糸井
『WOOD JOB!』の脚本を書くために
9カ月くらい取材したとおっしゃっていましたが、
その間に、
林業をエンターテイメント映画にするのは
無理かもしれない、
と思う瞬間はなかったのでしょうか?
矢口
もちろん、ありました。
ぼくはちょっとMっ気があるのか、
そうなったときにものすごく燃えるんです(笑)。
糸井 ぼくもそうなんです(笑)。
矢口
糸井さんもですか!
‥‥このような話を真っ当に口にするのは
はじめてなので、
真情を吐露することになってしまうのですが、
今まで撮ってきた映画は、けっこうな確率で
「できないかもしれない」からはじまっています。
糸井 お、いいですね(笑)。
矢口
「これ、映画になるかな。いや、ならないだろう。
するとしても、かなりの覚悟がいるし、
冒険ばかりで、
ちょっとでも軌道が外れたときに
目も当てられない最悪の作品になるぞ」と。
糸井 でも、やるんですね。
矢口
はい。そうなると、
もう「YES」か「NO」の2通りしかなくて、
失敗したときは、完全に「NO」になってしまう。
だったら、無理矢理にでも「YES」にしてやれ!
というパワーがわいてくるんです。
真ん中あたりのいい具合のところに
おさまってるものって、
ぼくは撮っていてもあんまりたのしくないんです。
ですから、わざわざ危険な道を選んでしまっていて。
糸井
わかるなぁー。
ぼくは、
その「できないかもしれない」がなかったら、
表現ではないと思ってます。
「できないかもしれない」ことは、
「できたときがすばらしいんだ」ということだから、
それができたとき、
ほんとうにすばらしいものができた、
ということなんですよ。
矢口
うまくいったら、最高にうれしいですね。
「できないかもしれない」ことの理由は、
山ほどあげられますし。
糸井
映画というものは大勢の力を集結しないと
つくることができないものですから、
理由はいくらでも出てくるでしょうね。
ただ、自分の頭のなかだけじゃできないことでも、
スタッフやキャストが救ってくれたり、
降ってわいたようなラッキーがあったり、
作りはじめたら意外とできたってこと、
あると思うんです。
矢口
そうなんです、偶然っておもしろくて。
実写の映画は、
ナマの時間をつかいながら
ナマの人間と動物と
ナマの景色で撮っているので、
多分に偶然なんですよ。
糸井
なにが起こるか、
カメラをまわすまでわかりませんね。
矢口
たとえば、
今『ウォーターボーイズ』を撮ろうとしても、
またおなじ魅力をもつ映画が
作れるかはわかりません。
糸井
まったく別のいいものができる可能性はあっても、
あのときに得られた魅力は、得られないでしょうね。
矢口 そうだと思います。
糸井
だからか、
実写の映画って全能感がないと思うんです。
アニメーションは
すべて作り手の思い通りになるけれど、
実写は、監督や脚本家の思い通りには
いきませんから。
矢口
それが、実写の映画のおもしろいところなんです。
ただ、実写であっても、
CG(コンピュータグラフィックス)の技術が
どんどん発達していて、
アニメーションなのか実写なのか、
その棲み分けがあいまいになってきています。
たとえば、『ゼロ・グラビティ』という映画は
実写なんですけれど、
完全にコントロールされた映像なんですね。
糸井
『ゼロ・グラビティ』、ぼくも観ました。
すごくおもしろかったです。
でも、たしかに本来の「実写」とは別モノですね。
矢口
ぼくは、やっぱり、
揺れ動くほんものの景色のなかへ
ナマの人間を連れて行って撮りたい。
そこにいるいろんな野生の生き物が偶然現れたり、
雨が降ったり、晴れたり、風が吹いたりという
天候の影響をモロに受け、
不確定要素がたくさんあるなかでこそ、
「負けないぞ。
このなかでおもしろいものを
ちゃんと撮っていくぞ」
と意欲がわくんです。
スタジオだとそれがない。
CGも便利ですけど、
化学調味料でできる味付けには限界があります。
その土地の空気や風や土にまみれて、
養分をたくさん吸い上げて育った食材を
収穫する作業が、
ぼくは、ほんとうに大好きなんです。
糸井 プランターだとだめなんだ。
矢口
プランターだと、
おいしいかもしれませんが、
おもしろくないですね。
糸井
最近の実写の映画も、
アニメのようにアングルからサイズまで、
絵コンテがあるようなつくりかたに
なっている気がするんですけど、
そんなことはないんですか?
矢口
実写も、絵コンテありきの方向に
すすんでいますね。
糸井 まるで契約書のようですよね、絵コンテって。
矢口
なんと、ぼくの映画、
すべて絵コンテがあるんです。
糸井
え? 絵コンテあるんですか!?
はあー。絵コンテがあって、あの映像に。
矢口
はい。でもたぶん、ふつうとはちがって、
ぼくは撮影の日の朝に
その日の分の絵コンテを描きます。
糸井 前もって描いておかないんだ。
矢口
現場って、ひとたび雨が降れば
川が増水して川幅が変わっちゃったり
木がしなだれかかっちゃったりして、
つねに変化しているものなので、
当日にならないと状況がつかめないんです。
矢口
この絵コンテは
俳優さんにはぜったいに見せません。
ぼくと、スタッフしか知らないものです。
糸井
それは絵コンテのようだけど、
きっと、メモのような役割なんですね。
矢口
そうかもしれません。
お芝居がおもしろかったら、
絵コンテは無視しますから。
糸井
一般的には、もっと契約書のように
絵コンテを作っていくことが多いと思います。
それって、カメラとそっくりだと思うんですよ。
写真を撮るとき、今はファインダーじゃなくて、
モニターを見ながら撮りますよね。
つまり、「出来上がりはこうだ」というのを
確かめながらシャッターを押すわけだから、
そこですでに、こたえをつかんでいるんですね。
でも、ファインダーをのぞいている時代には
こたえを知らなかったんですよ。
矢口
それがですね‥‥、
この映画はフィルムで撮ってます。
糸井 うわぁ!
矢口
ぼくも、スタッフも、キャストも、
だれもこたえがわからないまま撮ってます。
糸井
いちいち、おもしろいなぁ!
矢口さんは冒険者のような人なんですね。
矢口
うわぁ!
そんなにほめられて、どうしましょう(笑)。
糸井
できてくるものの安全や保証を
契約書で確認してから
やっと作りはじめるというやり方が
主流になってきているなかで、
矢口さんのお話を聞くと、
うれしいしほめたくなります。
矢口さんのような人が増えてほしいです。
矢口
なるべく、多くの方に
この糸井さんの言葉を伝えたいです。
一同 (笑)
(つづきます)
2014-06-10-TUE