沼澤 |
The Bandの人たちに関しては、
「知ってはいたけど、
こんなにすごかったっけなぁ」
って、最近、特に感じるんです。
前にThe Bandはスゴイって
コラムに書いた時、
「DVDが出たらなあ」
って言っていたぐらいでした。
まさか、ほんとに出るとは思わなかった。
ぼくがすごく信頼している
ローディーのひとりは、
(※ローディー:
楽器のセッティングや、音質の調整をはじめ、
ミュージシャンから、様々な相談を受ける人)
The Bandのフリークで・・・。 |
糸井 |
The Bandって、一見、地味じゃないですか。
でも、音楽フリークやバンドフリークに、
好ましいと思わせる何かがあるわけで。 |
沼澤 |
絶対、そうですよ。
頭脳明晰な大人が真剣にロックをやると
こういうことだと。おそろしい・・・。 |
糸井 |
『ラスト・ワルツ』って、
ロックってガキのもんだと思ったら
おおまちがい、っていう作品ですよ。
とにかく奇跡のような映画で、
奇跡のようなコンサートなんですよね。
オトナの実力って、こわいなあ。 |
沼澤 |
The Bandの人たちが
こんなにうまいんだっていうのを、
ぼくは、あとになって知ったんです。
前は、全然そんなふうに思ってなかったの。 |
糸井 |
わかります。
何て言うか、きれいにできた建築を見ても、
すごいけど、素直に好きとは言えないというか。
最初は、ぼくもそうだったと思う。
でも、The Bandとぜひ演りたいっていう、
ニール・ヤングみたいな
ハチャメチャな人がやってくるわけで。 |
沼澤 |
ええ。
このライブも、曲を演奏しない間に、
ひとりひとりすごいアーティストが出てきて、
The Band と、ちょっとした
やりとりをするところが、イイですよね。 |
糸井 |
すごい・・・。
舞台の前には、
ふつう、楽屋で会ってると思うんですよ。
だけど、舞台で会う時と楽屋で会う時は、
きっと顔が違うんですよね。
特にニール・ヤングのゴリラぶりを
好きだったぼくには、たまらない映像。
ニール・ヤング、とにかく、
客に背中向けっぱなしだったもんね。 |
沼澤 |
ニール・ヤングは、
いちばん、おもしろかったです。
ステージに出てきて・・・。 |
糸井 |
怪しく入って来て(笑)。 |
沼澤 |
The Bandの人たちとしゃべって、
「俺はほんとに、ここにいられて最高!」
みたいな・・・。
翻訳には出ていないんですけど、その後、
「それはこっちのセリフだよ。何言ってんだよ」
みたいなことを、ロビー・ロバートソンが
ニール・ヤングに、言うんです。 |
糸井 |
ほー。 |
沼澤 |
その一連のシーン、いいですよね。 |
糸井 |
ニール・ヤングと一緒にやっても、
The Bandは崩れずに・・・
逆に、ニール・ヤングのほうは、
The Bandの良さを思いっきり吸い込んで、
もっとキチガイになってますよねえ。 |
沼澤 |
そのすごさがあるんだと思う。
クラプトンがThe Bandと組んでもそれだし。
だから、ぼくも焦って、
いろんな人たちがThe Bandに頼んで作った
アルバムを、ぜんぶ、買いはじめたんです。
「こんなすごいのを、知らなかった!」
・・・もっと知りたいと思うじゃないですか。 |
糸井 |
体系化したくなったんだ。 |
沼澤 |
はい。それでいろいろ聴いたら、
「うわぁ、こんなことやってたんだ?」って。
なんで、グレイトフル・デッドが
The Bandと一緒にライブアルバムを出すの?
マディ・ウォーターズが
The Bandと組んだアルバムも、
他のアルバムに比べて、ぜんぜん泥臭くない?
・・・すげえ、って驚いたんです。
『ラスト・ワルツ』も、
背景を知るとさらにだけど、こんな気持ちで
音楽やったり映画撮ってる人、今はいないです。
いるのかもしれないけど、ぼくは、知らない。 |
糸井 |
『ラスト・ワルツ』に出てくるゲスト、誰一人、
祭りごとだからって、手を抜いてる人がいない。 |
沼澤 |
きっと、
「頼まれた仕事をやってるんだ」
っていう人が、一人もいなかったんでしょう。 |
糸井 |
ゲストのミュージシャンの全員が、
「いちばんのステージをやろう」
と思ったんじゃないですか? |
沼澤 |
「好きなバンドが解散するんだって?
じゃあ俺も行こうかな・・・」
っていう、ただ、それだけで集まった。 |
糸井 |
大葬式。 |
沼澤 |
そうですよねぇ。 |
糸井 |
やっぱり、終わりの時に
ぜんぶがわかるんだね、なんでも・・・。
|
沼澤 |
このあと、メンバー、
それぞれ、みんな何かをやるんですよね。
でも、だめで・・・。 |
糸井 |
それをぼくらはいまは知っていて、
そう思いながら見ると、切ないんですよ。
メンバーがしゃべっていることは、
もう、グルグルまわっているけど、
ひとり醒めていたのがロビー・ロバートソンで。 |
沼澤 |
それは、なぜそうかと言うと、
実はこの解散ライブの直前に、
ロビー・ロバートソンと彼のマネージャーの
ふたりが、The Bandの権利を、
法律的に彼らだけのものにすることに
成功しちゃったんです。 |
糸井 |
ほぉー。 |
沼澤 |
「超裏切りの図」のあとなんですね。
みんなでやったことなのに、
ロビー・ロバートソンが、The Bandの
印税から何からをぜんぶ自分のものだけにする、
それを弁護士とやって、成功しちゃった。
それで、他の連中が、
「そんなもんやってられるか!」
ってなったけど、
「じゃあ最後にこういうことをやろう」
と解散コンサートになっちゃったんです。
そしたらみんなが俺も出してくれって言って、
一緒にやりたい人が全員ここに出てきたんです。
「終わっちゃうんだったら」って。 |
糸井 |
現実というものの
すごい深みと広さを感じる・・・。 |
沼澤 |
・・・本人たちの意志とは別に、
すばらしいライブだったというところが、
また・・・演奏はすごいし、音もすごいけど。
撮影にしても、ものすごい考えてるもん、これ。
「運がよくてぜんぶ7時間で撮れてよかった」
と監督が言ってましたね。 |
糸井 |
マーティン・スコセッシ。
おそろしい仕事って、何かしら、
そういう、「運のよさ」がありますよね。
ライブを映画で撮るって、
撮り直しはないんだもんなぁ。
現場で演出できない分を
ぜんぶ言葉でカメラたちに指示したと、
特典のメイキングで、
スコセッシが語ってますね。 |
沼澤 |
台本をタイプで打ってる時なんて、
もう、笑いが止まんないと思うんですよ。 |
糸井 |
でしょうねぇ・・・。 |
沼澤 |
実際は、すごい、大変なんでしょうけど。 |
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(つづきます) |