第9回 歌のなかの、わたしの居場所。 |
糸井 |
坂本くんとの話の中でも、
俺は同じようなことを思ったんだよ。
坂本くんとの間では、
矢野顕子はけだものだから、って。
ていうかもう暴風雨だからね。 |
矢野 |
暴風雨! |
糸井 |
自然現象として扱ってたから。
津波が来た時にどうよけるかって、
そんなのないんだから。
津波とは何か? じゃないんだから(笑)。 |
矢野 |
あっはっはっは! |
糸井 |
もう、男達はごまかすしかないわけだよ。
今日は、かわいくおサルとか言ってるけど、
暴風雨と同じ意味ですよ(笑)。 |
── |
ところが、ちゃんと人間の部分があったと。 |
糸井 |
や、そこはね、うすうす感じてたんですよ。
他人の歌を歌う矢野顕子は怪しいなと思ってた。 |
矢野 |
あはははは! |
糸井 |
暴風雨はうまいこと迂回したりね、
どうしてこの時にここに雷が落ちたんでしょうね、
みたいなさ(笑)。 |
矢野 |
意図的です(笑)。 |
糸井 |
そうとしか思えない何かがあるんだよ(笑)。
すごい何かが。 |
── |
その曲を歌われた本人にとっては、
もしかしたら場合によっては、
その人が、この歌でこれが言いたかったんだよ!
じゃないところを
矢野さんがピックアップしてることも、
きっと多々あるんでしょうね。 |
矢野 |
たぶんね。 |
糸井 |
アッコちゃんが歌うと、
全部クリアになりますよね。思想が。
例えば、宮沢くんが若い時に作った
「中央線」って歌。
男の子が歌を作る心って、
こんな僕でいいかな? っていう
プロポーズなんですよ。
ところが、この人が「中央線」歌うと、
そのことよりも、
「走れー!」みたいな。
「どこまで行くんだー!」(笑)。
銀河鉄道になっちゃうわけだよ。 |
矢野 |
ははは!
「乗り遅れんなよ!」(笑)。
「行くから。わたしは!」って。 |
糸井 |
逃げ出した猫を探しに出たとこなんか、
完全に、何て言うの、
おかずになっちゃってるわけ。
そのかわり、一本、思想が通るわけ。
そうすると、作った本人は、
え? 俺、そういう歌作ったっけ?
って絶対あると思う(笑)。 |
矢野 |
そうだよね。あるある。 |
糸井 |
男の子の作る歌は、
みんなそんなようなもんなんです。 |
矢野 |
前に「ロッキングオン」てところで、
インタビューされた時に言ったんですけど、
女性が作った歌に、どうしても、
わたし、感情移入できない。 |
糸井 |
ああー。 |
矢野 |
今まで女性が作った歌でレコードになってんの、
大貫妙子くらいで。 |
糸井 |
「横顔」だっけ。 |
── |
「海と少年」もそうですね。 |
矢野 |
けど、中身男ですからね。 |
糸井 |
うん。 |
一同 |
(笑)。 |
糸井 |
大貫妙子は男だからね(笑)。 |
矢野 |
色んな歌を、昔の歌もふくめて
聞いてるんですけど、
だいたいもう聞き尽くしちゃってる(笑)。
新しい、今作られてる歌も聞くんですが、
女性が作った歌って、ほんっとに難しいのよ。 |
糸井 |
はあー。 |
矢野 |
なぜかって言うと、
どこまで剥いても剥いても、
わたし! わたし! ここにもわたし!
わたしを見て! って、
ぜーんぶ「わたし」なのね。 |
糸井 |
うんうん。 |
矢野 |
で、男ってね、そうじゃないんですよ。
俺ここにいてもいいかな? っていう俺なの。 |
糸井 |
そうだよね(笑)。 |
矢野 |
その俺は、いてもいいよって。
でも、わたしここに入るからって。 |
糸井 |
歌の中に、アッコちゃんが入る場所があるわけね。 |
矢野 |
そう。共存できるわけ。
ところが、わたし、わたし、って言われると、
このわたしは入れないのね。 |
糸井 |
ああ。 |
矢野 |
だから、もしかしてわたしは男か? って、 |
糸井 |
ていうか、その歌と、人間として
一緒に仕事をしたいわけだから。 |
矢野 |
そうなんだよね。 |
糸井 |
だから、歌詞に隙間がないと、
わたしが入れないんだから、
仕事になんないよってことでしょうね。
そのまま売っとけば? ってことでしょ。 |
矢野 |
そう、そう。そうなのよ。 |
糸井 |
曲はきっと、取るところが
みんなあるんだと思うよ。
アッコちゃんから見ると。
すごくへたくそな曲でも、
「わたしが取れば大丈夫」でしょ? |
矢野 |
そうそうそう。
わたしが来れば大丈夫、
っていうのありますよ。 |
糸井 |
この人の恐ろしさ、そこなんですよ。
つまり、誰かさんが、鼻歌で
つまんない、古臭い、おじさんが歌ってたような
メロディで、なんかをつぶやいたとしても、
わたしがそれをつぶやけば(笑)。 |
矢野 |
だいじょぶ。 |
── |
歌だから! |
糸井 |
駄作がないんですよ。曲には。 |
矢野 |
とんでもない話ですよね。 |
糸井 |
たぶんそうだと思うんだ。
ほんとにそう思ってるでしょ? |
矢野 |
うん。
でも、それ、自信があるって
ことじゃなくて。
こういう形だから、もう、
暴風雨は止められない、みたいなね。 |
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2006-12-06-WED |
(明日に、つづきます!) |