スコップ団の現場では、
実は、誰からも指示がありません。
団長の平了さんがみんなに
「おし、やっぞ!」という
気合いの声をかけてくれたりしますが、
ほとんどそれだけだと思います。
現場に到着する、
道具を下ろす、とりかかる。
ただそれだけです。
それは、伺うお宅によって
状況がまちまちだからかもしれません。
家だけでなく、お墓や畑などを
「スコップ」する場合もありますから、
状況に応じた判断が必要になります。
人手の足りないところからは
「こっちを手伝って」と呼ばれます。
ゴミが溜まってきたら、荷物置場に走り
「ネコ車」を持ってきて運びます。
「ありがとう」と声がかかります。
ほぼ1時間ごとに休憩がありますが、
(夢中になってスコップで泥を掻いていると
「休憩しましょう」と肩をたたかれる、
といった具合です)
その休憩中も、特に
手順に関する指示はありません。
みんな笑顔で
「暑くないですか?」
「飲みものありますか?」
と声をかけ合います。
そうやって、各自の自己判断で
泥をすくい、大事そうなものをすくいあげます。
(もちろん、何をすればいいか
わからなくなったときには
周囲の誰かに訊けば教えてくれます)
ひとりひとりの感覚が重要なので
自分が「ただ作業する」のではなく、
「自分でやる」「自分できれいにする」
「自分でこれをすくう」という
自発的なものに変わっていきます。
スコップ活動は、家の中だけではありません。
たとえば、家につながる側溝。
ここが泥で詰まっていると
排水がうまくいかず、
雨が降れば家が冠水してしまいます。
この家につながる溝は泥がいっぱいに詰まり、
さらに草が生えている状態でした。
家のまわりから大きな道まで、
掘り進んでいきます。
慣れない炎天下の作業をした
ほぼ日乗組員2名(西田、佐藤)は
最初の30分がいちばんきつかった、
もうだめだと思った、
と言っていました。
しかし、休憩を取りながら
ねばり強く掘り進みました。
この溝からも
花瓶やカバン、財布、靴下、
どこかから漂着した
いろんなものが出てきました。
手のあいている人は庭へ移動。
草を刈って抜き、泥を取り払います。
津波の泥は、本来ここにあった土壌とは
質がちがいます。
それが、かなりの厚みで堆積しています。
掘って削って、
ようやくもとの土の色が見えてきます。
庭から
どなたのものかわからない
お財布が出てきました。
食器棚にしまってあった
ご家族が愛用していたお皿も、
泥をかぶっています。
洗います。
スコップ団が手に持っているのは
スコップだけではなく、
デッキブラシ、トンボ、
ちりとり、高圧洗浄機など。
状況に応じてみんなが手に持つ道具を変えていきます。
慣れてくるとだんだん
力や体力がない人でも
手伝える場所があることがわかってきます。
泥をかぶって元気がなかった庭木も
水をかけて泥を飛ばせば
いきいきと葉を広げます。
家も庭もきれいになったら、
スコップ活動は終了。
おうちの人から、
ごあいさつがあるときもあります。
この日のご主人は、こうおっしゃってました。
「実は、うちを取り壊そうかと思って
いままで手をつけないでいました。
でも、ここまでみなさんにきれいにしてもらって
壊すのはやめようかと思います。
暑いところ、遠くから来てくれた人もいて
ありがとうございました。
みなさん、くれぐれもからだに気をつけて」
これで住むところが確保されたわけではない。
そんなことは、みんなわかっています。
「まずは前に」「半歩でも前に」
そう思ってもらうことが
スコップ団にとってはたいせつです。
自分たちの道具を
自分たちのトラックに首尾よく積み込んで。
次の現場へと移動します。
(スコップ団のこと、つづきます) |