- ──
- みなさんの作品や創作風景を拝見して、
ひとりとして、
ほかの人と同じことをやっていなくて、
すごいなあと思いました。
それが「アート」ということなのかも
しれないんですけど。
- 山下
- ここでは、あれが当たり前の「日常」で、
ぼくらは、いかに、あの人らが
にこやかに穏やかに過ごせるか、
悲しくなったり不安定にならないかって、
それしか考えてなかったんです。
- ──
- ええ、ええ。
- 山下
- そこで何が生まれているのか、
その先どんなふうにやっていこうかって、
何にも、考えてなくて。
みんながよろこぶことだけをしていたら、
こうなってしまいました。
- ──
- 最初はアートをやろう‥‥じゃなく。
- 山下
- でも、こうしてみなさん来てくださって、
おもしろいねって言ってくれたり、
ただの土人形がアートだって言われたり。
障がい者と言われ続けていた
彼らへの見方が変化してきていることも、
おもしろいなあと思っています。
- ──
- アートや創作の活動をはじめるまえは、
通常の‥‥というか、
他の障がい者施設と同じような仕事を、
みなさん、されてたんですか。
- 山下
- そうですよ。内職というか、下請けの。
ようするに、
彼らの「こうしたい」ではなく、
少しでも
お金に変わるものをつくりなさいって、
ずーっとやってきたんです。
- ──
- ええ。
- 山下
- いや、いいんですよ別に、
それが彼らのやりたいことだったなら。
でも、どうしてもそうは思えなかった。
- ──
- なるほど。
- 山下
- というか、
彼らにしかできないことがあったんです。
とってもうれしそうに、
まるで見たことのないようなものを、
次々につくり出すんです。
- ──
- そのことに、気づいた。
- 山下
- はい、ぼくにできて
彼らにできないことがあるのと同じく、
彼らにできて、
ぼくたちには到底できないことも、
たくさんあると気づきました。
しばらくは、誰に知られることもなく、
ただただ、
生まれ続けるだけやったんですけどね。
- ──
- アートが日々ひっそりと、大量に。
- 山下
- まあ、彼らは作品だと思ってないかも
しれないですけどね。
ただ好きなように、
「描きたいときに、描きたいように」
描いてるだけで、
自分は芸術家なんだとか、
そんなこと考えてないと思うんです。
- ──
- そうなんですか。
- 山下
- 彼らのイキイキした表情を見ていると、
いかに社会に適応できるかとか、
どれだけ
就労に結びつくかみたいな考えかたが、
そもそもの間違いだったなあと。
- ──
- と、おっしゃいますと。
- 山下
- 彼らが社会に適応できるかどうかより、
ぼくら社会の側に、
彼らの能力を受け入れられるような、
正当に評価できるような考え方が
必要だったんだろうな‥‥というのが、
「PR-y」の活動から、
ぼくらが教わったことだと思いますね。
- ──
- あ、「PR-y」‥‥というのは、
ざっくり言うと、
アートディレクターの笠谷圭見さんが
プロデュースしている活動ですね。
やまなみのみなさんがモデルになって、
海外ファッションフォトグラファーが
かっこいい写真を撮って、
それを、ステキな写真集にしたりとか。
- 山下
- そっからですね。
ぼくらの意識が変わったのは。
- ──
- こちらでアートの活動をはじめたのは、
そもそも、いつからなんですか。
- 山下
- 施設ができたのは32年ほど前です。
設立から2年くらい経ったときに、
下請けの作業もしないで、
うれしそうに
落書きしている人がいたんですわ。
- ──
- ええ。三井さん‥‥でしたっけ。
- 山下
- ぼくらは、その絵がどうこうやなくて、
彼のうれしそうな顔と、
みずから何かに取り組もうとする姿を、
はじめて見た。
それまでね、ずーっといっしょにいて、
はじめて見たんです。
- ──
- 三井さんの笑顔、を。
- 山下
- 気づけてなかっただけかもしれません。
もっと、あの笑顔が広がればいい‥‥
くらいのところでスタートしたんです。
- ──
- で、最初のひとりが描き出したら‥‥。
- 山下
- はじめは、下請け仕事の苦手な人が、
できないからって
どんどん隅に追いやられていって、
そこから、
じょじょに広まっていった感じです。
今じゃもう、
そっちが主流になってしまいましたが。
- ──
- お部屋の「隅」から「アート」が。
当時、こういった施設で、
アートや創作をすることに対しては、
どういう雰囲気でしたか。
- 山下
- 少なくとも福祉業界のなかでは、
ま、否定的な反応がほとんどでしたね。
あそこは遊ばせてばっかりだ‥‥って。
- ──
- あー‥‥。
- 山下
- ご家族のかたからも、粘土や絵なんて
保育園でやること、
せっかく社会に出たんだから、
