うと、
「ジェームスブラウンの
 この曲のあそこは、こういうスネア」
「あそこを叩く音は、たぶんこういう材質の
 これくらいの皮を張ったやつだろうなぁ。
 それで、このぐらい響いていて、
 スネアのこの部分を叩いている音だな!」
ぼくやぼくの知ってるドラマーは、
そういうところを、異常なまでに分析するんです。
糸井 おもしろそうだなぁ。
沼澤 「待てよ、これは左手がこうなってる時に、
 右手がこう動いているハズだ」
「スティックのあそこで叩いてるよ」
・・・できるかぎりおなじにしてみよう、
と、聴いたあとに、やってみるわけです。
叩く強さ、楽器の大きさ、皮の薄さ・・・。
ひとつずつ、めちゃくちゃ研究してみる。

それが、ぼくにとっての、
「資料をあたる」ってことなんですけど、
自分でやってみると、きっとどこかが違う。
糸井 おぉー。
沼澤 いま、イトイさんがおっしゃった
その人ならではの響きっていうのは、
「研究と技術があってのことだけど、
 自分がやるおかげで、もとの人には
 なかった風になったらいいなぁ」

ということには、すごい夢を描いているんです。
糸井 うんうんうん。わかる。
沼澤 そこが
「パクった」と「影響を受けた」の違いで。
「マネじゃん」って言われる人と、
「この人はジョン・ボーナムの影響を受けてるね」
っていうのは、すごい紙一重じゃないですか。
正確にコピーができてこその「影響」ですから。
  (つづきます)

2003-05-06-TUE

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