さて、HITOYOSHIでつくることになったシャツは、
ことしの大きなテーマである「ふたりで」、のシャツ。
メンズシャツの伝統的なディテールをいかしながら、
女性がオーバーサイズでも着られるシャツをつくります。
この「オーバーサイズ」ということをつきつめていくと、
ちょっとおもしろい逆転現象がありました。
「もっと大きくてもいいんじゃないのかな」
ということです。
男性のシャツを「そのまま」着ると、
女性には、袖がちょっと長く、
裾もおしりをすっぽりかくすほどたっぷりで、
肩のラインは、ちょっと落とし気味になります。
▲大きなメンズシャツを小柄な女性が着ると、肩が落ちて袖が余ります。
袖はくるくるっと巻いたり、
「おがみ」というボタンの留め方をするなどで
調整をすることができますし、
おしりがたっぷりしているのは、むしろ、うれしい。
肩のラインは、男性のように
「ぴったり」である必要はないですし、
ドロップショルダーのかわいさがあります。
▲くるくるっと巻くのは、まったく違和感なし!
▲「おがみ」ボタンの留め方。これはこれで、かっこいい。
そんななか、ミーティングのときに
女性メンバーから出たのが
「もっと大きくてもいいんじゃないのかな」
というアイデアでした。
もっと・大きく!?!?!?
超・ビッグシルエットってこと?
メンズシャツよりも大きな
レディス(女性に着てほしいメンズ仕様の)
シャツってこと?
ややこしい。ややこしいです。
それはメンズなのかレディスなのか。
いや、待てよ、そもそも「ふたりで」なのだから
そういうユニセックス仕様を突き詰めるのは、アリです。
「じゃあ、パターンは同じでも、
グレーディングを変えれば、できますね!」
HITOYOSHIの松岡さんが、
くりくりとした目をきらきらとさせながら言いました。
▲青いシャツが松岡さん。
(ヤバ‥‥意味がわからない‥‥!)
シャツ博士、と勝手にぼく(武井)が
心で呼んでいる松岡さんは、
ここでちょっと困る「ほぼ日」の
めんめんに、やさしく解説をしてくれました。
「シャツをつくるためのパーツは、
袖とか前身ごろ、衿などなど、細かくいっぱいあって、
それぞれを型紙に起こし、生地を切って準備します。
それを縫い合わせると1枚のシャツができるわけです。
そのパーツを、拡大したり縮小したりして
組み合わせようということです」
なるほど! つまり、
大きなハムにうずらの卵のハムエッグと、
小さなハムにダチョウの卵のハムエッグみたいな、
そういうちがいですよね!
「‥‥ええと、大きくは間違っていませんが、
みなさんに、わかりにくかと」
では、大きなお皿に小さなステーキと、
小さなお皿に大きなステーキのちがいってことですね!
「あの、食べ物で例えるのは、
わかりにくいですね‥‥。
こう考えたらどうでしょう?
一枚のシャツを前に、
ドラえもんがスモールライトで
袖だけちっちゃくして、
ビッグライトで身頃だけ大きくします。
さて、できあがったシャツは‥‥?
というようなイメージです」
あ、わかりやすいです‥‥! そういうことか。
▲M、Lサイズはこのかたち。
これは、HITOYOSHIさんがつくる
スタンダードなボタンダウンの
メンズシャツをもとにして、
白いシャツミーティングのメンバーで調整をした
今回販売予定のシャツの1型です。
▲こちらがそのサンプル。
男性が着ると「しゅっとして見える」かたち。
肩の縫い目はちょうど肩の関節にくるようになっていて、
ジャケットを着たときにすこし出るよう袖が長め。
胸回りにくらべて胴回りがすこし絞ってあるのは、
昨年学んだように、男性はこのほうが
きちんとして見えるからです。
私たちのイメージとしては、男性なら、
ズボンにインすれば仕事にも着ていけるし、
日曜日は裾を出してカジュアルにも着られ、
女性がシェアしたときは、
オーバーサイズでもサマになる、
そんなスタイルを想定しました。
ユニセックス、ジェンダーレスですが、
方向としては「男性のシャツを女性が着る」
ということになります。
▲女性にはオーバーサイズなので‥‥。
▲ちょっとだけ着方をかえます。なるほど!
