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2024年3月27日 第177号
メールマガジン「ほぼ日通信WEEKLY」は毎週水曜に、受信希望の方にお送りしています。
このたび177号~182号は特別に、WEB公開版を作成することになりました。恩田陸さんのインタビューをおたのしみください。
ここだけのお話
ほぼ日通信WEEKLYオリジナルの読みものです。
~恩田陸さんインタビュー
本を読むたのしみは。
vol.1 カッコいい人は、薄っぺらい?
今週から、WEEKLYの特別インタビューがはじまります。ファンだった担当菅野が、作家の恩田陸さんにお話を伺いました。


恩田陸(おんだ りく)
1964年、宮城県生まれ。小説家。1992年『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で第26回吉川英治文学新人賞と第2回本屋大賞を受賞。2006年『ユージニア』で第59回日本推理作家協会賞、2007年『中庭の出来事』で第20回山本周五郎賞、2017年に『蜜蜂と遠雷』で第156回直木賞と第14回本屋大賞を受賞。最新作は2024年3月に発売された『spring』。

──:
このたびは、メールマガジン「ほぼ日通信WEEKLY」のインタビューをお受けいただき、ありがとうございます。恩田さんは「ほぼ日」をご存知でしたでしょうか。

恩田:
もちろんです。手帳なども何度かいただいたことがありますよ。

──:
わぁ、そうでしたか。ありがとうございます。2017年に直木賞を受賞した恩田さんの『蜜蜂と遠雷』は、ピアノコンクールのお話でした。映画化もされ、ご存知の方もたくさんいらっしゃると思います。それ以来の最新作が、この3月に発刊されました。こんどは、バレエのお話で。


恩田:
そうなんです。お読みいただきましたか?

──:
はい、読みました。『蜜蜂と遠雷』も「これはドキュメンタリーだろうか?」と思うほどのリアリティがあったのですが、今回の作品『spring』はさらに重層的な現実味がありました。いただいた資料に「構想・執筆10年」とありましたが、ひとつの作品に10年とは‥‥


恩田:
たしかにそうなんですが、そもそもこれは連載作品だったんです。並行してほかの小説も進めてましたし、まぁ、そのくらいかかっても大丈夫です(笑)。

──:
これから作品を読む方もいらっしゃいますので、本日は具体的な内容にはふれずにお話をうかがいます。

恩田:
そんなにネタバレ的なことが多い作品ではないと思いますが、よろしくお願いします。

──:
ネタバレ的なことはそんなにないとおっしゃいますが、読み出したときと読み終わったときでは、自分と作品との関わりが変化するようなスリリングさを私は味わいました。
そもそもなぜ恩田さんは、今回バレエを題材になさったのでしょうか。


恩田:
おっしゃるとおり、何年か前に『蜜蜂と遠雷』を書いたんですが、「じゃ、次に何をやるか」ということに、当然なりまして。

──:
はい、あれだけの作品を書かれたあとで。



恩田:
『蜜蜂と遠雷』のときも、「小説で音楽を書く」って、わりとハードルが高めな内容だったんです。

──:
文字からは音楽は流れないですし。

恩田:
そこからさらにハードルを上げるにはどうすればいいかと考えて。

──:
‥‥そんなチャレンジ的なきっかけが!


恩田:
はい。で、「たとえばバレエなら、もっと難しいかな」と思いました。

──:
今度は文章で踊りを表現するということになりますね。


恩田:
編集担当の方からも「今度はバレエとか、どうでしょう?」と提案していただいたこともあり、本格的にバレエの取材をはじめました。

──:
恩田さんはそれまで、バレエになじみがあったのでしょうか。


恩田:
ミュージカルや、いわゆるコンテンポラリーのモダン系バレエは観ていました。でも、クラシックバレエをちゃんと観たのは、ほんとに、取材をはじめた10年前が「初」だったと思います。