手に職をつけさせくれ、
字のひとつも覚えさせてくれみたいな。
- ──
- そういう意見に対しては、どう‥‥。
- 山下
- はたしてそれが本人の願いなのかって。
手に職を、字をひとつ‥‥というのは
関係者の願いや理想ですし。
- ──
- 本人じゃなく。
- 山下
- ですから、まわりがどうこう言おうが、
本人の本音に向き合うってことを、
ぼくら、続けてきただけなんですよね。
- ──
- 社会性も、お金も、
規則やルールも大事かもしれないけど、
それで、ぐるぐる縛られたら。
- 山下
- だから、ここでは、環境をつくるのが、
ぼくらの仕事なんです。
彼ら自身が安心できる時間と空間、を。
たとえば、
「机の向き」ひとつを工夫することで
気持ちよく好きなことができて、
それだけで、
にこやかに過ごせる人たちなんですよ。
- ──
- はい。
- 山下
- 物理的困難は、あるかもしれない。
でも何もわからない人じゃないんです。
むしろ、
ぼく以上にいろんなことを理解してる。
- ──
- そう思われますか。
- 山下
- 思いますね。
自分のやりたいことで褒めてもらえる、
認めてもらえるって、
誰にとっても、
何より嬉しいことだと思うんですよね。
- ──
- そうだと思います。
- 山下
- 自分や自分の行為が大切にされている。
ここが、そう思える場所だからこそ、
いろんな気持ちが、
表現として生まれるんじゃないかなと。
- ──
- なるほど。
- 山下
- 自分の描いた絵を評価してもらえる、
そのよろこびって、
どんな重度の人たちにも届くんです。
- ──
- そう‥‥ですよね。
- 山下
- 障がいがあるからって、
辛く悲しい思いをしてきた人たちが、
誰にも邪魔されず
自分自身の世界を築くことで
結果を出して、
世の中で正当に評価されてるんです。
ざまあみやがれと思いますね。
- ──
- 施設長、ロックです。
- 山下
- でも、それも、この笠谷さんみたいな、
彼らの作品を見出して、
社会と「つなぐ人」がいてくれたから。
そうじゃなかったら、
いつまで経っても、彼らは、
人知れず
「変わった粘土を捏ね回してる人たち」
のまんまだったかもしれません。
<つづきます>
2019-07-13-SAT
やまなみ工房のアーティストの作品を、
TOBICHI2に展示します!
山下完和(まさと)施設長はじめ
やまなみ工房のみなさんが、
滋賀から車で運んできてくださいます。
やまなみ工房まで行かずとも、
直に作品を鑑賞できる貴重な機会です。
また会期中は連日、
19時30分~20時30分のスケジュールで
『地蔵とリビドー』を上映します。
会場はTOBICHI2で、料金は1000円。
料金の中に山際正己さんの作品
「正己地蔵」代が含まれていますので、
当日ご観覧くださったかたは、
お好きな「正己地蔵」をお持ち帰りいただけます!
今後、東京近郊での上映は未定なので、
どうぞ、おみのがしなく。
ぜひ、展示作品を鑑賞したあとに、
ドキュメンタリーを観て帰ってください。
初日18日(木)の上映終了後には
山下施設長と
映画を撮った笠谷圭見さんの
アフタートークを開催(30分の予定)。
詳しいことは、
こちらの特設ページでご確認ください。
- 会期
- 7月18日(木)~28日(日)
- 時間
- 11時~19時 ※会期中無休
- 会場
- TOBICHI2
- 住所
- 東京都港区南青山4-28-26 MAP
- 料金
- 無料
- 会期
- 7月18日(木)~28日(日)
- 時間
- 19時30分~20時30分 ※1日1回上映
- 会場
- TOBICHI2
- 住所
- 東京都港区南青山4-28-26 MAP
- 料金
- 1000円(正己地蔵1体つき)
参加方法など詳しくは、こちらの特設ページで。
協力:RISSI INC
8月24日(土)~8月30日(金)
「地蔵とリビドー」上映
@京都シネマ:20時20分~
※初日のみ、笠谷監督・山下施設長の舞台挨拶あり
〒600-8411
京都府京都市下京区水銀屋町620
COCON KARASUMA3F
https://www.kyotocinema.jp
8月24日(金)25日(土)
DISTORTION3 2020SS
@しまだいギャラリー:11:00~19:00
〒604-0844
京都府京都市中京区 仲保利町191
http://shimadai-gallery.com
8月16日(金)~8月26日(月)
「いのちといのちーやまなみ工房のいとなみ」
川内倫子写真展
@アンテルーム京都:11時~21時
※17日(土)17時より18時30分まで
川内倫子と施設長・山下完和のトークショーあり
〒601-8044
京都府京都市南区東九条明田町7
https://hotel-anteroom.com/