糸井 |
さっき、沼澤さんが、
「自分のことを全然知らない人を
ライブで思わず捕まえちゃう」って話、
具体的に聞くと、もっとおもしろいかも。 |
沼澤 |
福岡ブルーノートが、
学割を試した時があるんですよ。
そうしたら、見事に
若い学生の男の子たちが多かった。
ふだんのような女性の客が少なくて。
・・・確実に、大学生の男の子たち。
やっぱり、ちょっと、
素直に構えてはこないじゃないですか。
学割で来てるし、
「この値段だったら、観てもいいかな」
ってノリで来ているのも、こちらはわかる。
椅子に座っていて、最初は、
そうとう、斜に構えてるんですよ。
はじめの2〜3曲、絶対に動かない。
「そんなにカンタンに受けいれないぞ」
たぶん、そういう姿勢があったんです。
でも、ライブが進むにつれて、
だんだん前のめりになってきて、
最後に、ウワーッて立ち上がった・・・。
最後、大騒ぎしましたよ・・・ぼくが
「STUDENTS、ばんざい! 明日もやってます!」
って言ったら、次の日も、みんな戻ってきた。
それが、糸井さんも観にきてくれた
"Nothing But The Funk"ってバンドですけど。 |
糸井 |
・・・あのメンバーだったら、
たいがいのことは、できるね。
幼稚園から老人まで捕まえられると思う。
あのメンバー、もともとは箱バンじゃないですか。 |
沼澤 |
ええ。いわゆるバーをまわるバンド出身ですね。 |
糸井 |
だから、すごいんですよね。
あまり音楽の好きじゃない人だとか、
お酒を飲みに来た人だとか、
こっちを向かないお客さんを
相手にしている時期が長かった人たち・・・。 |
沼澤 |
たぶん、そうですよね。 |
糸井 |
だからこそ身につけた、
超強大なナンパのテクニックっていうか、
まずは誰でも捕まえられる・・・。
しかも、自分で落としたいという人も
捕まえられるというか、両方の能力を
のばせてきたような気がするんですね。
・・・あ、ぜんぜん違う例なんですけど、
玉置浩二さんの「安全地帯」って、
箱バン出身なんです。 |
沼澤 |
へぇ、そうなんだ。 |
糸井 |
だから、「安全地帯」のメンバー、
どんな演奏でも、へっちゃらでできるんです。
目の前のお客さんのイメージにあわせて、
「・・・こういうのを、お求めですよね?」
すっかり下手に出ながらも、
ガッチリその人をつかまえる、みたいなことを
やってきた人たちだから、やっぱり、
「色っぽい」と言われるところがあって。
知らない人に対して、
何かを口説こうとした人たちの強さっていうのは、
もちろん、The Bandのメンバーにもあって・・・。 |
沼澤 |
そうかもしれないですね。
The Bandって、メンバーが
すごい自分たちの内面に向かう人たちだから、
「どうだ、いいだろう?」
というタイプではなかったはずなのに、
それでも、誰のバックをやった時にでも、
「あ、The Bandのサウンドだ!」
ってすぐにわかるのが、すごい珍しいですよね。 |
糸井 |
前に出ているようには見えないのに、
キャラがそのまま、そこにある。 |
沼澤 |
それって、すごい稀な例じゃないですか。
看板がいるようで、いないみたいなバンド。
こんなバンド、あとにも出てこない・・・。
リードボーカルもいて、自分たちの曲もあって、
自分たちのアルバムを出していて、なおかつ、
エリック・クラプトン、ニール・ヤング、
ボブ・ディラン、ニール・ダイヤモンド、
マディ・ウォーターズ、
そういった、すでに音楽の世界で
ほんとうに有名な人たちが、
「俺と一緒にやってくれないか?」
って言った、こういうバンドはいないですよ。
たとえば、
「あのベースとドラムがいいから来て」
ってことは、よくあるけど、
自分たちの作品もアルバムもちゃんと出していて、
しかも誰かの後ろでもできるっていう
The Band みたいなありかたは、ありえない・・・。
リードボーカルが4人いるのに、
しかも誰かが入れるんですもん・・・。
裏方から音楽をはじめたから、なんでしょうね。
メンバーの全員が歌をうたえているというのは、
他の楽器のことを、すごくわかっているんだろうな、
って、ぼくは思うんです。
「自分のメインの楽器はこれだけど、
ボーカルもやっていると、
自分の楽器以外の楽器をやっている人が
何をしてほしいかが、わかる」という・・・。 |
糸井 |
自分の分野で言うと
コピーライターが絵を分かんなかったら、
コピーもだめですもんね・・・。
逆に、絵を描く人も、そうだし。
ちがう分野もできる人どうしが組まないと、
アイデアが、ふくらまないから。 |
沼澤 |
それは、そうかもしれない。
「この人には、話が通じる」
「この人には、わかってもらえてる」
それを知ると、
「じゃあ、この話は・・・」って。