──:
クラシック音楽もそうですし、歌舞伎や相撲もそうだと思うのですが、歴史を長く持つものは扉を開けるととんでもない世界がひろがっていますよね。


恩田:
はい、まさにそうだと思います。

──:
知れば知るほど「これは長い歴史を経るだけのことはある!」と唸るしかなくなります。私はあまりバレエを観ないのですが、恩田さんはまず、バレエのどこに感動されたでしょうか。


恩田:
クラシックバレエって、厳密に「型」のものなんです。ポーズが全部、かっちり決まっていて、まずはそれを突き詰めた美しさに感動しました。
考えてみれば、すごく不自然なポーズなんですよ。けれどもそれを積み重ねていくと「自然に見えてくる」というところが、すごくおもしろい。歌舞伎もそうですね。「なんだ、あれ?」って感じの変なポーズだし、変なメイクをしてるし(笑)。しかし、それがあの場ではとても自然に、美を追求したものに見えてくるのです。
ですから、バレエのように「型」があるものって、強いんだなぁと最初に思いました。だからこそ長いあいだみんながずっと同じことをやってきているんですね。入口のところで、その美しさをすごく感じました。

──:
見たこともないような「型」なのに、見慣れるとだんだん自然に見えてくるから不思議ですね。

恩田:
しかもダンサーのみなさんは、ものすごい身体能力なんです。舞台で1時間も2時間も踊っているわけですから、体力もアスリート並み。そんな身体の強さに加えて、あれほどまでの芸術性がある。ほんとうにすごいことなんだと、観るたびに思います。

──:
私は恩田さんの小説を読むまではバレエに興味はありませんでした。こんなに長いお話を読み通せるかな、と不安だったのですが、話がモノローグ(ひとり語り)ではじまるのが意外でした。というか、終始モノローグで。


恩田:
はい、そうなんです。私はこれまで「一人称小説」はあまり書いてきませんでした。語り手が途中で変わっていく作品は何回か書いたことがあるんですけどね。一人称は久しぶりかな、と思います。

──:
しかも、一人称なのに、話し手が自分のことを話さないんですよ。


恩田:
そうですよね(笑)。

──:
別の人のことを一人称でしゃべっていく、というとても変わった小説でした。なんだかこう、『吾輩は猫である』みたいな‥‥。


恩田:
私もそういう書き方はこれまでしてこなかったので、一種のチャレンジといえばチャレンジでした。さきほども言いましたが、これは連載だったので、頭からおしりまで「順番に」書いていく方式だったんです。だから、書いているうちに考えたことが多い。誰を語り手にするのかも、けっこう迷ったところではあります。

──:
そして恩田さんの、この作品に寄せたコメントが「今まで書いた主人公の中で、これほど萌えたのは初めてです」ということなんですが。


恩田:
はい。

──:
たしかに、すごくカッコいいんです。めっちゃくちゃカッコいいんですけど‥‥誤解を恐れずに言いますと、ぜんぜん薄っぺらくない!


恩田:
ははははは。



──:
カッコいいヒーローが描かれるときって、なんだか薄っぺらくなることが多いんです。それは、読者の憧れを投影できる白紙の状態がカッコいいからなんだと思うんですが。

恩田:
うん、そうですよね。

──:
でも、現実にはそんな人はいない。どんな人でも癖はあるし、許せないところも過剰なところもある。カッコいい人を描いているのに、その人が現実的である。私はこの作品のその部分に、いちばん感動しました。


恩田:
ありがとうございます。でもね、つとめてそうしようと思っているわけではなくて、すべて私の独断と偏見で書いているだけなんですよ。

恩田陸さんへのインタビュー、次回につづきます。
次回のWeb版掲載は1週間後の予定です。
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写真:金川晋吾

恩田陸さんの新著
『spring』(スプリング)

8歳でバレエに出会い16歳で海を渡ったある少年を中心に、ひろがっては集結していくストーリー。いつもとらえどころのない視線で彼が見つめようとしていたのは「この世のカタチ」だった──物語に次々に登場するのは、彼と同時代に生きた4つの視点。芸術とは何か、創作とは何か。何度でも読みたくなる、構想・執筆10年、恩田陸さん渾身のバレエ小説です。

