矢野×糸井
最終回 場所を変えるのって、
    すっごい大事!
糸井 どっかで終わりにしなきゃなんないって
気持ちがね、あるよ。俺なんかもう。
矢野 そお?
糸井 嫌がられてやってるわけにもいかないんだね。
矢野 そういうのはあるね。
糸井 高校野球の応援席に、OBってTシャツ着て
応援してる人たちがいるんだけど、
やっぱりね、あんまりいいもんじゃない。
若々しい人たちが映ってるところではね、
「わたしはもうけっこうですから」と、
こういう風にしないとね(笑)、まずいと思った。
矢野 ふうーん。
糸井 そろそろね、引っ込もうと思って。上手に。
用意してるよ。色々。
矢野 ほんと?
糸井 引っ込んでも大丈夫なように。
矢野 ね、ね、京都に引っ越ししたの?
糸井 引っ越しはしてないんだけど、
もともと僕がこっちにいるのは
借家で暮らしてたから、家を京都に作ったの。
矢野 あ、そう。
糸井 そこに、月に1週間のつもりで、
いようかなと思ったんだけど、
なかなかそうはいかないけどね。
矢野 犬はどこにいるの?
糸井 犬は一緒に行くの。
新幹線270円払って。
矢野 えー! 270円で行けるの?
糸井 うん。
矢野 おとなしーくしてるの?
糸井 してる。いい子だよ。
矢野 ほんとー。
糸井 タクシーが家の前に着いて、
さあ料金を払うっていう時に、
フ〜ンって言うだけですよ(笑)。
矢野 へえ!!! ほんとー!
糸井 ちょっといいでしょ(笑)?
新幹線のなかでは、風呂敷みたいなのかけて、
たまにこう見ると、
こっちをじっと見てるよ(笑)。
矢野 かわいい〜。
糸井 おもしろいよ。
犬がいるんで京都に尚更行きたくなる。
犬の散歩とかしやすいじゃないですか。
田舎だから。
田んぼとか山のあるとこですから。
矢野 あ、そうかぁ。そうだねえ。
じゃあ、市街地じゃないところの京都?
糸井 市街地まで2、30分で行っちゃうんだよ。
車で。京都って狭いから。
矢野 ふうん。
糸井 だけど、なんかね、あるところを境にして
急にとんでもなく田舎になるんで。
そういう構造になってるらしくて。
その感じがいいんでしょうね。たぶん。
矢野 ふーん。‥‥じゃあ、生活は。
糸井 ほとんどはもう東京なんだけど、
休みがてらというか、空気換えるみたいな
つもりで1週間くらいむこう行って、
まあ、ネットで仕事はできるしみたいな。
で、またこっち来て。
月に1回っていうのは無理だったっていうのは
わかったね。
矢野 あ、そうか。
糸井 それよりは固めて行っちゃった方が、
差し支えがない。
矢野 ああ、なるほどね。
── じゃあ、徐々に京都生活を多めに?
糸井 や、そうもいかないでしょうねー。
そういう長くいてみたいなと思った時には、
その準備が必要だなあ‥‥。
ただ、東京にいると全部同じサイクルで
頭の中動くから、
アッコちゃんのニューヨークもそうだと思うけど、
場所変えるってすーごい‥‥、
矢野 大事!
糸井 ねぇ? で、特に管理的なことじゃなくて、
クリエイティブなことは場所変えただけで
全部刺激になるから、助かりますよね。
ニューヨークはほんとによかったよね。
寿命を長くするよね。
矢野 そうだね。そう、だね。ずっとわたしは、
あのまま日本にいたら、
今こういうことやってないと思うしね。
糸井 違うだろうね。
矢野 最高に贅沢かなあって。
糸井 それを思い切ってやったのがよかったんだろうね。
矢野 何も考えてませんけどね(笑)。
糸井 ああー。や、旅、何て言うんだろう。
住む場所を変えるんじゃなければ、
旅に出ることでしょうね。
なんでもいいから、
安定しないところに
自分を立たせるっていうことを
する必要があるよね。きっと。
矢野 違う空気を吸うっていうだけでも、
やっぱり圧倒的に違うよね。
糸井 だから、病気した人とかも
けっこう強くなったりするのも、
まったくそういう仕掛けだよね。
視線が変わるわけでしょ。全部。
あるいは借金して倒産したんだよ、とかね。
みんな、つらい目に遭って来た人が、
なんかね、しっかりした人になってるっていうか、
矢野 逆境がね。
糸井 望んでできることじゃないからなぁ。
‥‥たぶんそうだと思う。
ニューヨークがほんとよかったんだと思う。
たぶん。
矢野 ですね。
糸井 僕はまだわかんないけど、
月1週間っていうのを
なんとか実現したいなあって。
ずっと社長やるっていうのはね、
重苦しいんですよ。
つまり、あの人はいないんだくらいに
思って動いてくれて、ちょうどいいね。たぶん。
その、頼りにされてるうちはだめだっていう風に、
今俺はシフト変えてますからね。
「これ、いいな。誰考えたんだ?」って言って
俺だったりすると、それじゃだめなんだよ、
って思うのよ(笑)。
それを変えてったら、ほんとに俺が、
もっといいことできるんですよね。
さっき言った、人間矢野顕子の方が、
おサルの矢野顕子を使う、
みたいになるわけじゃないですか。言わば。
矢野 うん。
糸井 で、おサルがいっぱい集められるから、
人間矢野顕子としては、もっと一次元、
大きいこともできますよと。
そういうことをやる年になったような気がするね。
  2006-12-11-MON

(この対談は、これにておしまいです。
 ご愛読、ありがとうございました。
 矢野さん、また、遊びにいらしてくださいね〜!)
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