第4回
麻薬栽培地で、
神話の巻物を探す。
糸井
十文字さん、まずは
犬に興味を持ったことがきっかけで、
犬祖神話にはまったんですよね。

それで、神話の巻物を見つける宝探しの旅に、
いきなり出かけちゃった
しかも、黄金の三角地帯と呼ばれる麻薬栽培地に。
もう、笑うしかないぐらいの話なんだけど……。
十文字
宝探しは、燃えました。
糸井
わかる(笑)。
十文字
だからもう、心理的には
「絶対に見つけるまで行くぞ」と。
合計、7回ぐらいいったかなぁ、あの山の中に。
糸井
えらいところでしょう?
十文字
えらいところですよ……。
糸井
まずは、どこに行くの?
十文字
まずは、
バンコクからチェンマイに行って、
チェンマイから、チェンライっていう、
昔のビルマとの国境があるわけですよ。

そこに行ってみたんだけど、
その先どう行っていいかわかんないからさぁ……。
糸井
そこまでだって、
そうとう時間がかかってるよね?
十文字
まぁそこは、飛行機乗り継いで、
そのあとクルマを雇って、
はじめの頃はわからないから
2日ぐらいで着いたんだけど。
糸井
そこまでは、そのへんの人のクルマでいいんだ?
十文字
そこまではね。
そこから先、山に入らなきゃならない。
その山に入る時には、
当然、ガイドを雇わなきゃならない。
糸井
「そもそも、ガイドは誰だよ?」ってことだよね。
十文字
ガイドも誰ができるかわからないから、
チェンライっていうところのバーに、夜に行って。
糸井
あぁ、そうかぁ。
十文字
だいたい、悪いヤツっていうのは、
夜、クラブにいるわけで、わかるじゃないですか。
糸井
うん。
十文字
だからそういうところに行って、バーテンに、
「自分はこうこうこういう理由で、山に入りたい」
っていうことを、話したわけです。片言の英語でね。
「こういうヤツがいるから、紹介するよ」
そこで食堂のオヤジを紹介されて、そのオヤジは、
まぁ要するに、ヘロインの売人だったわけです。
だってその山は、それ以外やってない土地だから。
糸井
シルクロードじゃなくて、麻薬の道ね。
いわゆる、麻薬栽培の黄金の三角地帯。
十文字
そう。
ヤオ族という部族は、
アヘンにする「けし」を
畑で作っている製造者たちだから。
植物の製造者とヘロインバイヤーたちの間には
「 K・M・T」と呼ばれる中間業者がいて、
その彼らが、
アヘンをヘロインに変えるための工場を、
山の中に持っているわけ。

すごい武装した集団が、
山のなかにいるんだけど。
そこからヘロインを
街におろしてる売人を紹介された。
糸井
(笑)そこまでのルートしか開発されてないよね。
十文字
されてない。
糸井
そこまで行くのだって、大変なんだろうなぁ。
十文字
ふつうの人は、麻薬以外の用事で行かないんだから。
糸井
(笑)
十文字
最初はまず何をしたかっていうと、
その売人と一緒に山に入って、まず1泊野宿して、
いちばん近い部族のボスに、あいさつしたわけよ。
そしたら、「なんだ、おまえは」と。
向こうからしたら、わけわかんないんだから。
糸井
……そうだよねぇ。
十文字
俺も半分わけわかんないんだけど。
糸井
(笑)
十文字
とにかく、奥深い山の中に町があって、
寺もあれば病院もある。小さなホテルもある。

まるで西部劇に登場する、
メキシコゲリラみたいっていうのかなぁ、
映画と同じように銃帯をバッテンに
たすきがけして、2丁拳銃さして
ゴム草履履いてるようなヤツらが
もうほんとに、ウロウロしてるんですよ。


そこに俺がやってきて、
「いや実は、ヤオ族の始祖神話の写真を撮りたい」
って言ったって、誰も信じないわけよ。
糸井
(笑)信じない!
十文字
「どうせヘロイン買いにきたんだろ?」
「違う!」って言ってるのに、誰も信じない。
最初は、それですよ。
糸井
じゃ、行ってそれだけで
終わるっていうことも、あったわけだ?
十文字
最初のほうは、それだけで終わってた。
1回目なんか、どうしていいかわからないから、
ただそのへんで酒飲んで帰ってきただけで。
糸井
(笑)「街の雰囲気は、こうだな?」みたいな。
十文字
「だいじょうぶなようだ」とか。
糸井
いや……きっと
「だいじょうぶ」じゃなかったような。

そのヤオ族って、麻薬ルートから、更に奥だよね?
十文字
もっと、すごい奥です。
ヤオ族の信仰っていうのは、
中国の昔の道教を中心に、
民間信仰が混交しているんですけど、
呪術師がいちばんチカラを持っているんです。

たまたま偶然、呪術師の息子が、
こいつがけっこう進歩的で、
バイクか何かを乗りまわして
山から下りて来ていたの。

その時に偶然出会って、
「いやぁ、おれ、ヤオ族だよ」
「え? ほんと! あんたの村へ連れてってくれ」
そんな話になったのが、
そもそものきっかけだったんだよ。
その偶然がなければ、
ヤオ族の村なんて入れなかったわけで。
糸井
それってもう何回目かに行った時だよね?
十文字
4回目。
糸井
そりゃ、
十文字さんが日本で育てた犬は
そこには、いないだろうなぁ……。

俺の思う「十文字さんのイメージ」は、
車があって犬がいて、
ひとりで入りこんでいくというものだったんです。

それでも、充分、かっこいいと思っていたけど、
もう、いまや、
「なまやさしいイメージだった」と言いたい。

単にトラが来るから怖いみたいなレベルとは、
まったく違った怖さだろうなぁ。
十文字
そのあたりの山って、6つの部族が徘徊してて、
ぜんぶ言葉も違うし、みんな武装しているから、
あぶないわけです。

途中の何回目からは、もう、
ヤオ族の呪術師に民族衣装をもらって、
それに着替えるようになった。

片言のヤオ語も話すようになって……。
そうじゃないと、
ジャングルで遭遇した時にあぶない。
「おまえ、なんだ? 誰だ!」
ってことになるから。
武器持っていないわけだし。
糸井
十文字美信っていう人は、思えば、ずっと、
「おまえは誰だ?」
と言われつづけた人なんですね。
十文字
(笑)
糸井
「おまえは誰だ」っていう人生(笑)。
十文字
そういうものの集積でしか、
ぼくは、本を作れないのかもね。

だから、いつか一度、いままでやってきたことを
まとめてみたら、おもしろいかもしれないけど。
糸井
大変な、おもしろい話だねぇ……。
でも、それは、本人しかできないね(笑)。
十文字
(笑)できない。
糸井
あるいは、書生として入るしかないね。
仕事として秘書がいてもムリだろうなぁ。
「俺は、十文字美信になりたい!」
っていうぐらいの人じゃないと、ムリだわ。

いま、話を聞いていたって、
もっと知りたい、もっと知りたいの連続だから。
キリがないもん!
2014-12-30-TUE
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