たのしきかな、家族。〜山田一家 取り調べ帳

証言7 おじいのビルの入居審査は、目の前に出された黒いバナナを平然と食べるか否かでした。

ほぼ日 おとうさんのプレハブの話、
もっと聞きたいところなのですが、
『株式会社 家族』に登場した
「おじい」の部屋もまた、
すごかったようですね。
おじいは、かおりさんが
大阪ではじめて店を開いた際、
ビルの管理人だった方です。
おじいの部屋は、どうなってたんですか。
かおり おじいの部屋は、
プレハブじゃなかったです。
木でできた、手作りっぽい小屋でした。
まき うん。
ほぼ日 たしか、ビルの上に建ってたんですね?
かおり そうです。
おじいの小屋は、
自分が管理しているビルのいちばん上に
建ってました。
入居者は、契約のとき、
その部屋に通されるんですけれども、
そこで、まるでお茶のかわりというように、
バナナを出されるんですよ。
真っ黒になったバナナです。
なすび級に黒いんです。
ほぼ日 はぁ。
かおり まぁ、出してくれはったんやし、と思って
わたしはバナナを食べつつ、
契約書にサインしました。
そのおじいのビルは、
入居を断られることがあると聞いてたので。
ほぼ日 断られるんですか。
かおり はい。
ところが、わたしはまったく大丈夫でした。
あとになって
入居を断られた人に確認したら、
「そりゃあ、そのバナナやな」
という結論に。
 
ほぼ日 では、もしかして、
その真っ黒のバナナを
食べるか食べないかが分かれ道‥‥?
かおり そうやと思います。
ほぼ日 それはおもしろいおじいさんですね。
まき おじい、いつもぼろぼろの服着てたなぁ。
すごいロングヘアーで
ふだんはひとつにキッてくくって
ちっちゃーいお団子にしてました。
あとは、ぼろぼろの布を頭に巻いてた。
ほぼ日 なにしろぼろぼろで、
黒いバナナを出されると、
たしかにちょっとひるみますね。
かおり おじいは、
成立した契約書を「写真で撮れ」
っていうんですよ。
ほぼ日 コピーしないんですか?
かおり コピーを信用してないんです。
「複写しろ! 写真で撮れ!」
ほぼ日 あ‥‥これが、もしかして?
 
まき おじいです。
かおり 右側が、ちょうど
契約書を持っている写真です。
全 員 (たまらず)
はははは。
かおり おじい小屋の中にはお布団が敷いてあって、
いっぱいロープが下がっていました。
こっちを引っ張ると、あっちの電気がつくとか
動かなくてもいろんな操作ができるような
仕掛けになってました。
ビルは3階建てだったんですが、
階段にも、ロープがたらしてありました。
ほぼ日 ロープが、1階から3階まで?
1本のロープですか?
かおり 途中で、結ばれてた。
ほぼ日 何かを井戸みたいに引き上げるため?
かおり そう、引き上げるんですよ。
野菜とかを結びつけて、
つるつるつると上から引っ張るんです。
ほぼ日 野菜を。
かおり 野菜が階段をポンポンポンポンって
こすりながら上がっていきます。
ほぼ日 ボロボロじゃないですか。
かおり ボロボロになるんですよ。
全 員 (笑)
 
ほぼ日 かおりさんのお店は
階段の途中にあったんですか?
かおり わたしは2階でした。
ボンボンボンボン、
キャベツが上に行くのが見える場所です。
屋上の小屋の横には、
鉄棒のようなものがありまして。
ほぼ日 はい。
かおり おじいはよくそこで、
ぶら下がって
光合成みたいなことをしてました。
ほぼ日 ‥‥肝心なことを訊いていいですか。
かおり はい。
ほぼ日 おじいの、その
野菜をロープで引っ張り上げたり
鉄棒にぶら下がる行為について、
ご近所のみなさんは、
どう思ってらっしゃったんでしょうか。
かおり おじいのビルの隣には、
大きいビルがありました。
ほぼ日 はい。
かおり そこにはマガジンハウスとか
いろんな会社が入ってたんですけど、
昼休みになると、
みんなが光合成してるおじいを見たり、
写真撮ったりしてました。
ほぼ日 やっぱり名物に。
かおり 鉄棒のわきには桶とかもありました。
いちど、マガジンハウスに用事があって
隣のビルに行ったとき、
はじめてそこからおじいを見ました。
おじいは桶でシャンプーしてました。
全 員 (笑)
かおり 人魚みたいになってた。
みんな、そりゃ写真撮るわ
と思いました。
 
ほぼ日 おじいは何歳ぐらいですか?
かおり 90ちょい、でした。
めっちゃ自転車乗ってた。
まき うん。
元気やったなぁ。
かおり おじいは
100近くかなんかで、死にました。
自分に何かあったときには、
自分には姉がいるから
ここに電話してくれ、という
電話番号を書いたメモを
わたしは預かったんです。
おじいの姉とか、
絶対死んでるやろう、って思ったんですけど。
ほぼ日 そりゃまぁ‥‥。
かおり でも、一応電話してみました。
誰も出ないけど、
ずっと呼び出し音がするんです。
ほぼ日 回線が生きてるんですね。
かおり うん。でも、誰も出ない。
年に2、3回
思い出してはかけてるんですけど。
ほぼ日 へええ。
かおり 出たら怖い、と思いながら
電話してるんですよ。
ほぼ日 すごい話だなぁ。
まき そうそう、おじいがお正月に、
うちらにお料理作ってくれたこともありました。
 
ほぼ日 へぇ。
かおり おじいは生肉を瓶から出して
食べてなかった?
まき 食べてた?
かおり 瓶から生肉出てきて、うちら
めっちゃ怖がってたやん。
まき 怖かったけど、調理はしてたんちゃう?
かおり そうかなぁ。
おじいはとにかくお肉が好きでした。
肉、肉、っていつも言ってた。
行きつけの肉屋もあるし。
ほぼ日 お正月のときは、お肉のほかに
何か出たんですか?
かおり おじいが作ったお餅です。
自分で餅ついてたよなぁ。
ほぼ日 うそ!
かおり お正月が近い頃、
めっちゃビルが揺れたんですよ。
餅つきが原因やと思う。
ほぼ日 すごいなぁ‥‥。
ところで、今日の取り調べの成果は、
かつ丼じゃなくて、やっぱり
おじいの黒いバナナで
決まりですね。
かおり バナナをあそこまで黒くするには
そうとうな時間を要するので
いっそ、なすでもかまわないです。
ほぼ日 え? わ、わかりました、では
なすでいかせてください。
なす級のバナナを自然に食べられるかどうか、
けっこう難しい関門のような気がします。
(取り調べは、つづきます)
本日の取り調べの成果

おじいの黒いバナナに見立てたなす2本
(おじいはとにかく、すごいです)
※今回のこのコーナーのイラストは、まきさん担当です。

2010-06-08-TUE
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