第1回 毛の生えた場所。
宮坂 このBASE6を作るプロジェクトには、
ぼくはそんなに関与しませんでした。
立ちあげに関わったメンバーと、最初のところで
「どんなふうにしようか?」という話だけをしました。

ヤフーのような会社は、
インターネットを使って、
仕事のやりとりがどんどんできつつあります。
「もう、家でもできるじゃん」
「会社になんて、行かなくていいじゃん」
という感覚は、けっこうあります。

そんなふうに、行くところまで行っちゃうと、
ぼくらは、どうやったら社員の人がよろこんで
会社に来てくれるだろうかと考えます。
会社に来る理由を考えると‥‥まさにその、
「毛」なんですよ。
人がふらっと来て、毛を感じて、去っていく(笑)。
そういうものが会社の中にないとダメなんです。
BASE6を立ち上げる初期の打ち合せでも、
毛という言葉は使いませんでしたが(笑)、
「有機的な場にしてほしい」と伝えました。
糸井 とてもいいことですね。
そういう場所がないと、会社は
深刻な問題をかかえるような気がします。
実は学校が、とっくにそうなってるんじゃないかな。
つまり、「休んでもいいじゃん」というふうに
すぐになります。
宮坂 なりますよね。
授業だって、よその予備校に行けばいいわけだから。
糸井 効率よく何かを学ぶだけだったら、
インターネットですぐにでも
有名な大学教授の講義が受けられるわけです。
そうすると、学校に行く理由は
よくわからなくなります。
宮坂 そうですよね。
糸井 ぼくには、とてもできのいい娘がひとりいまして。
勉強がまったくできないのに、
学校を休みたくない子だったんです。
その理由はおもに、給食だったりします。
熱がある日に
「休めばいいじゃないか」
と声をかけても
「今日は焼きそばが出る」
と言って登校していました。
宮坂 それはきっと、いい学校ですね。
糸井 はい、いい学校です。
会社もおなじ。そういう要素があります。
みえみえの「役に立つやつ」じゃないところから
出てくるものが
ものすごく重要だったりしますし。
宮坂 それはほんとうにそう思います。
漫画の『SLAM DUNK』でも
メガネのプレイヤーが出てくるんですが、
バスケットの選手としてはたいしたことなくても
「彼がいてこそのチームだ」という描き方をします。
ああいう人は、ひとたび能力評価をすれば、
辛い点数がついたりします。
でもみんなが
「いないとまとまんねぇな」と思う人だったら、
ぜったいにその組織には大事な存在です。
ぼくとしては、そういう人の居場所を
作りたいと思っています。
糸井 これまで何度か書いたことがある話なんですけども、
スチャダラパーが、もうずいぶん前に発表した
「彼方からの手紙」という曲があります。
その歌が描いているのは、
みんなで旅に出て、川をたどって
源泉はどこにあるんだろう、なんて言って、
歩きまわっているシチュエーションです。
こういうのはとってもいいね、だけど、
ああ、ここにおまえがいたらな、って思う。
そんなふうに
「ここにおまえがいたらいいな」と思われる人同士が
人と人との組み合わせとして
いいなと思います。
宮坂 たぶん、「なんとなく一緒にいたい」とか、
そういうことなんですよね。
ただ仕事をやるために
会社に来るというのとは、ちょっと違う。
ネットが充実して
「家でもできる」ということになると、
なぜ六本木まで満員電車に揺られて
会社に来なければいけないのか、わかりません。
1時間かけて電車で来ると、
夏だとヘトヘトになるわけです。
糸井 そうでしょうね。
宮坂 朝10時に出社して、汗が引くのに30分くらいかかる。
メールをチェックして、返信して、
もうヘトヘトです、みたいな感じがある。
会社がもしも、つるつるした場所だったら
仕事は家でもできるかもしれません。
どうして会社に来るのかといえば、
やっぱり毛のある、
いっしょにいたい仲間がいるからです。
または、会社じたいに毛が生えているからでしょう。
糸井 もう、会社は毛がないとダメだな(笑)。
この社員食堂は地下だから、
「地下にある毛」ですね。
だってまず、社員食堂に起伏があるのがおもしろい。
目を閉じて歩いたら、つまずくし、転びます。
一瞬むだとも思えるべき場所に階段があるし、
山みたいになってて、
全体的に平らなところや直線が少ない。
壁面も、これは毛ですね。緑の毛だ(笑)。

宮坂 起伏や曲線というのは、
会社はもちろん、都会にも少ない線です。
田舎や、自然の中に行くとあります。
だから、曲線を見るために
ぼくらはわざわざ休暇を取ったりするわけですね。
糸井 自然が持っている偶然性のような情報に、
もともと人間はさらされていたわけです。
ところがこうして
整理された空間にいつもいることになった。
やっぱり、どこかが
退化していくような気がします。
宮坂 そういう意味もあって、ぼくらはいま
会社をオフィス(OFFICE)とベース(BASE)に
分ける実験をやろうとしています。
オフィスは、糸井さんのおっしゃる
「つるつる」の場。
それはそれで大切な場だと思います。
そことは別にベースを作ります。
糸井 自宅だと、それぞれが自分の感覚に合わせて
「毛」の場所を作ってるはずなんです。
だとしたら、会社もそのほうがいいですよね。
ぴかぴかのエレベーターから
ぴかぴかの受付を通って、というのだと、
息がつまります。
昭和の時代だと、ちょっと違ったぜいたくさに
みんなの気分が傾いていたような気がするんですけど、
いまは時代がよくなったのかな?
宮坂 そうかもしれませんね。
全体がフラットになったし、
カジュアルな人間関係が圧倒的に多い。
スペースについても、
カジュアルな空間のほうが居心地がいい感じがします。
2014-03-26-WED
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