矢口 ちょっと長い話をしてもいいですか?
糸井 もちろん。
矢口
『WOOD JOB!』のなかで、
主人公の勇気くんがヒルに股をやられるシーンが
あるんですけど、
あれは、ぼくの実体験なんです。
糸井 矢口さんが、やられてたんだ(笑)。
矢口
やられました(笑)。
ちょっと長めの期間、ずっと山のなかにいて
脚本作りの取材をすることがあったんです。
たしか、11日間だったと思うんですけど。
それで、3、4日経ったころ、
あのう、ぼくのですね、
「御神木」に違和感を感じまして‥‥。
糸井 「御神木」(笑)。
矢口
ぼくの「御神木」に爪でつねるような
地味な痛みがあるんです。
そのときはなにが起こっているのか
まったくわかりませんでした。
それから数日後に、ようやく犯人を発見して。
糸井 嫌な予感しかしない(笑)。
矢口
自分からは見えないところ、
裏側のある部分にですね、
イボのような、できもののような
黒ずんだでっぱりができていて。
大きさは、最初‥‥。
(紙に大きさを書きだす)
一同 (笑)
矢口 これくらいだったんです。
糸井 ああ、1ミリくらいですかね。
矢口
いや、もう少し‥‥2ミリくらいでしょうか。
それから3、4日経ったら、
こんな大きさになり。
糸井 4ミリ。
矢口
肌との接合部からは、
足のようなものが、チョロッチョロッと。
糸井 嫌ですねえ。
矢口
場所が場所なので、人に相談できなくて。
取材中、一瞬でも間があいたら、
病院に行かせてもらおうと思ってたんですけど、
そういう時間はまったくありませんでした。
糸井
覚えがないわけですよね?
その、御神木に何かが起こるっていう。
矢口
まったくないです。
それから1週間経ち、
ようやく東京に戻れることになって、
すぐにパソコンで調べたんですよ。
そしたら「こいつだ!」というのが出てきました。
山にいるダニで、「マダニ」という虫でした。
糸井 マダニ。
矢口
ふだんはシカとかイノシシとか、
野生動物の血を吸っている虫です。
動物の毛によくくっついてるから
山のなかにはふつうにいるみたいなんですよ。
マダニが服につくと、
一晩くらいかけてジワジワと服のなかに入ってきて、
皮膚のやわらかいところを探してガブリと噛みつく。
ぼくのくせなのですが、現場に入ると、
その日の夜は
お風呂に入らずに寝ちゃって朝入るんですね。
それで、やられちゃった。
ネットには、マダニにやられた場合は
「ぜったいに自分でとらずに皮膚科に行け」
と書いてありました。
‥‥でも。
糸井 でも(笑)。
矢口
自分で対処しちゃったあとだったんです。
もう、ほんとうに素人考えなんですけど、
これが生き物だとしたら
火であぶれば落ちるだろうと思って、
東京に帰る前にマッチの火で退治したんです。
最初は、シュッとマッチに火をつけて
そのまま近づけみたんですけど、
「アチッ」ってなっちゃって。
直火は危ないぞ、と。
一同 (笑)
糸井 直火は危ない(笑)。
矢口
直火は危ないので、
火を消して赤々としているマッチ棒の先で
ジュッジュッとマダニを焼いていきました。
マッチ1箱つかい切ったところで、
真っ黒に変色して死んだんです。
そしたら、
今度はそのまま取れなくなってしまい‥‥。
ひっぱってもねじっても、
痛くてぜんぜん取れないんですよ。
糸井 聞いてるだけで、痛いです。
矢口
東京に帰った次の日の朝
すぐ近所の皮膚科に行ったら、
お医者さんに大きな病院を紹介するといわれました。
そんなに重大なものなのかと思いながら
総合病院に行ったら、
なんと女医さんが3人も現れました(笑)。
一同 (笑)
矢口
ぼくが女医さんに患部を確認してもらいつつ
「マダニです」といったら、
「ほんとうにこれですか?」って
写真を見せてくれました。
「これです、おなじやつです」といったら、
「マダニに噛まれた人で、
もうすでに9名亡くなってます」と。
糸井 ええ!?
矢口
感染症にかかると、
命を落とすこともあるそうなんです。
けっこう危険な虫だったんですよ。
血液検査をして感染症にかかっていないか調べて、
マダニの歯が患部に
くい込んだままの可能性があるので
「パンチ」するといわれました。
糸井
「パンチ」??
って、穴をあけるパンチ??
矢口
そうです。
患部に「パンチ」してえぐりとります、と。
糸井 御神木に。
矢口 御神木に。
糸井 うわぁーー。
矢口
「御神木」に「パンチ」をすると、
精神的に機能不全になっちゃう人も
いらっしゃるようで、
奥さんはいるのかとか、
ほんとうに「パンチ」していいのかとか、
いろいろ訊かれました。
ぼくはすぐにでもとりたかったものですから、
「大丈夫です、すぐにやってください」といって
パンチしてもらい、2針縫いました。
血液検査も結果は陰性でした。
糸井
はぁーー。
ほんとうによかったですねえ。
笑って聞いてましたけど、
命にかかわることだったとは。
矢口
まあ、無事に済んだので
いっそのこと映画に生かそうと思って、
あのシーンが生まれました。
糸井 やっぱり、実話はすごみがありますね。
矢口
ぼくの経験をそのまま映像化しちゃうと
痛々しすぎるし、
つねにモザイクが必要に‥‥(笑)。
糸井 そんなの見たくない(笑)。
矢口
けっこういろんなところで
このマダニ事件のことはしゃべっているんですけど
あんまり紹介されないんです。
「ぼくの御神木」という言葉が出た時点で、
だいたいカットされてしまいます。
糸井 そうでしょうね(笑)。
矢口
(「ほぼ日」担当者に顔を向けて)
先ほどにひきつづき、
ここもぜひ、「ほぼ日」で紹介してください。
糸井 ふふふ。
(つづきます)
2014-06-09-MON