第12回
アイデアに裏づけられた愛情
アイデアに裏づけられた愛情
糸井 |
藤田さんは、ご自分のことを 「貧乏性」とか「気づかい屋」とか 言ってらっしゃるけど、そういうことって 学ぼうと思っても、なかなか難しいことですよね。 どこかで、やっぱり、「自分」が出ちゃうし。 |
藤田 |
ふつう、出したいですよね。 |
糸井 |
いくら自分を殺すのがだいじだとわかっていても、 「出したくなっちゃうもの」ですよね。 |
藤田 |
カネやんみたいに‥‥。 |
糸井 |
それは、気持ちよかろうなと思いますよね。 |
藤田 |
自分の周りを地球が動いているようになったら、 さぞかし気持ちいいでしょうね。うらやましい。 ああいうふうにやってみたいなと思う。 |
糸井 |
でも、ずっと 「やってみたいと思う」という状態のまま、 ここまで、来ちゃったんですね。 |
藤田 |
でも、やっぱりワルだった時というか、 ムチャクチャやっているときは、 「自分を殺す」なんていう気持ちは サラサラなかったんですよね。 その時は、わけわからずにやってますから。 その時に、もうぜんぶやっちゃった、 みたいな感じもありますし‥‥。 結局思うのは、人間というのは、 「好ききらい」と「尊敬」とは、別物として やらなきゃいけないと考えているんですよ。 人間だから、好きな人もいればきらいな人もいる。 ですけど、その感情の中に、「尊敬」も 一緒に入れてしまってはいけないわけです。 人間的に好きとかきらいとかいうものは、 尊敬するしないとは、また別の問題だと思います。 |
糸井 |
ほんとうは、藤田さんは 好ききらいの激しい人なんですか? |
藤田 |
激しいです。 |
糸井 |
でも、好ききらいに関わらず、 目上、目下に関わらず、尊敬しているんですか。 |
藤田 |
ぼくはどんな若い人でも、 すぐれたところはちゃんと認めるようにしてます。 |
糸井 |
なるほどなぁ。 それはぼくも学びましたね。 |
藤田 |
自分にないものを持っている人は、 みんな自分より上ですからね。 |
糸井 |
藤田さんからぼくが伺いたいのは、 「どうしてそんなに 愛情をこめていられるんですか」 ということなんですよ。 どうしたら、そんなに細部まで 思いやれるのかということを、 今まで、ちゃんと話す機会はなかったですから、 あらためて、伺いたいんですけれども。 |
藤田 |
愛情というのは、むずかしいです。 |
糸井 |
「愛情はむずかしい」。 ひょっとしたら、「愛情」という 言葉で呼ぶものではないかもしれないですか? |
藤田 |
「愛情」だけじゃいけないですね。 もちろん、愛情も ある面で必要ですけども、やっぱり、 具体的な思いやりが、ないといけないですね。 「どうすれば、この人がいちばん イイ方向や幸せな方向へ行けるかな?」 ということを、 まず最初に考えていかなきゃいけない。 「じゃあ、この方向でどうだろう?」 「こっちの方法ではどうだろう?」 ということを、その都度つけ加えていくという。 |
糸井 |
つまり、思いやりを実現しようと思うと、 「この方法」だとか、「あの方法」だとか、 実現のためのアイデアが、要るわけですね。 |
藤田 |
ええ。 アイデアがものすごく大事だと思います。 だから、コーチ連中も、 アイデアのないコーチはいいコーチになれません。 「あれでダメなら、この手でいこう!」 「コレをやってみよう!」 というような発想が、どんどんできる人でないと、 人を育てることは、できません。 |
糸井 |
そういうアイデアというのは、 別の言い方をすると、 「いたずら心」でもありますよね。 |
藤田 |
そうなんですよ。 |
糸井 |
監督のとった作戦の中でも、 「いたずらっ気」でやっているようなことって きっと、あったと思うんですけど‥‥。 「もう、こうしてやれ!」みたいなものとか、 「これやったら、相手、いやがるだろうなぁ」とか。 |
藤田 |
野球なんていうのは、 相手のいやがることをやれば、 勝てるというか、勝ちに近づくんですから、 そればかり考えていますけどね。 相手がよろこぶことを やっていたんじゃ、負けますから。 |
糸井 |
それが楽しい? |
藤田 |
ええ。意地悪なことを、 「何かないかなぁ」と探すという。 |
糸井 |
意地悪じいさんみたいなあり方。 そういう姿勢も、アイデアなんだよなぁ。 |
藤田 |
大事ですよ、アイデアというのは。 |
糸井 |
そうなんですね。 愛情だけは強くて、 「おまえのことを思ってるよ」 といくら言っていても、選手と一緒になって 悩みあっていたら、答えは出ないですものね。 |
藤田 |
そうなんです。 だから、1人の選手を教えていくのに、 10通りくらいの方法を持ってなきゃいけない。 |
糸井 |
10通りですか。 |
藤田 |
もっとありますよ。 |
糸井 |
もっと、ですか? |
藤田 |
極端なときは、まったく間違ったウソを教える。 |
糸井 |
え? |
藤田 |
それで、 「やっぱりウソだろう? だからこの方法はだめなんだよ」 という言い方を、できなきゃダメですね。 ウソを教えたままにしていては、 選手にバカにされて聞いてもらえない。 ウソを教えて、それをできなかったら、 「これはウソだからできないんだよ」 ということまで言ってやらせます。 |
糸井 |
ウソを教えちゃっても 潰れちゃわないというか、 次にもう一回、救う道を作るんだ。 |
藤田 |
救う道はちゃんと置いておいて、 正しい方法は持っておきながら、 ウソを教えたことが、ありましたね。 |
糸井 |
アイデアで練習をやる例を、何か思い出しますか? ピッチャーですか。 |
藤田 |
ぼくはピッチャーが専門ですから、 ピッチャーには、ずいぶんありましたよね。 「上から投げてダメなら 下から放ってみな」ということです。 |
糸井 |
それもやりましたよね。斎藤雅が典型ですよね。 |
藤田 |
ええ。斎藤には、最初は、 地面に手を出すくらい下から投げさせた。 でも、そんなことできっこないんですよ。 もともと上からの選手に、それをさせるには、 何百球と自分が手を出して、これより下を通せ、 これより下を通せと、ついてやりました。 で、だんだんだんだん下げていったと。 |
糸井 |
それも、アイデアですね、確かに。 |
藤田 |
そうなんです。 それで、上から投げさせるやつには、 棒を持って、バレーボールみたいに、 「この棒の上から投げろ」と言いました。 横に金網をおいておくと、 その上からしか投げられないだとか。 そうすると、頭で覚えているよりも、 体がこうしなきゃどうしようもないから、 「あ、これか」というのが出てくるんですね。 何事もそうだと思うんですけど、 アイデアというのはたくさん、 どんどんどんどん生み出していって、 それを使っていかなきゃダメでしょうね。 |
2015-05-02-SAT
タイトル
体温のある指導者。藤田元司。
対談者名 藤田元司、糸井重里
対談収録日 2002年10月
体温のある指導者。藤田元司。
対談者名 藤田元司、糸井重里
対談収録日 2002年10月
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