今週の一枚
やぁ、カワイコちゃん。

武蔵野さん

手をぴーんと伸ばす、武蔵野さん。しかし、ふとんにはしっかりじょうずに入っています。

武蔵野さんのドコノコブック
最近の「今日のダーリン」をご紹介
糸井重里が毎日書く ほぼ日目次ページのエッセイです。
いろんな人に会ってきて、それはもういろんな人にね。ずいぶん強い人もいるし、どうにも弱い人もいるし、おもしろい人もいて、おもしろくはないなという人もいる。
ぼくはとても運のいいことに、いやな人に会うことをしなくても生きてこられた。じぶんのわがままでもあるし、めぐり合わせでもある。例外がなくもないけれど、総じて、いい人たちばかりだ。

「いい人たちに共通していることってなんだろう?」ということは、よく考えるし、人とも話すのだけれど、最近は、とりあえずこういうことを言っている「得ばっかりしようとしている人は、いやだね」。
そりゃ、だれだって好き好んで「損をしよう損をしよう」というふうには生きていないとは思うよ。そりゃ、ぼくだってそうだよ、得をしたいと思うさ。だけど、「ここんところは得しなくてもいいや」とか、「損かもしれないけど、それは損すればいいよ」とか、「損だの得だの考えてなかった」とかね、あるものだよね。ときには、「どうぞどうぞ」と、労力でも金でも時間でも惜しみなく出しちゃうこともあるよ、人は。
いまだと、だれが言い出したのか「タイパ」とか「コスパ」とか、時間にもお金にも、せいいっぱい効率的に働かせようという考えがあるけど、それは「得を追求しよう」という姿勢のように思える。わかるけどね、そういう教育のなかに生きてきたんだもの。そういうのが「利口な生き方」だと思わされてきたし、「生きる能力」の高さにも見えているのかもしれない。けど、そんな「タイパ」だ「コスパ」だみたいなの含めて、「得ばっかりしようとしている人」を尊敬したいか、そういう人のことを遊びでも仕事でも誘いたくなるか?と考えると、どうもぼくは敬遠したくなっちゃうんだよね。
仕事の領域として「得をするための努力」は当然あるし、みんな一所懸命にやってる人はありがたいと思うんだけど、それを「生き方」にしちゃってると、人がついてこないし、結局のところ、得もしていないような気もするんだよな。
ま、ここらへんは、ぼくの知ってる人たちの間での、「そういう気がするよな」という雑談の結論なんだけどね。それはそれとして、ぼく個人としては子どもたちや、その子どもたちには「ちゃんと損できる人になれ」と単純なことを言ってやりたいと思っている。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
「おちつけ」と同じように「ちゃんと損できる人になれ」と。


──2024年3月21日の「今日のダーリン」より
糸井重里の
ひとことあとがき
このごろ、急に「論語」がおもしろくなって、へーへー、と感心しているのですが。そのなかに、たとえばこんなことばがあります。「君子は義に喩(さと)り、小人は利に喩る」立派な人物は正義を大事にするが、俗物は利益ばかりを追いかけるものだ、と。ぼくらは、もちろん君子でなく小人の一人なのですが、開き直って小人をやっている人に対して、あんまり敬意を持ちにくいものなんですよね。じぶんの足りなさをわかっていても、できることなら仲間には「敬意」を感じられる人がほしい。たぶん、ぼくもそういうことを思ってるんじゃないでしょうか。むろん、小人なりにじぶんもそういうものでありたいですしね。
(糸井重里)

