「白いシャツをめぐる旅。」、
今回からは、白いシャツをつくっているかたのなかから、
じっさいにこの秋に展開する「ほぼ日」のウエブショップに
参加してくださることになったみなさんに、
お話を聞いていきます。
いずれも、白いシャツにかんして、
一家言もつひとばかり。
まずは、beautiful people(ビューティフルピープル)
というブランドのアトリエにおじゃまして、
デザイナーの熊切秀典さんにお目にかかりました。
△beautiful peopleの熊切秀典さん。
beautiful peopleは、
2006年にはじまったレディースラインのブランドで、
熊切さんとともに、パタンナーの戸田昌良さん、
営業の若林祐介さん、企画生産の米タミオさんの
4人(の男子!)が中心になって運営しています。
ちなみに、熊切さん・戸田さん・若林さんの3人は、
文化服装学院の同級生だそう。
ブランドのコンセプトは「大人のための子ども服」。
7分袖で、丈もおへそが出て、というような、
あえてキッズサイズのものを
大人が着るというイメージの服づくりをつづけていて、
そんなサイズ感のライダースやトレンチコートが
大ヒット商品になりました。
△左が若林祐介さん。
△パタンナーの戸田昌良さん。
そのなかで、白いシャツも、beautiful peopleが
定番的につくりつづけているアイテムのひとつ。
もともとデザイン担当の熊切さんは
メンズ服(コム デ ギャルソン)のパタンナー出身で、
そこでもたくさんつくってきたことから、
白いシャツには、そうとうな思いがあるといいます。
ちなみに伊勢丹新宿店での取材で、
ゆーないとが購入したのがここのシャツでした。
メンズライクで、かわいくて、スタイルよく見えて──。
あまりに格好いいので、
beautiful peopleって男子ばかりのチームなのに、
男子むけの服はつくらないんですか、と訊いたところ、
熊切さんたちが服づくりで選ぶ素材が柔らかすぎて、
紳士服には向かないため、あまりつくっていないとのこと。
(たまにはつくっているそうですけれど。)
ということで今回の「白いシャツをめぐる旅。」の
ウエブショップでは、
レディースラインで参加していただくことになりました。
▶beautiful peopleのウエブサイトはこちら
シャツって、素材が変わると、
印象が変わりますよね。
印象だけではなく、じっさいに「変わる」んです。
細かいことでいえば、たとえば襟の三角形。
型紙が同じでも、素材が変わると、
同じものにはなりません。
さらに言えば、縫製工場のちがい、職人さんのちがいで、
服の表情って変わったりするんですよ。
だから「定番」という考えがあったとしても、
ずっと同じ型紙ではいけなくて、
素材ごとに型紙を変えて、
さらに現場とやりとりをしていきます。
ぼくらのなかで、「定番の素材」は
3、4素材しかありませんが、
「定番の型紙」はすごくいっぱいある。
それが、スタッフの多くがパタンナー出身である
beautiful peopleのものづくりだと思います。
シャツに関していえば、
「小っちゃく見えるんだけど、
大人にも着やすくするには、
どうすればいいんだろうな?」ということを
いつも考えながら型紙を作っています。
その具体的な解決策であり、
ぼくらのシャツの特長にもなっているのが、
ピポットスリーブと言われるパターンです。
もともとは、猟師が銃を構えるときに、
ジャケットの袖が動きにたいして邪魔にならないよう、
スムーズに動かせるように考えられたかたちです。
「立体裁断」とも言えるんですが、
いわゆる立体裁断が、立体物に対して裁断していく、
という考え方なのにたいして、ぼくらの場合は、
動きに対して裁断していく。
最初は革のライダースに応用したんですね。
言うならば「吊り革を持てるライダース」。
これがヒットをしたので、
「じゃあ、そのライダースを着た時に、
中にピッと着れるシャツを作ろうか」と。
ライダースもピッタリしてるので、
それに合わせて同じピポッドスリーブで
シャツを考えたのがはじまりです。
△あとから入手したという“衣服解剖学”という本でわかったのは、
ピポッドスリーブの可動域は、人間のからだの構造や動きに、
とても合っているということ!