そうじゃなかったら、ぼくがイトイさんに、
スティーヴ・ジョーダンの
ドラム教則ビデオ、渡さないですよ。
「ドラムもやらない人に」って話ですし。 |
糸井 |
ぼくみたいな、
「ドラムって、棒、2本だっけ」
みたいな人にねぇ(笑)。
|
沼澤 |
「これ、見た方がいいよ」って、
一緒にたのしめない人には言いませんもの。
伝えたい人がいるから、言うわけじゃないですか。 |
糸井 |
沼澤さんが前に言ったことで、
すごいなぁ、と思ったのは、
「ドラムでは、ほとんどのことが
既に、やり尽くされているんです。
だから、過去の資料を調べるのは当然だし、
興味のある人のところに、習いにも行きます。
自分のやったフレーズを、
『おまえ、いま、それ、どうやったの?』
と聞かれても、ぜんぶ説明できるんです」
という言葉なんです。
沼澤さんは、
「誰にもマネできない価値を持ってる」
とは言わないわけじゃないですか。
すごい度胸の要るセリフだと思うんです。
一見、「何も作っていません」と聞こえるから。
だけど、沼澤さんの言葉をよく聞いてみると、
つまり「自分独自の言語はない」って話なんです。
「ヘネレペ!」って言葉を急に言っても、
その「ヘネレペ」は、誰にも通じないんですよ。
やっぱり、「どうよ」でも何でもいいから、
誰かが一度は使った言葉じゃないと、
言葉って通じないですからね・・・。 |
沼澤 |
あぁ、自分の言葉を、
またイトイさんに翻訳してもらっちゃった!
たしかに、そうなんです。
こういうもの、ああいうもの、
っていうブロックが、いくつかある。
それの、組みあわせで・・・。 |
糸井 |
料理でも、味噌も魚も、
自分でその生きものを
作ったわけではないのと、同じですよね。
だから、沼澤さんが、
「自分は学んで、それを組みあわせる」
って言っているのは、そのとおりだと思う。
自分で何かを発明できるとか思ってるうちは、
どの分野でも、何か、あやしげなんですよ。 |
沼澤 |
(笑) |
糸井 |
「いままでに、なかったもの」とか、
平気でみんな、言いがちじゃないですか。
「なかったもの」なんか、有り得ないんだけども。 |
沼澤 |
有り得ないですねえ。 |
糸井 |
ただ、表現に触れた時に、
「・・・うわぁ、なかったものじゃないか!」
って思う、その瞬間を作ることだけはできる。 |
沼澤 |
一瞬、そういうふうに思わせるってことですか? |
糸井 |
言葉で言うならば、
伝え方やニュアンスが違うから、
違う感動があるという・・・。 |
沼澤 |
それ、ドラムも一緒ですね。
同じことを言っていても、
「何でこの人が言うと
おもしろいわけ? ずるいじゃん」
ってことがあるけど、それってもう、
その人の持つ空気や、見てくれだったり・・・。 |
糸井 |
うん。それが「価値」ですよね。
声でも、骨格に響いて声が出る。
その骨格を変えただけでさえ、
同じ分量で同じ言葉を発しても、
響きかたが違うわけで・・・伝わりかたは違う。
それぞれの人が今まで生きてきたぶんだけの
ゆがんだカタチをしているんですよね。
それぞれの、その響きじゃないと、
だめなんでしょうねぇ・・・。 |
沼澤 |
ドラムで言うと、
「ジェームスブラウンの
この曲のあそこは、こういうスネア」
「あそこを叩く音は、たぶんこういう材質の
これくらいの皮を張ったやつだろうなぁ。
それで、このぐらい響いていて、
スネアのこの部分を叩いている音だな!」
ぼくやぼくの知ってるドラマーは、
そういうところを、異常なまでに分析するんです。 |
糸井 |
おもしろそうだなぁ。 |
沼澤 |
「待てよ、これは左手がこうなってる時に、
右手がこう動いているハズだ」
「スティックのあそこで叩いてるよ」
・・・できるかぎりおなじにしてみよう、
と、聴いたあとに、やってみるわけです。
叩く強さ、楽器の大きさ、皮の薄さ・・・。
ひとつずつ、めちゃくちゃ研究してみる。
それが、ぼくにとっての、
「資料をあたる」ってことなんですけど、
自分でやってみると、きっとどこかが違う。 |
糸井 |
おぉー。 |
沼澤 |
いま、イトイさんがおっしゃった
その人ならではの響きっていうのは、
「研究と技術があってのことだけど、
自分がやるおかげで、もとの人には
なかった風になったらいいなぁ」
ということには、すごい夢を描いているんです。 |
糸井 |
うんうんうん。わかる。 |
沼澤 |
そこが
「パクった」と「影響を受けた」の違いで。
「マネじゃん」って言われる人と、
「この人はジョン・ボーナムの影響を受けてるね」
っていうのは、すごい紙一重じゃないですか。
正確にコピーができてこその「影響」ですから。 |
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(つづきます) |