糸井 |
こないだ、沼澤さんの
好きな音楽を教えてもらった時に、
「俺が好きな文章の系列と、同じだ!」
と思ったんです。 |
沼澤 |
前にぼくが、
「ジェームス・テイラーがどうのこうの」
という話をした時、糸井さん、すぐ、
「ダニー・クーチマが好きなんですよ」
って言ったじゃないですか。
(※ジェームス・テイラーと
ダニー・クーチマは幼なじみ。
シンガーソングライターの先駆け(テイラー)
最高級のスタジオ・ミュージシャン(クーチマ)は、
ともに有名になる前にバンドを組んでいました) |
糸井 |
ギターも、そうなんです。
好きな系列は、似てくる・・・。 |
沼澤 |
ぼくにとって、妙な言い方をすると、
「その見方、正解!」みたいに思うんです。
それで、ぼくはうれしくなっちゃって。 |
糸井 |
忘れてたけど、間に、
ダイアー・ストレイツなんかもいますよね。
(※ダイアー・ストレイツは70年代後半にデビューし、
ボブ・ディランに認められて以降ブレイクしたバンド) |
沼澤 |
いま、それを聞いて、
自分のドラムの先生の息子でもある、
ジェフ・ポーカロを思い出すんです。
彼はダイアー・ストレイツのアルバムを
やってたりするんですよ。
ぼくはジェフ・ポーカロに捧げて
ソロアルバムを作ったんですけど、
そうやって、好きな音楽ってつながりますよね。
さきほど糸井さんが、
「田中小実昌が好きという人とは、
ともだちになれる感じがある」
とおっしゃったのと、
音楽の話で盛りあがるのも、一緒ですね。 |
糸井 |
つながっちゃうんですよね。
「そう言えば、その系列のやつって、
俺、前から気になってたのがあった」とか。
そういう流れでThe Bandを聴くと、
『ラスト・ワルツ』がものすごくて・・・。 |
沼澤 |
しかも、背景で裏切りがあったわけで。
この人たちが、なんで解散コンサートを、
こういう風にやっているのかをあとで知ると、
余計にびっくりするんですよね・・・。
The Bandのドラマーのレヴォン・ヘルムは、
このライブのことを最低だって言うわけです。
「こんなもん、ただの商売道具で、
俺らはやらなきゃいけないからやっただけだ」
「ぜんぜん、何とも思っていないね」
みたいなことを、
音楽雑誌で、ごく普通に語っていたりする。 |
糸井 |
そうとう意識的にしゃべってますね、それは。 |
沼澤 |
ほんと。
みんなが
「ラストワルツ、ラストワルツ」って騒いで、
ビデオだけじゃなくてDVDの方も出て、
ロビー・ロバートソン(The Bandのギター)が
日本に来て、タワレコでトークショーやる・・・。
そういうのを、他のメンバーたちは、
「俺らは別にそんな気でやっていないね」
みたいな。 |
糸井 |
正直言って、ロビー・ロバートソンの
その後のレコードって、
ぼくには、おもしろくないんですよね。
軸が抜けちゃってるみたいな・・・。 |
沼澤 |
ええ。
おもしろくないです。
The Bandの人たちと
一緒じゃないと、ダメでした。 |
糸井 |
リーダーなんでしょ? ロビーって。 |
沼澤 |
このDVDで、リーダーだっていう
風情を出し過ぎているのは、他の4人と
めちゃくちゃ対立している証拠なんです。 |
糸井 |
The Bandの音楽的リーダーは、
あのキーボードのヒゲですよね? |
沼澤 |
ガース・ハドソン。
彼は最初、"The Band"のコーチに来てくれ、
と言われた人なんです。
あの人はものすごい博識な音楽家で、
ハーモニーだなんだと知識のある人で、
もともとは、プロデュースをしにきたんです。
ツアーとかもサポートみたいに入っていたのが、
そのまま、メンバーになっていった・・・。
だから、ガースだけ、歌をうたわないんです。
いまのガースは、すごいですけどね、もう。
最近も、ソロアルバムとか出してるけど、
わけがわかんない・・・
現代音楽みたいになっています。 |
糸井 |
そっちに行ったんだ? |
沼澤 |
現代音楽ロック、みたいな。 |
糸井 |
ふーん。
The Bandの、
「前に見えないのにキャラがそのままある」
という特色で言うと、
『プラネットウェイブ』というディランのアルバム。
(※全編ラブソングのこのアルバムをもとに、
ボブ・ディランとThe Bandは全米ツアーを行う)
あの中でのThe Bandに、
ぼくは、最初にぶっ飛んだんですよ。
|
沼澤 |
そこでですか?