△シャツの上から、定番のライダーズを羽織らせてもらいました。
たしかに腕がすっと上がる!
こういう着心地のよさというのは、
服が本当にみんなの日常の中に入り込んだときに、
とても大事なことだと思っています。
だからいまは、「ライダースの下には着ない」としても、
シャツにおいて、その考えを変えずにやっています。
でもこういう“パターンのこだわり”っていうのは、
実際、あんまり伝わらないんですよね。
モノとして見たら、あまり変わらなく見えますし。
けれども着てみたときに、
「あれ、これ、なんか違うぞ」って思ってもらえたらと
思ってつくっています。
素材は、そのシーズンによって変えています。
ぼくが飽きっぽいっていうところもあるんですが、
紡績会社さんでいい素材を見つけると、
自分の閃きとか、いたずら心をヒントに、
「じゃあ、こうしてみませんか」なんて
提案してつくってもらうことも多いですよ。
たとえば昨シーズンは鹿の子で、
つぎのシーズンはオックスフォードを
シルクコットンでやってみよう、というような。
「ほぼ日」さんで販売するのも、その素材です。
△こちらが昨シーズンの“鹿の子”。伸縮性のある素材。
△こちらがシルクコットンのオックスフォード。
シルク混で、原糸の色もいかしているので、全体にやさしい表情。
なぜそこにたどりついたかを話しますと、
まずシーズンのテーマが
「エクストラバージン」なんですね。
天然のものの良さを出して、
本当に上質なものをつくっていこう、というところで、
「オックスフォードのいいものってなんだろう?」
ということを考えました。
そもそも、なぜオックスフォードなのかというと、
ぼくがカジュアルな生き方をしてるタイプなので、
白シャツっていうと、オックスフォードがまず浮かぶ。
だったら、オックスフォードの中でも、
とりわけエクストラバージンなものをつくってみよう、
というところでできたのがシルクコットンです。
さらに言えば、
オーガニック素材だったりもするんですけれど、
そのことを謳いすぎるのもむずかしいし、
写真に撮ってもわからないでしょうから、
着たときに、よさを感じてもらえれば
いいかなと思っています。
仕立ては、メンズです。つまり左上前。
これはぼくらの出身である
コム デ ギャルソンがそうだったので、
身に付いちゃっているんですね。
左上前じゃないと、フィッティングで向かい合う時に、
ちょっとなんだか違和感があったりして。
シルクが入っていますが、ふつうに家で洗濯できますから、
しわを残したまま着ていただいてもいいですよ。
ぼくは、オックスフォードのシャツは、
乾かす時、ボタンを留めて干すだけです。
そのほうが、なんとなく雰囲気が出ていいな、
という個人的な好みですから、
ぼくらのシャツを選んでくださったかたには、
「こう着てほしい」みたいなことはあんまりありません。
ぼくから言えるのは
「着やすく作っておりますので」っていうことだけかな。
小っちゃくても動きやすいですし。
縫製は国内です。
シャツづくりに関してとても信頼してる職人さんに
お願いをしています。
ちなみに、シャツ職人の腕っていうのは、
縫い師の腕ももちろん大切ですが、
裁断師の腕、だったりもするんですよ。
一枚の生地をどういう方向からどう切るかで
着心地って、変わってしまうんです。
もともとの生地の糊の量がどうかとかでも
できあがるシャツの表情は変わるし、
つくるのが難しいぶん、
シャツづくりっておもしろいな、って思います。
熊切さん、ありがとうございました。
具体的にどんなシャツができあがったか、
おってもっとくわしくレポートいたします!
次回は女性二人組の服づくりユニット
「nooy」(ヌーイ)さんをたずねます。
おたのしみに!