糸井
矢口さんは
『WOOD JOB!』の取材や撮影で
長期間三重県の山中にいらっしゃったときに
山に住みたいと
考え出すかもしれないと思いながら、
映画をつくっていたのでしょうか。
矢口
はい。さきほどもいったとおり、
けっきょくクランクアップが近づくと
東京に帰りたくてしかたなくて、
やっぱり自分は都会の人間だったんだと
痛感しました。
糸井
地方と都会のどっちに味方するんだ、
というような気持ちは、
しょっちゅう揺れ動くものです。
撮影が終わったときに、
やっぱり自分が生まれて住んだところで
生きていくことにする、という気持ちは
とても順当なことだと、ぼくは思います。
その地にとどまるのか、それとも都会に戻るのか。
それはいくらでも揺れ動いてかまわないんだけど、
自分が嫌なことはしちゃだめだと思うんです。
矢口 はい、それはほんとうにそう思います。
糸井
この話は
被災地とボランティアの人たちとの
関係にも通じると思います。
被災地に行ったボランティアの人たちのなかには、
都会にいる人間に腹立てちゃう人もいるんですね。
そうなっちゃったら、夜寝るときに、
「ほんとうにそうなのかな?」って
考えてみてほしいと、ぼくは思っています。
その部分があるかないかは、すごく重要です。
かなり極端な例ですが、
「ほんとうにそうなのかな?」
と、考えることをせずに
つっぱしってしまったのが、
連合赤軍だったんだと思うんです。
矢口 連合赤軍、ですか。
糸井
急に極端な例をだして、すみません。
このあいだの休みに『レッド』という、
連合赤軍を題材にしたマンガを
ちょうど読んだところだったもので。
このマンガはおすすめですよ。
山本直樹さんが描いてます。
矢口
あれ? 山本直樹さんって、
けっこうエッチなマンガを描く方じゃ‥‥?
糸井
そうそう、その山本直樹さんです。
このマンガのなかにも
そういう描写がなくはないんですけども、
もともと山本さんが描くエロって、
ウソがないというか、すごくリアルですよね。
『レッド』も、ものすごくリアルです。
で、そのリアル感を出すために
山本さんは登場人物の周辺情報を描かないんですよ。
こういう家庭に育った子だとか、
ふつうに生活してたらこういう子だっただろうとか、
そういう情報があれば、
読者は悲しがったり悔しかったりするでしょう。
でも、それがほとんど描かれてないんです。
矢口 それ、わざとですよね。
糸井
わざとですね。
その決意は、すごいことだと思います。
『レッド』では、1969年以降、
下火になった連合赤軍が
どんどん追いつめられていくようすが
描かれているんですけど、
そのころはもう、自分たちで自分たちの弱さに
気がついちゃっているんですね。
その弱さから離脱するために、
自分の頭の構造をぬりかえてしまうんですよ。
つまり、いかに自分たちがいいことや
正しいことをしているのかというロジックを
作りあげていくわけです。
たとえば、
「われわれは、
なぜお前を総括しなければならないのか」
というロジックを、
どんどん積み上げていくんです。
矢口
総括というのは、
連合赤軍が行っていたリンチ行為のことですよね?
糸井
そうです。
総括による暴力で亡くなった人もいます。
このマンガは
そのときどきのセリフの再現性が高いんですよ。
いちマンガ家がちょっと考えて、
「われわれはーっ」というふうに
書いているのとはちがう。
山本さんって、
ぼくよりぜんぜん若い方だと思うんですけど、
その若い方が、
連合赤軍をストーリーとしてではなく
当時の空気感だけにして、描き出しているんです。
これはまいったなぁと思いました。
ぜひ読んでみてください。
矢口
(紙にメモをとりながら)
山本直樹さんの『レッド』ですね‥‥。
読んでみます。
糸井
っていうのが、
長くなっちゃんですけど前置きで。
矢口 ええぇ! 前置きだったんですか!(笑)。
糸井
そうですよ、
『WOOD JOB!』をほめるための。
一同 (笑)
糸井
『WOOD JOB!』には、
山本直樹さんの連合赤軍に対する姿勢と
近いものを感じました。
過剰に味方したり、過剰に敵視もしない。
過剰に正しいだの間違ってるだの、
過剰にいいだの悪いだの、いわない。
ぼくは、その姿勢にすごく好感をもちました。
矢口
ぼくは『WOOD JOB!』を観た人に
「林業っていいよ、やろうよ」ではなく、
もしかしたら今の生活の延長上に
なにか別の世界の扉があって、
その扉を少しでも開くと、
「あ、世界って、こんなに広かったんだ」
ということを感じてもらいたい。
ただ、それだけ。
林業を啓蒙しているわけではないんです。
糸井 ただ、それだけ。
矢口
でも、映画というメディアは
やっぱり影響が大きいので‥‥。
今回、この映画のキャンペーンで
全国30都道府県をまわったんですけど、
そのときに
「高校時代『ウォーターボーイズ』を観て、
学祭の出し物でシンクロしました」
とか、
「うちの娘が『スウィングガールズ』で感動して、
吹奏楽部にはいりました」
というような方に、たくさんお会いしたんです。
ぼくは映画を通じて
「シンクロやろうよ」「ビッグバンド組もうよ」と
いっているつもりはないのですが‥‥。
糸井
シンクロやビッグバンドは
ある種のあそびの部分なので、
いいのかなと思いますけど、
今回は林業という職業に絡んでいますからね。
矢口 (こくん、とうなずく)
糸井
ふつうの短いキャンペーンでは
そういうことはなかなかいえないでしょうし、
こういう対談でいっておくと、
ちゃんと伝わると思いますよ。
「ほぼ日」は、
こういうことのためにあるんです(笑)。
矢口
(「ほぼ日」担当者に顔を向けて)
ここは、ぜひ記事にしていただいて。
一同 (笑)
糸井
やっぱり、スクリーンの前に立ったときには
いえないですよね。
矢口
お客さんにそれをいってしまうと、
その情報が全てだと思われてしまいそうで。
でも、映画というものは、
ほんとうはそういう情報やメッセージではなくて、
気持ちの問題だと、ぼくは思っています。
糸井
わかります。
映画っていうのは、
気持ちがどういう旅をしたか、ですよね。
矢口
そう、そうなんです。
気持ちの旅をたのしんでほしい。
ですから、
ぼくはなるべくセリフで語らないように
気をつけています。
ほんとうにほんとうのことをいうと、
映画が公開されたあとも
全てを打ち明けられる場ってないんです。
ぼくがそれを言葉にしてしまうと、
「監督がそういってるんだから」と
捉えられてしまいます。
映画のほんとうのテーマはいえません。
ズバッと言葉にしてしまったら、
映画は作らなくていいってことになっちゃう。
糸井
言葉で済んじゃうということですもんね。
いえないですよね。
矢口
言葉で済んじゃうんだったら、
映画を作る意味はないんです。
(つづきます)
2014-06-06-FRI