そして、グレーディングちがいの、こちら。
▲XS、Sサイズはこのかたち。
こちらは、胸回りのサイズは、先ほどのものと
そんなに大きなちがいはないのですが、
胴回りは絞っていません。
そして肩の縫い目は、ドロップショルダーで
上腕のあたりで袖につながって、
女性が着たときに違和感がないよう、
袖は短めに、裾は後ろを5cm長くしています。
▲あらかじめドロップ。
こちらは「女性のために考えたシャツ」。
男性が着ると、ドロップショルダーと短い袖で
うーんとカジュアルな印象になります。
(それも、じつは、かわいいのです。
かわいいって、妙ですけど。)
各部位のサイズを比較するとこうなります(単位cm)。
◀女性向け・ゆったり▶ | ◀男性向け・スッキリ▶ | |||
サイズ表記 | XS | S | M | L |
衿回り | 35 | 36 | 39 | 41 |
胸回り | 106 | 110 | 108 | 114 |
胴回り | 103 | 107 | 97 | 103 |
裾回り | 102 | 106 | 104 | 110 |
肩幅 | 55 | 56 | 43.5 | 45.5 |
前丈 | 68 | 70 | 74 | 75 |
後丈 | 73 | 75 | 74 | 75 |
袖付回り | 43 | 44 | 46 | 48 |
カフス丈 | 22 | 23 | 24 | 25 |
裄丈 | 76.5 | 77.5 | 84 | 86 |
◀男性が着ると カジュアルに▶ | ◀女性が着ると かっこよく▶ |
ちなみに素材は、綿のツイル、
シャツのスタイルとしては、ボタンダウンです。
ボタンダウンというのは、アメリカ的な流れでいうと
ざっくりと粗く織ったオックスフォード生地が主流ですが、
今回は、女性がオーバーサイズで着たときに、
「あえてそれを選んでいる」というムードが出るように、
オックスフォード的な粗さを多少残しながらも、
やわらかく着てもらえる「ツイル」を選びました。
マイクロツイルと呼ばれる、しなやかで、
着たときに縦のドレープ感がうまれる素材。
洗濯もらくで、洗いざらしのシワを
あまり気にせずに着られる素材です。
(もちろん、パリッとアイロンをかけてもいいですよ!)
細かなところで言うと、女性が前ボタンをふたつ開けて、
「抜いて」(後ろにちょっと落とし気味にして)着るとき、
胸の見え方がきれいになるよう、
第2ボタンの位置を調整したり、
衿の大きさを「大きすぎないよう」にしたり、
そんな工夫をしています。
背中に入っているプリーツは
「インバーテッドプリーツ」と呼ばれるもので、
よくメンズシャツの背中にあるボックスプリーツを
裏返した状態のもの。
メンズシャツのディテールとしては伝統的なもので、
チャームポイントにもなり、
可動域をひろげる実用的なデザインでもあります。
▲これがインバーテッドプリーツ。今回のHITOYOSHIのボタンダウンは、すべてこれが入っています。
ちなみにSサイズを男性が着ると、こうなります。
▲Sを着てみました。袖は短く、七分袖に。肩のラインは、男性でもドロップに。身幅はちゃんとあるので、着たときの違和感はなく、「カジュアルでおしゃれなシャツ」の印象になります。これもアリ!
今回、HITOYOSHIでつくるシャツには、もう1型、
レディスサイズのみでつくるシャツがあります。
こちらはちょっと仕掛けが多彩なんです。
みんなでミーティングをしたとき、
いろいろなメンズシャツならではの
ディテールを見ながら
「こういうポイントが入ったら、
かわいいレディスシャツができる!」
と組み合わせを考えました。
▲レディスサイズのみの展開です。
台衿にはピンホールがあいていて、
左右を金属のピンで留める仕様になっています。
(ゴールドのピンがひとつ、つきます。)
これはほんらい、ネクタイをきゅっと持ち上げて
うつくしく見せるためのものですが、
キラリとひかるピンが衿につくというのは
レディスシャツではあまりない仕様ですから、
実用ではなく「おしゃれ」としてとらえよう、
というものです。もちろんここに、
アクセサリーをつけてもかわいい。
さらにこのシャツは、衿をまるごと
取り外すことができます。
そうすると衿なしの「スタンドカラー」になります。
(ピンホールは残りますので、
ピンのついたスタンドカラーになります)
▲これがピンホール部分。衿はまるっと取り外しが可能です。
▲衿を外すと、こう。
さらに、胸のところに「ボザム」。
正式には「スターチド・ボザム」といい、
メンズの礼装用シャツのデザインのひとつで、
胸にU字型の布を重ねて縫いつけてあるものです。
もともと燕尾服の内側に着るシャツに、
勲章をつけるためにつくられたといわれていて、
現在はドレスシャツの装飾のひとつ。
▲サンプルのボザムをもとに、「これだと胸が強調されすぎる」とか「このくらいだとかわいい!」と、女性メンバーたちがラインを決めました(黒い線が、検討のあと)。
このシャツの生地は、綿100%、
ポプリンといってたて糸の密度を高くした布を、
「イージーケア」という、
生地の風合いをいかしながら
シワになりにくい加工をしています。
(アイロンが要らないわけではなく、
アイロンのかけやすい生地だと考えてください。)
「きれいに着る」ほうがカッコいい、
という判断で、その生地をえらびました。
(こまかい仕様などは、9/13をお待ちくださいね。
次回はSTAMP & DIARYの
吉川さんのインタビューです!)