ディランとThe Bandの宅録の
『ベースメント・テープス』よりも? |
糸井 |
うん。 |
沼澤 |
たしかに、音も、
『プラネットウェイブ』はいいから、
「やっぱり」って感じもするけど。
ディランと、はじめて組んだのは、
『ベースメント・テープス』で、
その直前に大ケガをしたディランが、
ケガを治しながらやっていたんですよね。
そのあとに、The Bandの
『ミュージック・フロム・ビック・ピンク』
が出て、
「おい、このバンドはなんだ?」
となって、それでクラプトンが、
「俺を、このバンドに入れてくれ」
と言いだして・・・。 |
糸井 |
そうらしいですねぇ。 |
沼澤 |
The Bandのギタリストの
ロビー・ロバートソンに、クラプトンが
「俺を入れて」って言うのがすごいですよね。
ロビー・ロバートソンからしたら、
「俺をクビにして入れろってこと?
それとも一緒にやるということ?」っていう。 |
糸井 |
入っちゃってたら、
おかしかっただろうなぁ。
|
沼澤 |
クラプトンが作ったバンドって、
はじめのころは、
すごいThe Bandっぽかったですからね。
しかも、クラプトンのアルバムの中で、
The Bandがやっているのも1枚ありますし。 |
糸井 |
それ、知らなかったなぁ。 |
沼澤 |
めちゃシブい。
すばらしいアルバムですよ。
『No Reason to Cry』っていう。
|
糸井 |
あとさあ、The Bandで
ロックンロールばっかり集めた
1枚があって・・・いいんだよー。
『Ain't Got No Home』って曲が
最初に入ってるんだけど。
ロックンロールみたいなのばっかり
カバーしてるアルバムなんです・・・。
(※のちに調べて、このアルバムは、
The Band『ムーンドッグ・マチネー』
であるということが判明しました)
あ、そうだ、沼澤さんが
「The Bandって、
ロックと言えばアメリカかイギリスという時期に、
ほとんど全員がカナダ人で、
ひとりだけ、レヴォン・ヘルムっていう
アメリカ人がいるという編成だったのがスゴイ」
と言った、あの視点も、おもしろかったです。
つまり、女形っていう存在がありますよね?