今日の「今日のダーリン」もぜひごらんください。
※糸井重里の「今日のダーリン」は、ほぼ日刊イトイ新聞で毎日更新しています。
いまのほぼ日
おすすめのコンテンツを紹介します。
いまのほぼ日、どうなってる?
読みのがしたら、もったいない。
いさぎよくカッコいい昼めし。
スタイリストの梶雄太さんと昼ごはんを食べながら話をする「月イチ」連載がはじまりました。梶さんが、とにかくカッコいい。チャンピオンのスウェットで、カッコいい。中華そばを選ぶ梶さん、カッコいい。「チャンピオンのスウェットと、だるまやの中華そばは、だいたい同じです」の発言にしびれます。私(菅野)は、注文メニューで人のカッコよさをはかってしまう人間です。私はだるまやではカレーチャーハンとワンタン。あまりカッコよくない。林家ぺーさんとの「2時間くらい無言でも大丈夫な感じ」のエピソードもいいし、質問コーナーも最高。スタイリストはやっぱり「カッコいい」を牽引する人たちなんだな。
内田有紀さんがこんなにも愛!
半月前、仕事で宮城のキャンプ場に出かけました。そのときカレーを作ったのですが、同僚が「いままで食べたカレーのなかでいちばんおいしい」と言いました。味はそんなに「上」ではなかったですが、同意しました。すこしハードめなところで振り返らないと気づけない幸せというものがあります。いっしょに苦労しないとなかよくなれないということもあります。ご紹介するのは俳優の内田有紀さんとゼインアーツの小杉敬さん、糸井重里の鼎談。内田さんはテントを「まず基地じゃないですか」とおっしゃいます。そして、こんなにもキャンプを愛しているのだ! と驚く内容。うきうき話す感じ、いいです! 本日第3回更新。
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今週のおたより
恩田陸さんへのメッセージや感想、新刊『spring』の感想など、どうぞお寄せください。


恩田陸さんのインタビューをWEEKLYで読める日が来るなんて! 菅野さんすごい!! と感激して初めて感想メールを送ります。
私も一時期、恩田陸さんにハマっていました。『夜のピクニック』から『光の帝国』、『上と外』あたりが好きでした。『蜜蜂と遠雷』では知らない作曲家の曲でも雰囲気を感じられて、さすがの表現力だなぁと思いました。新刊は未読ですが、きっとまた新しい恩田陸ワールドが展開されているんでしょうね。挑戦と進化をし続ける恩田陸さんとの対談、次回のWEEKLYも楽しみにしています!
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中学生のときに『六番目の小夜子』を読んで以来恩田さんの小説の虜になり、ずっと読んできました。まさかほぼ日で恩田さんの言葉に触れられるとは!! 4歳の娘が去年から本人の希望でバレエを習いはじめたので、新作との縁も感じています。
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おー、恩田さんだぁ。わたくし、『蜜蜂と遠雷』のサイン本持ってますよ新刊、まだ買ってない‥‥さっそく買います。これからたのしみです!
(Takashi)

私は小説を読むのが好きです。映画やドラマを観るのも好きです。日々の暮らしは「小説より奇なり」でさまざまなことが起こるというのに、どうしてフィクションでまで新たなストーリーを味わおうとするのだろうか。そんな疑問を抱え、恩田陸さんにお会いしました。新作『spring』を例にとりながら、恩田さんの創作に迫っていきます。インタビュー終了直後の私のいまの感想としては「作家はすごい!」というひと言です。全6回でお届けしていきますので、たのしみになさってください。そして、今回初なおかつ今回限りになるかもしれないのですが、恩田さんのインタビュー内容はメールマガジンとほぼ日、両方で掲載しています。こう考えたきっかけになる恩田さんの言葉も、後半のインタビューに出てきます。前回の柳瀬さんもそうですが、恩田さんからも刺激的な言葉をたくさんいただきました。なるべくそのままをお届けできるように、編集していきます。
さぁ、4月です。新入学新入社新異動新入居のみなさん、おめでとうございます。新がなくても心機一転ですね。花舞う日に、またメールボックスでお目にかかります。Web版は、また1週間後に更新いたします。早く読みたい方は、配信前日(毎週火曜)までにメールアドレスをご登録ください。(ほぼ日 菅野綾子)


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