ちょっと、それに近いものがあると思いました。 |
沼澤 |
なるほど。 |
糸井 |
男なのに、女以上の色気を出すからには、
「女っぽい魅力って、何だろう?」
と、ひとつずつ学んで再現できる人じゃないと、
芝居をできないわけで・・・
だから、女形は、女以上に女になるんですよ。
そこをこの The Bandにあてはめると、
ほとんどがカナダ人だから、
アメリカ以上にアメリカの音楽になる。 |
沼澤 |
あの人たちは、
アメリカ音楽をやりたくて
しょうがなかったみたいですね。 |
糸井 |
そこが、強さですよ。 |
沼澤 |
バンドメンバーとの出会いも、
レヴォン・ヘルムがアメリカで入ったバンドが、
カナダにツアーに行ったことがきっかけで、
「こんなミュージシャンが、カナダにいるんだ!」
と、どんどん、カナダ人たちが雇われていく形で。
ひとりずつ、順番に入っていくんですよ。
ロビー・ロバートソンが入ってきて、
リチャード・マニュエルが入って、
で、あのメンバーが揃っていった・・・。
バックグラウンドって、
おもしろいものだなぁと思います。
『NOTHING BUT FUNK』
(※沼澤さんが参加しているバンド)の
ギターをしてるジュブ・スミスって、
あのメンバーの中で、
ひとりだけすっごい若いんですけど、
誰よりもおやじくさい。
ジョークや話しっぷりがおじいちゃんみたいで、
若さを出すことと、
熟練していっぱい音楽を知った
ベテランギタリストみたいなことと、
両方ができる、すごいめずらしいタイプで・・・。
「俺もこれだけたくさん音楽を聴いてきて、
音楽を知ったつもりでいたけれど、
おまえの弾く、そういうギターのフレーズって、
聴いたことがないんだよね?」
みたいに訊ねたら、
そういう曲のルーツは、ぜんぶ、ゴスペル。
元になってる歴史的な宗教音楽を
弾いてもらったら、
ものすごく美しいのですが、彼は、
「これは、おばあちゃんが、うたってくれた歌」
と言ったんです。
彼のバックグラウンドは教会にあって、
小さいころから、毎週日曜日に、
ゴスペルの母体になっている音楽を
ギターで演奏し続けていた男なんです。
だから、そういうフレーズを弾ける。 |
糸井 |
スゴイ。
確かに、他の分野でも、
聖書のコンセプトで、
ずいぶん物語を作ることができるし、
絵画も、神様をあらわすための技術から
はじまっているわけで、
「天」とつながるものは、
芸術の原石みたいになっているんですね。 |
沼澤 |
ええ。
それで、彼の弾いてくれた美しい曲を
聞きたいから、紹介してもらって、
メモして、CDショップを捜しまくったけど、
ぜんぜん、見つからないんです。
タワーレコードに行っても
ゴスペルなんてバーッとあるのに、
彼が言ったのは一切なくて。
それで、「全然ないよ」って
ギタリストにもう一度訊いたら、
「これは俺らが住んでるところの、
地元の何とか町の地元の、
タワーとか新星堂とか山野楽器とか
そういう大きいショップじゃなくて、
『その町でアルバムを買うっていったらそこ』
みたいな、傘屋さんと合体してるみたいな、
そういうところに行けば、
ぜんぶCDになって売っている」って・・・。
要するに、そこに行けば、
他のところにはないCDが売ってるんです。 |
糸井 |
へぇー!
それを「ほぼ日」で紹介したいぐらい。 |
沼澤 |
いいですねぇ!
そういう曲、ぼくら、いくらでもライブやるし。 |
糸井 |
沼澤さんのやってるバンドだと、
そうとう、スタジオ料とか安いでしょう?
早く終わりそうだから。 |
沼澤 |
ええ、ぼくたちは、
演奏能力と録るエンジニアの技術が
キーだと思ってるので、
1日50万円のスタジオに行かなくてもいいんです。
『J&B』で録った時も、3日間でやりましたから。
しかも、ぼくのとこの事務所のスタジオを借りて。 |
糸井 |
じゃあ、もしかしたら、
「ほぼ日」でCDも出せちゃうかもしれないんだ?
低予算ですごい技術で作って、
ほんとうに聞きたい数千人や数万人に届ける。
それって、インターネットがあれば、
できないことも、ないですから・・・! |
|
(※この後も、ふたりの話は、盛りあがりつつ、
夜更けまでどんどん続いていったのですが、
今シリーズは、これでいったん、おわりです。
現れるたびに、何かを一緒にしたくなるドラマー
沼澤尚さんの、またの「ほぼ日」の登場を、
どうぞ、たのしみにしていてくださいませ。
ご愛読、どうもありがとうございました!) |